第94回米アカデミー賞ノミネートが日本時間8日夜、発表される。日本映画では、21年7月に世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭で邦画初の脚本賞を受賞した、濱口竜介監督(43)の「ドライブ・マイ・カー」が、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)ノミネートの最有力候補として期待が高まる。
「ドライブ・マイ・カー」は、世界的に人気が高い作家村上春樹氏(72)が13年11月発売の「文芸春秋」12月号に発表した短編で、同誌14年3月号まで連続で掲載した「女のいない男たち」と題した連作の第1弾が原作だ。濱口監督は、カンヌ映画祭に参加した際含め「村上さんに寄せられている関心があって、この映画にも注目していただけているということは、すごく感じました」と語っている。
その一方で、登場人物の心情描写が巧みな村上氏の原作の映画化に当たって、文章の直接的な再現は避けた。「ドライブ・マイ・カー」が収められた14年の短編小説集「女のいない男たち」(文春文庫)の中から「シェエラザード」「木野」のエピソードも投影し「人間の心理的な面でアンリアルだけどリアルという、村上さんの文章の力を探り」脚本を作り上げた。
カンヌ映画祭で脚本が評価されると、その後も、世界各国の映画祭、映画賞を席巻。1月8日発表の全米批評家協会賞で作品賞、監督賞(「偶然と想像」と併せて)、脚本賞、そして主演の西島秀俊(50)がアジア人初の主演男優賞と主要4冠を獲得した。
さらに翌9日には、アカデミー賞の前哨戦として知られるゴールデングローブ賞で、市川崑監督の「鍵」(59年)が60年に旧名称の外国語映画賞を受賞して以来、邦画では62年ぶりの非英語映画賞を受賞した。
全米批評家協会賞とハリウッド外国人記者協会が主催するゴールデングローブ賞を制し、映画を専門に見る“目”から高評価を得ただけでなく、映画愛好家として知られるオバマ元大統領が21年12月17日にツイッターで発表した、毎年恒例のお気に入り映画で紹介された14本の最上位に挙げられた。
西島も、米ニューヨーク・タイムズ紙選の今年を代表する13組の俳優にアジアから唯一、選ばれるなど、米国で広く知名度を上げ、支持されている。米国の現地メディアの間では、国際長編映画賞はノミネートのみならず、受賞の最有力候補との声も出ている。また作品賞、監督賞、さらには西島の主演男優賞ノミネートへの期待の声も一部には出ているという。
そうした中、濱口監督は冷静に状況を見守っている。2日に都内で行われた第95回キネマ旬報ベスト・テン発表&表彰式の壇上で、アカデミー賞ノミネートについて話を向けられると「なりゆきなので、そういうことがあったら、ありがたい。今の時点で評価いただいていることがうれしい」と語った。その上で「賞で作品が変わるわけではない。自分たちが何が出来て、何が出来なかったと心に留めているのが大事」と強調した。
そもそも、3月に短編集「偶然と想像」がベルリン映画祭審査員大賞(銀熊賞)を受賞した際、各国のメディアは世界で活躍する是枝裕和監督、黒沢清監督、河瀬直美監督に続く、日本映画の次代を担う才能などと評価した。オンラインで応じた会見の中で、そのことについて聞かれても「その時の自分に撮ることが出来るものを、淡々と撮っていきたい。それをどう評価するかは周囲の問題」と語った。
監督作ではないが、東京芸大大学院映像研究科時代の恩師・黒沢清監督(66)が20年のベネチア映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した「スパイの妻」でも企画、脚本を担当と、この2年で世界3大映画祭全てのコンペティション部門で受賞を経験した。10日開幕のベルリン映画祭では、コンペティション部門審査員を務めることも発表されるなど一躍、世界から注目される映画監督となった濱口竜介監督。「これほど、広がっていくということは、とても驚いています。米国の方に、これほど受け入れられるとは想像していなかった」と語る、米アカデミー賞で果たして何部門にノミネートされるか、注目だ。【村上幸将】
◆「ドライブ・マイ・カー」 舞台俳優で演出家の家福(かふく)悠介(西島)が満ち足りた日々を送る中、脚本家の妻音(霧島れいか)が、ある秘密を残したまま突然この世からいなくなってしまう。その2年後、喪失感を抱えたまま生きる家福は、演劇祭の演出で向かった広島で、寡黙な専属ドライバー渡利みさき(三浦透子)と出会い、1度は拒否するも受け入れ、ともに過ごす中で、それまで目を背けていた、あることに気づかされていく。