米倉涼子「我慢して演じた」オーラ消し「新聞記者」で“世界進出”/連載1

Netflixシリーズ「新聞記者」で取材される側から取材する側に。本紙インタビューで心境を語った主演の米倉涼子(撮影・たえ見朱実)

<単独インタビュー1>

女優米倉涼子(46)が、政府による公文書改ざん事件に迫る新聞記者役で新境地を開いている。

動画配信サービス、Netflixのオリジナルドラマ「新聞記者」(全6話配信中)で、天性の華やかさを封印し、取材過程で生まれる心の葛藤を細やかに表現している。代名詞的ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」で演じる「失敗しない医師」から「弱きに寄り添う新聞記者」へ。米倉が意欲作について語る、全3回連載の第1回。

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持ち前の圧倒的オーラを消し去り、抑制の利いた演技が新鮮に映る。米倉は「私が主役です、というのをかき消しながらやっていく感じでした」と振り返る。

「私、失敗しないので」のせりふで知られるドラマ「ドクターX」の大門先生と好対照の役柄だ。新聞記者・松田杏奈の静かな演技は藤井道人監督のオーダーという。

「『普通の音量でやってください』と言われました。『人に嫌われるような松田さんに見られたくない』と。『弱い者の立場に立っていたい人だから』とちょくちょく言われました」

演じる松田は「国民には知る権利がある」と信念を持ち、官邸会見で嫌な顔をされても質問を繰り返す。社内の同調圧力にも屈しない。現役記者に話を聞きながら役作りをし、夜の闇に紛れて取材対象を待つ姿もすっかりなじんでいる。

「張り込みの時はとにかく楽な靴で。絶対に前に立つな。なるべく後ろから行けとか、大きな声を出すなとか。私は偉そうに見えるところや落ち着きのないところがあるから(笑い)、余計な動きをしないように努めました」

取材者として周囲を見守る場面が多く、主人公ながら「一番遠慮がちじゃないですか?」。事の発端となる国有地払い下げに関わる官僚役の綾野剛、文書改ざんを強いられる財務局員役の吉岡秀隆ら苦悩を深める登場人物の傍ら、自身は感情を発散できず「すごくつらかった」とも話す。

「彼らは我慢をしながらも、ワーッとなる場面がある。私ももっと大きな声を張り上げたいし、官房長官に迫るところも、もっともっとやりこんでいきたかった。いろんなことを我慢して演じた作品だと思います」

静の演技は「個人的には楽しくなかったですけど」とジョークを飛ばしつつ、何でも吸収する気概だ。

「勉強になりました。こういう役があるから、例えば『ドクターX』にも生きてくるのかもしれない」

政治を扱った海外ドキュメンタリーや社会派作品を好み、日本にも同様の作品が増えることを歓迎している。本作の出演にも、ちゅうちょはなかった。

「ためらわれる方もいらっしゃったようですけど、私は特に。Netflixさんだから自由にできたのかな。地上波だと厳しかったかもしれないですね」

20年4月に独立し、個人事務所を設立。全てのオファーに目を通すことができるようになった。年齢とともに、作品選びにも変化が生まれている。

「体もついていかなくなってきているので、当たり障りなくどれでも、ということではなくて、やる気の出るものをやりたい。作品の大きさではなくて、自分の心に刺さるものをまず選びたいと思います」

取材する記者、巨大権力に翻弄(ほんろう)される公務員、政治に興味を持てない若者、物語はさまざまな視点で進む。

「それぞれに正義があって、つらいことがあって、一生懸命生きている人たちに視聴者の方がどう感情移入してくれるのか。感情移入できるたくさんの箱を詰めて提供できる。絶対に私を見てね、という気持ちは全くなくて。作品として見てもらいたいと思います」

取材する側を演じ、改めてメディアについて感じたことも。

「いつも取材される側にいて、プライベートまで侵害されるようなこともたくさんあるじゃないですか。人の心を感じ取ってあげないと、相手の心は開かないだろうなと思います。グイグイ行ったら、どんどん壁は厚くなりますよね…っていうのを分かってよ? って思います(笑い)」

かねて「好奇心が消えたら終わり」と話す。骨太社会派ドラマ、配信という初めてのフィールドに臆することなく飛び込んだ。米倉涼子は挑戦を続ける。【遠藤尚子】

◆米倉涼子(よねくら・りょうこ)1975年(昭50)8月1日、神奈川県生まれ。92年「第6回全日本国民的美少女コンテスト」審査員特別賞受賞。モデル活動後の00年、TBS系「恋の神様」で女優デビュー。テレビ朝日系「黒革の手帖」など松本清張の作品に多く主演。12、17、19年に米ブロードウェーミュージカル「シカゴ」に主演し、今年4度目の主演が控える。168センチ、血液型B。

◆Netflixシリーズ「新聞記者」 首相夫妻の意向を反映した国有地払い下げ問題を取材する東都新聞社会部記者・松田杏奈(米倉)。その中で、証拠隠滅を目的とした公文書改ざん行為が発覚する。不正を追及する松田、払い下げに関わった若手官僚・村上真一(綾野)、改ざんを強いられる財務局員・鈴木和也(吉岡)やその家族らの苦悩と葛藤を描く。横浜流星、寺島しのぶらも出演。

19年6月公開の同名映画を、キャストを一新してリメーク。映画版に続き、藤井道人氏が監督を務める。13日から配信し、16日にNetflixの国内総合ランキングで1位を獲得。190カ国以上で配信、31言語に字幕翻訳されている。

◆Netflix 世界各国の映像作品を配信する登録制の有料動画サービス。既存作品のほか「Netflixシリーズ」の名称でオリジナル映像作品を配信し、韓国制作のドラマ「愛の不時着」や「梨泰院クラス」、最近では「イカゲーム」が人気に。日本作品では「全裸監督」シリーズがヒット。新型コロナウイルスによる“巣ごもり需要”で会員数を伸ばし、20年に2億人を突破した。

Netflixシリーズ「新聞記者」全世界独占配信中