望まぬ「有名」に戸惑い…グラドルを襲ったコロナ/下

取材に応じたソラ豆琴美(本人提供)

<ソラ豆琴美のコロナ闘病記:下>

グラビアアイドルのソラ豆琴美(27)は4月上旬に新型コロナウイルスに感染し、入院治療を経て回復し、21日目(入院16日目)に退院した。

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入院初日、医師からアビガンなどの適応外使用について説明を受けた。医師によると「妊娠やその可能性があると(胎児に奇形を起こす)催奇形性の可能性がある」といい、服用には同意書にサインと、妊娠検査が必要と言われた。副作用が強力なため、当時平熱だったソラ豆は1度断った。だが、発症から9日目に容体が急変し、アビガンを服用。5時間後には歩き回れるようにまで回復したという。

感染前「自分はならない。感染しても若いから何とかなるだろう」と考えていた。入院時「軽症者」と医師から言われ「若い人は軽症で済むという話を信じていたので、普通に私は軽症でよかったな」とも思った。ただ、実際は「思っている『軽症』とは違った」。

意識がもうろうとし、寝られない日々が続く。「本当に私、呼吸しているのか」。高熱が続く中「今は意識あるけど、目が覚めなくなるんじゃないか」。ずっと「明日が来ないんじゃないか」と恐怖を感じていた。

「軽症」の意味を勘違いしていた。「軽症」と言われていた段階でも、思っていたより、苦しくて辛い。風邪の場合、熱が37・5度は「寝込むまでだるくはならないが、コロナの場合『えっ、こんなにだるいのに37・5なの』という感覚。風邪でいうと38度以上の高熱が出ている感覚だった」。1日の中でも体温の変動が激しいが「ちょっとの熱の変化がすごい体に来る」。

「軽症者」だから病院には必要以上の迷惑を掛けられないと思い、ナースコールを押すことをためらった。急変後、母から電話で「ナースコールを押して」と泣いて頼まれた。「母があの時泣いていなかったら…」。自宅療養中に死亡した患者のニュースを見ると、人ごととは思えないという。恐怖からニュース番組は1人で見られず、ニュースを見るときは友達に電話をつなぎながら一緒に見ているという。

「死ななかったから平気だったという訳ではない」。闘病してそう思う。結果としては回復できたが、死ぬかもしれないと本気で考えることになるのは「想像つかないほど、辛いことだと分かって欲しい」。

友人から数日前、「飲みに行こう」と誘われた。ソラ豆が感染したことを知らなかった友人だった。「実は…」とコロナに感染して、退院した今も外出自粛をしていると断った。それでも友人は「いや、大丈夫でしょ。みんな気にしないからおいでよ」と話したという。闘病生活を体験した今だからこそ、こんな状況は変えていかなければいけないと思う。

退院後も「今でも人に会うのが怖い」と話す。退院から2週間が外出自粛期間とされているが「50歳を超えた母とは1カ月くらいは会わないつもりです」。

自粛疲れからか、町では外出する人が増えていると感じている。「感染しないと実感が沸かないからだと思う」と以前の自分と重ねた。不要不急の外出をした人が、無症状なだけで、本当は感染していたとすれば「人の命を奪ってしまうという可能性があることを特に分かって欲しい」。自分の存在が他人の命を奪う可能性がある。本当にその行動は必要なのか。「改めて自分の行動を考え直して欲しい」。

ウイルスとの闘いは長丁場が予想されており、先も見えないが「『自分のため』が『他人を守る』ことにもなると思うので、どうか自粛をして欲しい」と訴えた。

苦しかったのは新型コロナの症状だけではなかったという。「症状が辛いのもありましたけど、それを超えるメンタル面での辛さが結構きますね」と、誹謗(ひぼう)中傷や差別への思いを口にした。「なりたくてなったわけではない」が、感染公表後「売名だ」などの声がSNSを通じて寄せられた。「こんなことで有名になんてなりたくなかった」。今後、社会復帰する上で「ソラ豆琴美=コロナ」になる可能性も恐れている。

「誰にでも感染する可能性はある。感染しても、誰のせいでもない」と思う。犯人捜しが続く今の世の中に息苦しさも感じている。疑いの目は、感染者だけでなく、その家族にも向けられる。子供と関わる仕事をしていて、発症の2週間前から1度もソラ豆と会っていない妹は、職場で数日間、仕事を制限されたという。

自宅で自粛隔離中の今は、体力的にも、精神的にも疲弊しきっている。「今はただただ休みたい」。タレント活動の事を考えても、以前のように楽しい事が思いつかないという。味覚嗅覚も完全には戻っておらず、せきは癖になっている。疲労からか、寝られない日々が続いているという。

緊急事態宣言が延長され、国民のイライラは高まっている。誰が悪い、など犯人捜しが多くなり、他人のせいにすることが増えているとも感じている。「自分のために頑張ろうではなく、何をすることが人のためになるかを考え、もう少し良い環境にならないかな」と思う。闘病中、感染リスクがある中でも嫌な顔一つせずに、笑顔で看病してくれた医療従事者への感謝は計り知れない。

ソラ豆は今後について、「再感染しないなら、なにか新型コロナ対策に関わるボランティアがしたい」と話す。「きれい事なのかな」と弱気にもなるが、「環境が整って、社会貢献できる仕事があるなら、人の助けになりたい」と思っている。

取材はソラ豆の体調を考慮し、複数回に分け、電話やメールで行った。合計で数時間に及んだ取材の最後、ソラ豆は「みんなで助け合えたらいいな…」と話した。【佐藤勝亮】

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◆ソラ豆琴美の感染経緯

▼発症日(4月上旬) 熱37・5。保健所に電話

▼3日目 PCR検査

▼4日目 味覚嗅覚失う

▼5日目 陽性判明

▼6日目 入院。熱36・5。CT検査で肺炎にはなっていなかった

▼8日目 容体が急変

▼9日目 熱38・9。アビガン服用開始

▼10日目 熱37・6。辛さが10→4

▼11日目 熱37・5。せきの量が減る

▼12日目 熱36・5。4日ぶりに風呂。たんが黄色→透明に。辛さ10→2

▼13日目 PCR検査

▼14日目 「陽性」。朝でアビガンを飲み終える

▼17日目 PCR2回目

▼18日目 「陰性」

▼19日目 PCR3回目

▼20日目 2回目の「陰性」。医師と初めて握手

▼21日目 退院

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◆アビガン 富士フイルムHD傘下の富山化学工業が開発した薬。一般名はファビピラビル。新型コロナウイルスのようなRNAウイルスの複製を阻む。厚労省のホームページによると、動物実験において初期胚の致死及び催奇形性が確認されている。妊婦または妊娠の可能性がある人には投与できない。妊娠する可能性のある女性、させる可能性のある男性には、投与期間中及び投与終了後7日間は、極めて有効な避妊法の実施が必要とされる。5月中の薬事承認を目指している。

◆ソラ豆琴美(そらまめ・ことみ) 1992年(平3)5月20日、神奈川県生まれ。歌手、グラビアモデル、ライブアイドルなど幅広く活動。芸名は4文字名字に憧れがあり鼻歌まじりに考えた結果、そらまめに決定した。11年、活動開始。14年、TSUTAYAプリンセス2014グランプリ。16年1月、芸能界を引退したが、同5月活動再開。身長159センチ、血液型B型。