「脚本が書けない」上田監督と俳優が向き合った会議

座談会に参加した映画「スペシャルアクターズ」出演の俳優陣。前列左から津上理奈、仁後亜由美、大澤数人、河野宏紀、清瀬やえこ、川口貴弘、後列左から南久松真奈、櫻井麻七、上田耀介、富士たくや、三月達也、山下一世、原野拓巳、宮島三郎(撮影・村上幸将)

<上田慎一郎監督「スペシャルアクターズ」俳優14人座談会その1>

製作費300万円のインディーズ映画ながら、興行収入31億円超を記録した「カメラを止めるな!」の、上田慎一郎監督(35)の劇場長編第2弾「スペシャルアクターズ」が公開された。東京都内の2館で封切られ、全国375館にまで拡大と、日本映画史に残る大ヒットを記録した「カメ止め」に続き、上田監督は「スペアク」でも俳優18人をオーディションで選び、起用した。公開を記念し、18人中14人のキャストが集合し、初…そして唯一のキャスト座談会を開いた。1回目のテーマは「書けないと吐露した上田監督と企画会議で語り合ったこと」。【聞き手・構成=村上幸将】

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上田監督は、「スペアク」クランクアップから数日後の、6月初旬に日刊スポーツの単独取材に応じていた。その中で脚本作りが難航し、オーディションで選んだ俳優陣に1度、決めた企画のリセットを宣言し、会議でアイデアを求めたと明かした。

上田監督 1回、この企画でいくと決めて、20ページくらい脚本を書いたんですけど「やめます!」とギリギリでやめたことがあったんですね。ワークショップで選んだ俳優15人の前で「今、プレッシャーに押しつぶされそうで…ちょっと1回、書いたけども、これを振り出しに戻して、もう1回、0から企画を考えてみます」と言ったことがありました。

上田監督が当初、立てた企画は「マジカル・スパイ」。ポンコツ超能力者たちがスパイ集団となって、日本の危機を救うというSFものだった。まず座談会では、上田監督との企画会議から振り返ってもらった。

-皆さんが出したアイデアは?

三月達也(大和田克樹役=46)僕が、すごく覚えているのは…その日は初稿を持ってくる日で、みんな楽しみにして行ったら、上田監督が「すみません、書けませんでした」って言った瞬間、笑いながらだったんです。それが逆にグッときて…。「(周囲に)泣きそうになったわ」と言ったんです。

原野拓巳(原田拓己役=28)無人島、病院とか、どういうシチュエーションでやるかというテーマが出ました。

櫻井麻七(七海役=27)(キャラクターが持つ)超能力×○○(シチュエーション)にするか…その○○を、みんなで決めていくので提案、お願いしますということでした。

清瀬やえこ(清水八枝子役=29)結局、超能力は何でも飛び越えて出来てしまうから、映画の面白みがなくなってしまうから結局、超能力は出来ない方がいいんじゃないか? という話になりました。出来ないけど、それを演技とか映画の魔法によって出来るみたいな、それを作る裏方ものにした方がいいのでは? ということになりました。

上田耀介(田上陽介役=27)各自のやりたいことと、苦手なことを挙げる…初歩的なところから、もう1度、考え直そうみたいな話になったのは覚えていますね。

富士たくや(富士松卓也役=44)あと、自分が将来、どういう役をやりたいのか? というのが今回、反映されています。

清瀬 みんな1人ひとり、アンケートみたいに項目が出されて、それについてシンキングタイムが与えられて、ずっと考えて発表していく形でした。その時、言ったのは、とにかく戦っている女性を演じたいですと伝えました。日常の中でもいいですし、物理的にでもいいですし、何か問題を抱えていて、立ち向かうでもいいし、普通にアクションでもいい。「美少女戦士セーラームーン」と「風の谷のナウシカ」が大好きなので。(富士松鮎役の)北浦愛ちゃんは「金髪になりたい」と言ったのが反映されました。

無名の俳優陣の中には、演技が未経験のOLや、結婚相談所で働いていた人間もいれば、東京・丸の内ピカデリーでワールドプレミアが開かれた9月25日に、直感で兵庫県から上京した変わり種もいる。

川口貴弘(河田隆弘役=42)結婚相談所で働いていたのは、僕です。普通に相談に乗って50組、成立させました!! 

