<第93回米アカデミー賞直前特集1>
第93回アカデミー賞授賞式が25日(日本時間26日)、開催される。
今回は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、従来の米ロサンゼルスのドルビー・シアターに加え、ユニオン駅も会場として使用される。
コロナ禍でロサンゼルスをはじめとした大都市では、20年3月から丸1年、映画館が休業を余儀なくされるという、前代未聞の状況で迎えたオスカー争奪戦の行方は…。かつてアカデミー賞の現地取材でタッグを組んだ、村上幸将記者とロス在住の千歳香奈子通信員による大予想大会。1回目は、コロナに揺れた米国の映画界と、賞レースに与える影響を紹介します。
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村上 コロナ禍が全世界を直撃した中、米国では主要都市で映画館が1年もの休業を余儀なくされました。これまでアカデミー賞の審査対象の条件は
(1)ロサンゼルス郡内の映画館で1日3回以上、上映された作品
(2)その上で連続7日間以上、上映された作品
でしたが、今回は劇場で公開を予定していたものの、ストリーミングや定額動画配信された作品も審査対象になりました。
千歳 ロサンゼルスやニューヨークといった大都市は、20年3月から丸1年間劇場が閉鎖されていた上、その間、開いていた映画館はテキサスとかフロリダといった地方だったので、そもそもロサンゼルス郡内の映画館で上映という条件を満たすことは、不可能だったことになります。
村上 そもそも、映画館で映画を見るということ自体が難しかったんですね。
千歳 AMCシアターズをはじめとした大手映画館チェーンは、しばらくの間、全米規模で開いていませんでした。だから、単にコロナが怖くて映画館に行く人が減少して、配信が台頭したということではないのです。20年は、本当にたくさんの映画が公開延期やストリーミング配信に切り替わり、本来だったらオスカーにノミネートされないだろうという作品もあったような気がします。結果として、Netflix作品が35部門にノミネートされ、もはやストリーミングの賞と言っても過言ではない感じになっています。一応、今年の選考基準の変更はコロナ禍の特例ということなので、来年以降は適用されないという前提ですが。
村上 全世界的にコロナ禍に陥り、既存の社会、経済のシステムや価値観が崩壊したと言っても過言ではない状況かと思います。そうした中、企業の破綻で仕事と家を失った60代の女性がキャンピングカーで生活し、短期労働で生計を立て、現代の遊牧民として新しい生活を捜す旅に出る姿を描いた「ノマドランド」は、今の時代を反映するだけでなく、この先、世界が進む未来を示した作品と言えるのではないでしょうか? 世界3代映画祭の1つ、ベネチア映画祭の最高賞・金獅子賞と、アカデミー賞の前哨戦の1つ、トロント映画祭の観客賞を史上初めてダブル受賞。中国・北京生まれのクロエ・ジャオ監督(39)も、アカデミー賞の前哨戦の1つ、ゴールデングローブ賞で、アジア系女性として史上初の監督賞を受賞しました。アカデミー賞においても、アジア系の監督が監督賞にノミネートされたのは初めてで「プロミシング・ヤング・ウーマン」のエメラルド・フェネル監督(35)ともに女性監督2人のノミネートも同賞史上初と話題となっています。作品賞、監督賞の有力作でしょう。
千歳 堅いと思います。作品賞、監督賞は「ノマドランド」なのではないかと。舞台の設定はリーマン・ショックですが、米国はコロナ禍で多くの人が同じように家や仕事を失い、大勢の人がホームレスになり、実際に車で路上生活する人もかなり増えたと言われています。そういう意味で、コロナを想定していなかったとは言え、タイムリーなテーマですよね。
村上 主演のフランシス・マクドーマンド(63)は96年の「ファーゴ」、17年の「スリー・ビルボード」で主演女優賞でオスカーを獲得しています。そのマクドーマンドが17年に、リーマン・ショックをテーマにしたノンフィクション「ノマド:漂流する高齢労働者たち」の映画化権を獲得し、自ら製作に関わっています。外や車内で用を足すシーンまで演じた妥協のない演技に、作品にかける意気込みを感じました。ご指摘の通り、撮影は18年9月から6カ月と、コロナ禍の前に製作、撮影されています。
千歳 作品は、かなり重いテーマですが、現代の米国が抱える問題に焦点を当てた作品とも言え、コロナ禍で、よりリアリティーを持って捉えられたのではないかと。ロサンゼルスでは、増え続けるホームレス対策として、公園などにキャンピングカーを並べてホームレスの仮の避難施設としていたくらいですし。コロナのない時代に作ったのに、どこか今の世の中を予想していたみたいな感じもしますし、アフターコロナを予見した作品だったの? と思ってしまうほどリアルに感じられました。またマクドーマンドが演じた主人公ファーンが短期労働を行った仕事先が、コロナ禍でオンライン購入の需要が増して独り勝ち的な存在だったアマゾンというのも、何だか皮肉な感じがします。それに、コロナ禍でリモートが当たり前になったことで、これからの生き方としてもっと自由に好きなところに移動しながら仕事をしてという新たなノマド族が生まれてくる可能性も十分にあります。コロナ禍でキャンピングカーの売り上げが、ものすごく上がったとニュースにもなっており、キャンピングカーのディーラーは大忙しで入手困難と言われた時もありました。
村上 高齢化社会も、作品のもう1つのテーマだと思います。日本や中国といったアジア圏のみならず、フランスをはじめとした欧州もしかりですが、高齢化社会は世界的に広がりつつあります。そうした中、高齢者が自分の身の丈にあった形で自由に生きるという物語も、世界の人々に考える契機を与えると思います。
千歳 米国の場合は、むしろ(80年代序盤に生まれ、00年代に成人となった)ミレニアル世代とか若い人の方が、新しいスタイルのノマドを目指す傾向にあるのでは? と思います。ハワイやラスベガスなどのリゾート地やホテルなどが、リモートワーク者向けに長期滞在パッケージを販売、宣伝したりしています。孤独な高齢者の車上生活というノマドではなく、もっとより自由に自分らしく、という感じで、特にIT企業で働くミレニアル世代は、在宅ワークになって、どこからでも仕事が出来ることが分かったので、時代は変わっていくと思います。
村上 話をオスカー賞レースに戻しましょう。では作品賞、監督賞、主演女優賞は「ノマドランド」が最有力でいいですね?
千歳 主演女優賞については、米メディアの下馬評は当初「プロミシング・ヤング・ウーマン」のキャリー・マリガン(35)が高かったですが、最近はマクドーランドに傾いていますね。その中「マ・レイニーのブラックボトム」のビオラ・デービス(55)も、SAG(全米映画俳優組合)賞を受賞したことで、オスカーの可能性が一気に高まっています。白人警察官による暴行を受けて亡くなったジョージ・フロイドさんの裁判や、警察官による黒人殺害も最近、また相次いでおり「ブラックライブズ・マター問題」が再び脚光を浴びていますし。マクドーマンドは「スリー・ビルボード」で2度目のオスカーを受賞しているので、今回の受賞はないのでは? とも思いますが、デービスとマクドーランドの一騎打ちかなあと予想しています。
次回は、1958年(昭33)の第30回アカデミー賞で、ナンシー梅木さんがアジア系俳優として初のオスカーを獲得して以来、63年ぶりの助演女優賞獲得が期待される、韓国の女優ユン・ヨジョンを中心に、主要賞の行方を予想します。