伊沢拓司さんクイズで伝える学ぶ楽しさ/プロに聞く

水槽越しにカメラを見つめるクイズプレーヤーの伊沢拓司(撮影・江口和貴)

東大現役合格の頭脳を生かし、難問、奇問を次々とクリアして、クイズ界のトップを走る伊沢拓司さん(26)。受験シーズン真っ盛りの今だから、聞いてみた。受験について、東大について、クイズについて、「学ぶ」ことの意義について。

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-今年も受験の季節がやってきました

伊沢 受験生は、合否が出るまで不安な毎日でしょう。でも、今の時期は不安と一緒に進むしかない。焦る気持ちも分かりますし、当然のことです。焦る自分に焦ってパニックに陥らないことが大事です。

-伊沢さんと言えばクイズ。クイズが強いと受験に有利ですか

伊沢 明確なゴールとルールが示されて、その中でいかに努力するか、という考え方と対策の立て方はクイズから学びましたね。でも高2までの5年間、1日12時間、クイズ漬けの毎日でしたが、クイズで得た知識が受験に役立ったとは、あまり感じません。

-暗記とか詰め込みとか役に立ちそうですが

伊沢 やみくもな暗記が、クイズや受験だと考えているなら、それは誤りです。受験勉強は大学で学ぶための基礎的な知識を身につけるためのもの。学問を論理的、構造的に理解するための知識の習得です。詰め込みも、きれいに詰め込めばいい。今、受験で求められている発想力や思考力も、元になる知識がないと生まれません。暗記を否定し、思考や発想とは逆のものだととらえるような風潮は、とても残念です。

クイズに強い人たちは、本を読み、現場に行き、ニュースを追って、もちろん過去問も詰め込んで、さまざまな知識を得ています。断片的な知識も、体系的な学びも、どちらも必要です。知識を役に立つかどうかで測ること自体が無意味です。クイズという遊びの懐の深さをもっとアピールしたいですね。

-東大だからクイズに強いのでしょう

伊沢 東大とクイズを結びつけるのは間違いです。東大で学んだからクイズに強いわけじゃないし、僕自身も東大と何ら関係なくやってます。僕の肩書は「クイズプレーヤー」。つまり「クイズで遊んでる人」。東大を出て遊び人になったということですね。でも、学ぶ楽しさを伝える立派な仕事だし、大学は職業訓練校ではないので、これでいいんです。

-でも「東大王」「クイズ王」は伊沢さんの代名詞みたいになっています

伊沢 テレビに出る上で簡潔に経歴や肩書を説明する必要があって、「東大」を利用した面もあります。視聴者に「東大だからクイズに強い」という誤解を与えたことは申し訳ないと思いつつ、これからは「東大」を剥がしていきたいですね。

-せっかくの「東大」を剥がすのですか

伊沢 権威が崩壊したと言われる現代において、東大は数少ない権威のとりでかもしれません。でも、東大だから偉いわけでもないし、「いい大学」という概念自体あいまいなものです。どんな大学でも、そこで何をするかという目的意識こそ大切です。目的に優劣はないし、大学の格も関係ありません。そういう意味でも今後は「東大」という看板と、より上手に付き合いたいですね。

-自身が東大卒だからそう言えるのでは

伊沢 その側面は当然あります。逆に、東大の中を見たから言える。中高を出て働く、専門学校に行くなど多様な選択肢の中、なぜ大学なのか。よく考えるべきだった。大学が何かをしてくれるわけではなく、自分がそこで何をするかが大事だった。僕は考えずに進学したので、後悔はあります。

-友人も進学するし、親も勧めるから当然のように、という受験生も多い

伊沢 考えた上で周囲に従うなら大いに結構。考えることに価値があります。

-就職にも有利です

伊沢 大学は教育、研究の場であって、職業訓練が本義ではありません。大学を職業訓練校化しようという政治や経済界の考えには納得できませんね。もちろん、実学を学びたい学生は学べばいい。それは個人の自由です。ただ、実学がすべてであるかのように教えてはいけません。

-最後に受験生に一言

伊沢 合否で人生は変わりますけど、すべてが決まるわけじゃない。結果は現時点でのランキングだし、人格を否定するようなものではないんです。結果を出せなかった過程を反省し、次に生かせば挽回可能です。努力は確実性を高めてくれるけど、絶対のものではないですから。浪人の経験が後に生きることだってあるし、合否の意味を過度にとらえる必要はありませんよ。【秋山惣一郎】

◆伊沢拓司(いざわ・たくし) 1994年(平6)、埼玉県生まれ。クイズプレーヤー、「(株)QuizKnock」CEO。東大経済学部卒。開成高在学中の10、11年、「全国高等学校クイズ選手権」(日本テレビ系)で連覇。クイズ番組「東大王」(TBS系)に出演し、一躍有名に。著書に「勉強大全」(KADOKAWA)など。