「AV界の演技派」川上奈々美の女優魂鼓舞した映画との出会い/連載1

これまでの道のりを笑顔で語る川上奈々美(撮影・河田真司)

人気セクシー女優川上奈々美(28)がアダルト業界からの引退を発表した。新たに個人事務所を設立し、女優としての活動に本腰を入れる。今月公開の映画「ゾッキ」に出演しているほか、22年公開の映画「レンタルファミリー」の主演も発表されている。さらに、現在、4本のドラマ、映画の撮影が重なるなど、オファーが絶えない。なぜアダルト業界から離れ、女優を目指すのか。その本音を聞いた。

-◇-◇-◇-

セクシー女優としての活躍は誰もが認めるところだ。大手メーカーの専属女優として作品を出す一方、恵比寿★マスカッツのメンバーとしてアイドル活動をしたほか、浅草ロック座でストリップにも進出。19年4月には第31回ピンク大賞で主演女優賞を受賞するなど「AV界の演技派」とも呼ばれている。

そんな業界のスターだったが、15年公開の映画「メイクルーム」(森川圭監督)の出演が彼女のスイッチを押す。AV撮影現場の楽屋裏を描いたコメディーで、川上は個性豊かなAV嬢を演じた。

「初めての経験で緊張してガチガチでした。でもその緊張を役に投影できて、か細い、変な声でせりふをしゃべるように演じていたんです。映画祭では、司会者に、普通に話せるんですねって、言われましたが、その演技が何かよかったみたいです」。

作品は同年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアター・コンペティション部門でグランプリを受賞。そして、この映画祭で、今年の日本アカデミー賞で2冠に輝いた内田英治監督とプロデューサーのアダム・トレル氏に出会う。

内田監督がメガホンを取った16年公開の映画「下衆の愛」にも出演。同作は東京国際映画祭に出品され、川上はレッドカーペットを歩くことになった。過去の記録は定かではないが、おそらくレッドカーペットを歩いた初めてのセクシー女優だった。

「『下衆の愛』はちょい役だったんですが、監督からは『映画の、であたま(最初の意)の色が決まったのは奈々美ちゃんのおかげ。本当にありがとう』と言ってもらい、レッドカーペットにも呼んでもらったんです。着物を着ておいでよって。映画祭って役者のご褒美みたいなものじゃないですか。本当にうれしくて、今まで見たことのない景色でした」。

そんな経験が川上の女優魂を鼓舞する。そして、内田監督やトレル氏の映画作りへの情熱や雰囲気のとりこになっていった。「本当に映画を愛していて。クラウドファンディングでお金を集めたり、インディーズなので、みんなで一緒に1つの作品を作り上げようっていう、そのパワーに感動しました。公開の初日に、おみこしを用意してみんなで担いで劇場を盛り上げたり。本当にこの世界にいることが幸せで、行きたいな、そこにいたいなと思うようになりました」。

セクシー女優としては一流でも、映画にどうやって出演できるかは分からない。「どうやったら役者としてやっていけるのか、まったくわかりませんでした」。オーディションの開催すら、コネクションがないと分からない。「だから、飲み会があれば、すぐ行くみたいな。常にフットワークを軽くしていました」。今年はやった「飲み会を断らない女」だった。

もっとも、すぐに女優としてオファーがくるほどこの世界は甘くない。川上もやり方が分からず、疲弊してしまったという。流されやすい性格と自覚しているだけに、女優への本格転身をあきらめかけた時に声をかけてくれたのが、またしても内田監督だった。作品はネットフリックスのドラマ「全裸監督」。第4話にキャスティングされた。

「監督から『4話が面白くなかったら君が面白くないんだからね』って言われてしまって。ハードな演出で、負荷をかければ私が生きるって分かっているから、そう言ってくれたのだと思います」。

だが、川上は撮影現場でひよってしまったという。クラブでのシーンを撮影する際、多くのエキストラも参加していた。そんな中に川上も混じり、センターに立ち、カメラに抜かれる。そんな現場では「何で、あんな名のない娘にスポットが当たるのよ」などと、声高に皮肉を言われたという。「怖い世界だなと思いました。大きな規模の作品だったし、みんな必死だったのでしょう」。

プレッシャーにさいなまれる現場で、なかなか本領を発揮できない。ただ、最後の撮影シーンがぬれ場だった。「そうだ、私はぬれ場なら自信がある。AVとそう変わりはありませんから。違いと言えば、役のバックボーンがあるかないかですかね。もちろん、映画の方が役に厚みがあるし、役作りに時間がかかるけど、その違いだけで、AVと一緒だと思いました」。(続く)【竹村章】

◆川上奈々美(かわかみ・ななみ)1992年(平4)10月14日、福井県生まれ。出演したAV作品は多数。アイドルユニット、恵比寿マスカッツに所属したほか、ストリッパーとしてもデビューした。初めて出演した映画は15年の「メイクルーム」。主な出演映画やドラマに「下衆の愛」「東京の恋人」「悲しき天使」「全裸監督」など。スリーサイズはB79(C-65)-W57-H80センチ。160センチ。

川上奈々美、自分の演技の下手さに気付き舞台のオーディションへ/連載2はこちら>>

川上奈々美、AV経由でなかったら役者になる覚悟できなかった/連載3はこちら>>