BiSHアユニ・D「北海道大好き」目標はヒ-ロー

“BiSHポーズ”をするアユニ・D(撮影・佐藤翔太)

“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーで札幌市出身のアユニ・Dが、故郷で熱い思いを語った。北海道から旅立ち、16年8月にグループに加入。躍進を続けるBiSHの一翼を担うヒロインに、デビューからこれまでの成長、コロナ禍でライブができなかった時期の思い、未来の夢、北海道愛などについて聞いた。【取材・構成=黒河祐介】

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まだ寒い2月の札幌。BiSHのライブが1年ぶりに帰って来た。「清掃員」と呼ばれるファンは、マスクを着け声は出せないが、拳を突き上げ、思いきりジャンプし、ステージの彼女たちに精いっぱいの熱を送る。唯一の道産子、アユニ・Dは、MCで地元ファンに素直な思いを伝えた。

アユニ・D 世界がこういう状況で、ここに足を運ぶかどうかギリギリまで悩んだ人もたくさんいると思うんです。久しぶりの札幌で緊張したけど、ちゃんと目の前にあなたたちがいてくれて私も楽しかったです。またBiSHでこの街に帰って来るので、それまで元気に生きててください。

15年3月に結成されたBiSHは翌年5月にメジャーデビュー。横浜アリーナ、幕張メッセ、大阪城ホールと、大きなステージを次々と成功させた。昨年、その歩みはコロナ禍で止まった。BiSHの心臓部ともいえるライブが、思うようにできなくなった。活動を自粛する間、多くのことに気づいた。「当たり前のものは、当たり前ではない。ライブも当たり前ではなく、会場に来てくれて、同じ空間で楽しめるって、すごく重要で貴重な時間だったんだなと」。そして12月24日。東京・代々木第1体育館で、332日ぶりの有観客ライブにたどり着いた。

アユニ・D こんなにライブをしてこなかったのは初めて。私たち自身は覚悟を決めてライブをしたけど、現実味がなくて。本当にお客さんが来てくれるのかなと。ステージに立ったとき、いろんな感情が込み上げて泣きそうに。でも泣いたら歌えなくなるから我慢しました。みんなが幸せだったと思います。

人と話すことが苦手な札幌の少女が、1歩を踏み出した。16年6月、BiSHの新メンバー募集をツイッターで知り、オーディションに挑んだ。それから約5年。挫折や葛藤を繰り返しながら成長し、ほかの5人同様にグループに欠かせないピースになっている。

アユニ・D 北海道にいるときは人と話そうともしてなくて。弱っちくて、心を閉ざしていて。それが自分の普通で。上京していろんな人と出会い、お話しすることで刺激を受けたりして、自分の世界が広がりました。BiSHに入って、好きな人や好きなものに出会ってからは人生が楽しくなって。心を開いて1歩、踏み出すことって大切だなと感じています。

だからこそ、夢を持つ若者たちには「行動力は神。最初の1歩、勇気ってすごく大事。やるかやらないかだったら、やったほうがいい。それが楽しくても、悲しくても、次の糧になると思う」とエールを送る。

BiSHは、メンバーそれぞれの個性、楽曲のよさ、圧倒的なライブパフォーマンスなど「唯一無二」を武器に、世代、性別を超えて支持を得てきた。

アユニ・D 音楽とかライブとかで自分たちの生きざまをさらし、歌詞もうそのない言葉で表現している。だから弱いところもダサいところも出している。こういう人もいるんだから、自分も頑張ろうと。そういうところが魅力だと思います。

18年9月からはバンド形態のソロプロジェクト、PEDROの活動も始め、ボーカル&ベースを務める。「楽器を持つか持たないかはすごい違いだけど、人前で表現するということは同じ。どちらかで感化したものは、どちらかに影響を与えている。自分の表現力が変わってきている」と2つの活動の相乗効果を強調する。BiSHでは末妹の立ち位置も、バンドではフロントマンとして責任感も芽生えた。2月13日には日本武道館公演も成功させた。

アユニ・D 伝説的なかっこいいバンドが立ってきた武道館。私には聖域というかサンクチュアリー的な認識があって。そこでライブができて楽しかった。PEDROの武道館の1歩がBiSHに貢献できたら。

「今年はいっぱいライブがしたい」という。とくに北海道最大の夏フェス、RISINGSUN ROCK FESTIVALへの出演を熱望する。「北海道が大好き。この街の匂いや空気が大好きなので、絶対に出たい」。そして、その先に見えるものは。

アユニ・D いろんな景色をいろんな人と見ていきたい。今、BiSHは1人1人の活動が多くなっている。そこでパワーを培った6人が集まったとき、すごいヒーローの集まりみたいになりたい。BiSHとしての武道館、東京ドーム。夢にみていた舞台に立ちたい。そこに立つのに見合う人間になれるように、人間性を強くして、ヒーローみたいになりたい。

<取材後記>

命を救ってくれた人たちに、やっと会えた。3年前、私はがんを患っていた。つらい治療が半年以上続き死も覚悟した。そんなとき偶然、テレビCMで目に飛び込んできたのがBiSHだった。わずか数十秒のライブパフォーマンスに一瞬で心が揺さぶられた。動画サイトを見て、CDを聞きまくった。それから、不思議と病状は改善に向かっていった。最後の手術が終わった夜、病院のベッドで一人「プロミスザスター」を聞いた。涙が止まらなかった。生きてると感じた。

何が私をどん底から救い出したのか。今回の取材でそれを確かめたかった。彼女たちが書く歌詞や発言には「生きる」というワードがよく出てくる。アユニ・Dは言う。「『BiSHの音楽で救われました、生きがいでした』という言葉をいただくことがある。私たちの音楽を受け取ってくれる人、ライブに来てくれる人がいるから、私たちも生きる力になっている」。痛みを乗り越える6人の生きざまそのものが、人間を再生させるのだろうか。これだけは言える。あなたたちが歌い続けるかぎり、私は生きていける。【黒河祐介】

◆BiSH アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dからなる“楽器を持たないパンクバンド”。15年3月に結成。16年5月にavex traxよりメジャーデビュー。メンバー自らつづる歌詞、振り付け、エモーショナルなライブパフォーマンス、型にはまらない活動で躍進。全国のライブハウスから横浜アリーナ、幕張メッセ、大阪城ホールでワンマンを開催。メンバーそれぞれのソロ活動も積極的。

◆アユニ・D 10月12日、札幌市出身。オーディションを経て、16年8月にBiSHに加入。グループでは「僕の妹がこんなに可愛いわけがない」担当。18年9月からはソロプロジェクト、PEDROでベース&ボーカルとして活動を開始。全楽曲の作詞と一部作曲も手掛けている。スポーツは中学で部活をしていたバドミントン。