三月 僕ら、割と年長なんで口が立つんです(笑い)僕は、今はやっていないんですけど役者をやる前、介護福祉士の免許を持っていて老人ホームで10年、働いていました。

津上理奈(津川里奈役=27)私は会社員で、上田監督の「カメラを止めるな!」が好きで、池袋シネマ・ロサと新宿K'sシネマにも行っていました。監督がキャスト募集をされているのを知っていて、友だちと一緒に応募しようと言っていた中で結局、応募したのが私だけだったんです。応募の時に「顔と全身が映った写真」という条件があって、家に全身が映る鏡がなかったので会社で撮りました。薄暗く(首に)社員証がかかったままの写真になりました(苦笑い)みんなが、どんな写真を送るか、全く想像していなかったのですが、上田監督から「社員証くらい、取れよ」と、すごく突っ込まれました(笑い)

上田 僕はバーテン、やってました。あの日(完成披露の日)の午前中に上京しましたけど…ヤバいですね。自宅に家具が何もないです。(苦笑い)東京は、人の数もヤバい…駅とか、人が多い。

櫻井 スイミングスクールのインストラクターをやってました! 役者を始める前です。

清瀬 エロいっ! 想像しちゃった。

中でも、経歴が際立っているのが、主人公の大野和人を演じた大澤数人だ。俳優ながら、「スペアク」での主演を含め、10年間で3回しか芝居していない。

大澤数人(大野和人役=35)はい…そうですね、それだけです。

-役者をやっていることを伝えていたのは母と友人だけとか?

大澤 お母さんには言っていたと思っていたんですが…今回、言ったら、知らなかったみたいなので、友だち1人だけですね。

-10年間で芝居3回…その間、何をしていた?

大澤 アルバイトをしておりました。

-では、今回、演じた役どころと実生活がリンクしているのでは?

大澤 そうですね、はい…貧乏ですし、リンクしております。

-上田監督は撮影の前半、怖かったとか

大澤 そうですね…。えぇと、ワークショップの時は優しかったのに、撮影が始まったら「ちゃんと、せぇ!」みたいな感じで。それが普通だと思って過ごしていたら、富士さんがとちった時に、すごく優しかった。それを見て(自分とは対応が)違うなと思って。でも後から、監督が僕の緊張を解かせないために、わざとやられていたことが分かって。

-弟の宏樹を演じた河野宏紀と一緒に、何を思って兄弟を演じ、関係性を作ろうとしたか?

上田 2人だけの時間、作ろうとしていなかった? 休憩時間に弁当を食べましょう、だったり、そういうところから作ろうとしていた。2人で何回か飯に行ったり…。

大澤 はい。どうおもって演じてたかは…。

三月 役の話とかも、してたの? それとも、役柄に関係ない?

大澤 バックボーン…ですね。母親が何歳の時に亡くなって、何歳で兄が先に上京して…みたいな話をして、ですね。

-設定はなかった?

大澤 上田さんが、それぞれの役を、もっと映画に映らない部分を掘り下げて、と…。

富士 1人、1人、自分の役だったらどうするか、どこに住んでいるかなどをシミュレートするよう、その役が、どう過ごしてきたかの履歴書を書くよう、宿題を出されまして。

清瀬 家賃とか月収とか、収入の内訳や食べものとかも…。(アイデアは)多少、脚本にも入っていると思います。

-単なる出演者ではなく、一緒に作った感じ?

三月 企画会議もそうだし、オーディション、ワークショップ、宣伝会議にも役者18人を呼んでくれたので、本当に最初から最後まで、このメンバーで過ごしている感が、すごくあるから、もちろん役者だけどチームで今日は撮影、次は宣伝みたいな感じで、割と短期間でキュッと固まっている感じはあります。それが映画に出ていたらといいなぁと思いますね。

次回は、座談会に参加した14人に「カメ止め」で見た夢と、上田監督の作品に出演した現実とのはざまに立つ、今の思いを聞く。