コロナ感染が相次ぐ芸能界…それでも芸能人がワクチン接種をためらう理由

千葉真一さん(2018年4月撮影)

<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>

新型コロナウイルスに感染した千葉真一さん(享年82)が、8月19日に亡くなった。死の一報が報じられた後、千葉さんがワクチンを接種していなかった、という事実が報じられたことは、新型コロナウイルスの恐ろしさとともに、ワクチン接種の是非について、考える大きな契機となったのではないか。

千葉さんが亡くなった翌日の同20日、亡くなる直近まで映画製作について話を進めていた関係者は、千葉さんと月末に会う約束をしつつ「ワクチン接種券、来ましたか?」と尋ね、千葉さんが「来てるけど、考えている」と語っていたことを明かした。後期高齢者として早い時期にワクチン接種が出来たはずの千葉さんが、接種するか否か、逡巡(しゅんじゅん)していたことが判明した。

その後、複数の芸能関係者と話をしている中で、千葉さんの死について話題に上った。その中で、ワクチン接種をためらっているタレントに、どう促すか…そもそも、促していいものか悩ましい、という声が幾つもあった。ある関係者は「ワクチンを打たないと重症化の恐れがある上、関係先にも、ご迷惑がかかるので打って欲しいんですが…こればっかりは、本人の意思次第で、強制できないので…」と複雑な心中をのぞかせた。別の関係者も「うちのタレントでも、ワクチンを打っている人間は打っています。でも打っていないタレントに、打つように、と言うことは難しいですよね」と語った。

関係者の声を聞く中で、映画やドラマ、舞台に出演する俳優や、お笑い芸人といった、自らの体を使って舞台上やカメラの前で表現する芸能人の中で、ワクチン接種をためらう人が少なからずいると感じた。ワクチンを接種した後、特に2回目の接種後に強く出ると言われる副反応が、ためらう大きな要因であることは否めないだろう。撮影や稽古、本番の公演などスケジュールが決まっていれば、その最中にワクチンを打ち、高熱が出たからといって休養…というわけにはいかないからだ。コロナ禍が悪化した20年春以降、映画の撮影や舞台公演の中止、延期も相次ぐ中、せっかく舞い込んできた仕事を大切にしたい。ワクチンを接種しないと感染のリスクが高い、周囲に迷惑をかけると分かってはいても、体調を崩す可能性があるのに打つのは…と逡巡するタレントの気持ちも、分からなくはない。

一方で、千葉さんを知る複数の関係者は「82歳とは思えないくらい、千葉さんは若々しく、元気だった」「体の動きも、速く力強かった」と口をそろえる。世界的なアクション俳優だっただけに、映画やドラマ、舞台の出演があろうが、なかろうが日々、体の鍛練を行っていたことは想像に難くない。運動を日常的にやっている人であれば、特に中年以降、トレーニングを1日でもやらないと筋力や運動機能が後退したと強く感じたことはあるだろう。ましてや、アクションが芸能活動の大きな柱だった千葉さんにとって、ワクチンを打つことで体調に異変があったり、そのせいで休養を余儀なくされ、運動機能が落ちることへの不安も、少なからずあったのではないか?

その一方で、千葉さんが積極的に仕事を行っていた海外では、米国をはじめワクチン接種の義務化が進んでいる。たとえ、海外から出演オファーがあったり、企画の話が持ち上がったとしても、ワクチンを接種していなければ、参加できないという事態に陥ってしまう。副反応で体調を崩したり、運動機能が低下する恐れから、ワクチンを接種したくない…でも、海外での仕事、企画に関わりたかったら、ワクチンを打つしかない。ワクチンへの不安と仕事での必要性とのはざまに、悩む芸能人も、きっといるだろう。

そもそも、政府のワクチン供給の遅れなどもあり、都内在住の芸能関係者の間でも「予約すら出来ない」という声があった。23区外に住む関係者の中には「比較的、早い段階で接種しました」と語る人もいたが、芸能界においてもワクチンを接種したくても、出来ない人は少なからずいた。そうした状況の中、大手芸能事務所の中には職域接種を行った社もある。

例えばジャニーズ事務所は、大手PR会社サニーサイドアップと共同で6、7月のいずれも下旬に、エンターテインメント業界従事者に対しての職域接種を実施した。接種対象者はイベント、映画、音楽、舞台、ライブなどの企画、制作、運営などに関わる人々が中心だが、2社の所属社員も含め、広義でエンターテインメント業界に従事する人材の中から希望者に対して、2社のネットワークを活用して個別に呼びかけを行った。映画、音楽、舞台の製作者はフリーの立場であることも少なくない。タレントにしても、芸能事務所に所属していたとしても基本、個人事業主であり、芸能界を対象とした職域接種の意義は、大きいだろう。

いずれにしても、ワクチンを接種したくても予約自体が滞っているという問題、打てるものの副反応への不安などからワクチン接種を逡巡する芸能人と、そうした所属タレントに対し、どう接すればいいかと芸能関係者が悩む構図は、感染拡大に歯止めが効かない中、当面、続きそうだ。そこに持ってきて、各自治体の大規模接種会場や職域接種会場で使用されてきた、米モデルナ社製ワクチンに異物が混入していた問題まで浮上した。芸能界においても、混乱が予想される。

今後も、芸能人がコロナに感染するケースは、残念ながら後を絶たないだろう。千葉さんの訃報をはじめ、昨今は感染を発表する際にワクチン接種の有無まで公表するケースも増えており、発表の度に一般の視聴者、市民、ファンからは「なぜワクチンを打っていなかったんだ?」という疑問、批判の声も出ている。

ただ、先述したように、取材していく中で、芸能人がワクチン接種をためらう裏には、それなりの事情があることは感じるし、接種を促しにくい芸能事務所の事情も分かる。それぞれの事案によって、事情はさまざまだろうが、芸能人がコロナに感染したことを報じる際、ワクチン接種をしたか否か、接種していない場合は、なぜしなかったかという部分も、感染を公表した芸能人や所属事務所のプライバシーに配慮した上で、注視して取材を進めていきたい。【村上幸将】