濱口竜介監督、イタリアの名匠ロージ監督と対談「新たに映画言語を作る」に共感

「国境の夜想曲」の日本での公開を前に、ジャンフランコ・ロージ監督(左)と対談する濱口竜介監督

カンヌ映画祭で邦画史上初の脚本賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」で世界を席巻する濱口竜介監督(43)と、イタリアの名匠ジャンフランコ・ロージ監督(57)の対談が、このほど、実現した。13年「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」でベネチア映画祭金獅子賞、16年「海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~」ではベルリン映画祭金熊賞と、世界3大映画祭である両映画祭の最高賞を、ドキュメンタリー映画として初めて制した、同監督の最新作「国境の夜想曲」が11日から日本で順次、全国公開されることを受けて実現した。

ロージ監督は、濱口監督が「偶然と想像」で審査員大賞(銀熊賞)を受賞したベルリン映画祭で、コンペティション部門の審査員を務めた際「濱口の言葉は物質であり、音楽であり、素材なのです」と称賛した。一方、濱口監督は今年の同部門の審査員を務めるなど縁がある。

「国境の夜想曲」は、ロージ監督がイラク、クルディスタン、シリア、レバノンの国境地帯を撮影した作品。01年の米同時多発テロ、10年のアラブの春に端を発し、最近では米国のアフガニスタンからの撤退と現代に至るまで侵略、圧政、テロリズムにより多くの人々が犠牲になっている地域を、3年以上の歳月をかけて取材した。濱口監督は「拝見し、私自身もドキュメンタリーを撮った経験がありますし、映画を作り続けている人間として、素直に驚きました。私はイラク、シリア、レバノン、クルディスタンについて、詳しく知りませんが、国境地帯に自分が連れて行かれたような心持ちになりました」と率直な感想を語った。その上で「一番、驚くべきことは、おそらく普段であれば明らかにしないような部分まで被写体が明らかにしていることです。ロージ監督を信頼しているからだろうと思います。ケース・バイ・ケースだと思いますが、被写体とどのようにして信頼関係を構築したのか教えてください」と問いかけた。

ロージ監督は「まず私の映画は人がいて、その人が時間、尺を決め、場所と出会うことで成り立ちます。絶対的な何かが起きた場所には密度があり、そこで出会った人々は物語を動かします。その場所と個人の密接なつながりに私は心を寄せていきます。私とアシスタントのみという少人数のクルーだからこそ、濃密な関係が築けるのです」と答えた。その上で「映画作りにおいて私が一番投資しているものは“時間”です。最初に長い期間かけてカメラを持たずに中東に身を置き、人との出会いを待ちました」と振り返った。

一方で、ロージ監督は「この作品では新たな映画言語を作り出すことに挑戦しました」とも語った。その上で「濱口さんの作品も、脚本、言語、形式、光、編集、といったフィクションの手法だけではないものを感じます。すごく強い素晴らしい脚本はあるが、それとは別のバージョンがあるような気がするのです」と濱口監督の映画をたたえた。さらに「現場で何か生まれたならばその瞬間を融合してしまう、違う方向に行ってもそれを受容する自由度を感じます。ある意味、確固たる脚本があるからできることだと思います」と脚本の力を絶賛した。

濱口監督は「自作についてロージ監督にそのような言葉を頂いて本当にうれしく思います。ロージ監督が、一作ごとに新たに映画言語を発見しているというのは、本当にその通りだと思いました」と感謝しつつ、ロージ監督の考え方に共感した。そして「『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』も素晴らしい映画でしたけれども、『国境の夜想曲』も見直すたびに新たな発見があり、世界の広がりを感じます。素晴らしい映画だと思います。その作り方を伺えて本当にうれしく思います。大きな学びになりました」とロージ監督に新たな刺激を受けたと感謝した。