昨年5月23日に出演者のプロレスラー木村花さん(享年22)が自死して打ち切られたフジテレビ系恋愛リアリティー番組「テラスハウス」について、母親の木村響子さん(44)が「過剰な演出が原因でSNSに苦情が殺到し、人権侵害があった」と申し立てていた件で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会が30日、都内で会見して見解を発表した。
10人の委員会は「放送倫理上問題あり」と見解を示したが、「人格権の侵害があるとは言えない」と説明した。
ネットフリックスで先行配信されたのを契機に、花さんに対する誹謗(ひぼう)中傷がわき起こり、自傷行為に至る深刻な事態が生じていたにもかかわらず、フジテレビが放送を行ったことについて「放送倫理上の問題があったと判断した」と説明した。「フジテレビにおいて、全体として問題の深刻さの認識に甘さがあったことは否定できない。リアリティー番組の制作・放送を行うに当たって体制の問題を課題として指摘せざるを得ない」と加えた。
奥武則委員長は「花さんが出演契約を結ぶに当たって、1時間に及ぶ話し合いがあった。自由な意思決定が奪われているかという意味では、自己決定権や人格権の侵害があるとは言えない」と説明した。その一方で「リアリティー番組という特性があり、本人が自傷行為を繰り返していた。フジテレビの判断の甘さがあったのではないか、制作会社との意思の疎通に欠けたのではないか」と指摘した。
過剰な演出については「花さんが怒りを向けた男性出演者にも責任があるとして、花さんの怒りに理解も示している。一方的な、あおりとは言えない」とした。フジテレビの対応について「放送局の自主自立という点から、どういう風に検証するかは放送局自身が決定するもの」。事件後の響子さんへの同局の対応については「情報伝達の齟齬(そご)はあったが、倫理上の問題があったとは思えない」とした。
曽我部真裕委員長代行は「放送界全体が本件及び本決定から教訓をくみ取り、木村花氏に起こったような悲劇が2度と起こらないよう、自主的な取り組みを進めるよう期待する。他の局でもリアリティー番組は制作、放送されている」と話した。「制作会社のスタッフは、現場としてできることをそれなりに、自傷行為後にLINEで頻繁に連絡をとったり、自宅を訪問するなどやっていた。他方でフジテレビ本体の対応がなかった。人権侵害はないが、放送倫理上の問題があるというのは分かりにくい。人権侵害は現場でかなりケアしている。何もせずに漫然と放送したわけではないということ。ただ、放送倫理上は問題あり」と説明した。
番組と花さんの死の因果関係については、曽我部委員長代行は「判断することは避けたい」とした上で、新型コロナウイルス禍での精神的なケアについて「物理的な制限があった」と話した。そして「フジテレビが意図的に死に追いやろうとしていたわけではない」と説明した。
奥委員長は響子さんについて「花がここにいないことで事実を証明することが難しい。フジテレビの不誠実な対応で悔しい。花を失ったことで、私の人生も失った」と話していると明かした。フジテレビは「今日の決定を受け、今後も誠実に番組作りをしていく」とコメントしているという。
「テラスハウス」は「台本のない日々」を売りに男女6人の共同生活を映す人気番組。花さんは同居男性とのトラブルで怒ったシーンが3月31日にネットフリックスで配信、5月18日にフジテレビで放送された。SNS上で匿名の人間から誹謗中傷を受け、同23日未明に死去した。警視庁は自殺と見て調べた。
フジテレビは昨年10月にSNS対策委員会を設置して、報告書を取りまとめている。委員会は「フジテレビが本決定を真摯(しんし)に受け止めた上で、自ら定める対策を実施して、その効果の不断の検証を踏まえて改善を続ける菜度して再発防止に努めるとともに、本決定の趣旨を放送するように要望する」とした。
◆木村花(きむら・はな)1997年(平9)9月3日、横浜市生まれ。母は元プロレスラー木村響子で父はインドネシア人。15年に武藤敬司主宰団体「WRESTLE-1」のプロレス学校に1期生として入学。16年3月に才木玲佳戦でデビュー。フリー、ACE、W-1を経て、19年3月にスターダム入団。ユニット「TOKYO CYBER SQUAD」を率いた。164センチ、58キロ。得意技タイガーリリー、ハイドレンジア。