アカデミー賞「白すぎるオスカー」批判に反応 非白人が賞総なめも 

「ノマドランド」の1場面(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

<ニュースの教科書>

米アカデミー賞の発表が日本時間26日に迫っています。昨年は韓国映画「パラサイト」が4冠という異例の結果に終わりましたが、コロナ禍の今年もノミネート作品の多くが人種問題や多様性など時代を映す傾向を強めています。ロサンゼルス在住の千歳香奈子通信員に話を聞きながら、2週にわたって世界最高峰の映画の祭典を特集します。【相原斎】

アカデミー賞は、映画芸術科学協会約6000人の会員の投票によって決まります。この協会は俳優、監督から撮影、音楽などのスタッフまで、製作現場を担う映画人によって構成されています。「プロ」の目が選ぶ演技や演出ということになるので、一般のファンから見れば「やや渋めの結果」ということになっているのかもしれません。

前哨戦といわれるゴールデングローブ賞としばしば違った結果になるのは、こちらがよりファン目線に近いジャーナリストによる選出だからだと思います。

大統領選で多くのハリウッドセレブが「反トランプ」を表明したことからも明らかなように、会員の大多数はリベラル派です。社会派ドラマや実話に基づいた作品が受賞することが多いのはこのためです。

一方で、12年のロサンゼルス・タイムズ紙の調査によれば選考に当たる会員の94%が白人、77%が男性、そして高齢者が多数を占めました。同性愛をテーマにした作品など新たな潮流への感度は鈍くなり、バイオレンス作品やコミックを原作とした作品は不利といわれてきました。

ところが、若手製作者やメディアから「白すぎるオスカー(受賞者に贈られる彫像)」などの声が上がり、保守的と批判されると「リベラル」を自任している分、会員たちの心の針は極端に振れることになります。一昨年はコミックが原作で黒人のチャドウィック・ボーズマンが主演した「ブラック・パンサー」が3冠、昨年は韓国映画「パラサイト」が4冠という前例の無い結果となりました。

<千歳通信員に聞く>

選考を左右する会員内の「空気」をおさらいしたところで、現地取材25年となる日刊スポーツの千歳通信員に今年の主要6部門を予想してもらいます。

-今年の傾向は

千歳 5年前、俳優部門にノミネートされた20人全員が白人だったことが批判を浴びましたが、今年は20人中9人が有色人種。監督賞でも史上初めて女性2人が候補入りしました。

-その年を象徴するといわれ得る作品賞は

千歳 ◎(本命)は、季節労働の現場を渡り歩く女性を主人公にした「ノマドランド」。○(対抗)は韓国系の家族を描いた「ミナリ」。アカデミーと選考員がかぶる全米映画俳優組合(SAG)賞を取って△(急浮上)となったのが、ベトナム反戦運動を巡る裁判を題材にした「シカゴ7裁判」です。この10年で4本の作品賞がSAG賞受賞作という経緯もあります。

-監督賞は

千歳 ◎は「ノマドランド」のクロエ・ジャオ。中国出身の女性であることで確実視されています。○は「ミナリ」のリー・アイザック・チョン。△として「プロミシング・ヤング・ウーマン」のエメラルド・フェネルを挙げておきます。テレビシリーズ「キリング・イヴ」の脚本を担当した人です。

-主演男優賞は

千歳 昨年43歳で惜しまれて亡くなったチャドウィック・ボーズマンは、遺作「マ・レイニーのブラックボトム」でも絶賛されています。まず間違いのない◎でしょう。死後に受賞した俳優としては3人目となります。「ファーザー」で見せたアンソニー・ホプキンスの圧倒的な老いの演技もオスカーに値しますが、今年の場合は○。イスラム教徒として初のノミネートとなったリズ・アーメッドを△とします。

-主演女優賞は

千歳 混戦です。「プロミシング・ヤング・ウーマン」のキャリー・マリガンが優位だと思っていたのですが、「マ・レイニーのブラックボトム」のヴィオラ・デービスがSAG賞を取って潮目が変わった気がします。昨年全米を席巻した「ブラック・ライブズ・マター」が作品の根底にあることを考えるとこちらが◎。マリガンは○です。「ノマドランド」のフランシス・マクドーマンドも素晴らしい演技を見せましたが、過去2度の受賞歴もあり、△とします。

-助演男優賞は

千歳 「ゲット・アウト」でも高い評価を得ていたダニエル・カルーヤが「ユダ・アンド・ザ・ブラックメサイア」でも好演。SAG賞も取って、今年こそは、の期待感で◎。有力誌「バラエティ」が推す「サウンド・オブ・メタル」のポール・レイシ-を○。SAG賞のキャスト賞となった「シカゴ7裁判」から俳優部門でただ1人ノミネートされたサーシャ・バロン・コーエンを△とします。

-助演女優賞は

千歳 昨年の「パラサイト」でもなかった俳優部門ノミネートを果たした「ミナリ」の韓国女優ユン・ヨジョンが◎です。受賞すればナンシー梅木(57年)に次ぐ2人目のアジア人となります。○は「続・ポラット」のマリア・バカローバ、△は「ファーザー」のオリビア・コールマンです。

千歳通信員の◎が全員受賞した場合は5部門の個人賞はすべて非白人ということになります。「ブラック・ライブズ・マター」の流れに加え、最近の「アジアン・ヘイト」に反発する気運がアカデミー会員の中に高まっているとすれば、5年前の「白すぎるオスカー」とは正反対の結果となるかもしれません。

授賞式当日となる次週は、93回を数えるアカデミー賞ならではの出来事を振り返ります。

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■政治色薄すぎも批判に

映画界最高の栄誉とされるアカデミー賞は、政治色が濃くなっても薄まっても批判の対象となります。

17年の授賞式では司会のコメディアン、ジミー・キンメルが反トランプの色濃い発言を繰り返し、トランプ氏の支持者が多い地域では一斉にチャンネルが切り替わったという報道もありました。この年はトランプ氏がイスラム圏7カ国からの入国を禁止する大統領令を出し、イラン人のアスガル・ファルハディ監督が授賞式を欠席したこともあり、視聴率が低迷しました。

一方で、大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインのセクハラが問題になった18年。ゴールデン・グローブ賞の授賞式では女優が全員黒ドレスで登場して抗議の意を示しましたが、アカデミー賞ではこうした動きはなく、「拍子抜け」の声が上がりました。

◆相原斎(あいはら・ひとし) 1980年入社。文化社会部では主に映画を担当。黒沢明、大島渚、今村昌平らの撮影現場から、海外映画祭まで幅広く取材した。著書に「寅さんは生きている」「健さんを探して」など。アカデミー賞授賞式で忘れられないのは4年前、作品賞プレゼンターのウォーレン・ビーティが「ムーンライト」のところを誤って「ラ・ラ・ランド」と読み上げ、大混乱となったこと。当事者の心境を考えれば不謹慎だが、ライブならでは往年の名優の慌てぶりが記憶に残った。

◆千歳香奈子(ちとせ・かなこ) 96年からロサンゼルス支局勤務。アカデミー賞では過去2回レッドカーペット取材。ケビン・コスナー、レオナルド・ディカプリオ、ハリソン・フォードら多くのトップスターをインタビュー。クリント・イーストウッドは6度の取材を重ねている。