ヒット曲って何? ビルボードJAPANはダウンロード数など8つのデータから順位付け

ビルボード事業本部研究・開発部上席部長の礒崎誠二氏

<ニュースの教科書>

<ビルボード事業本部 礒崎誠二氏に聞く>

年の暮れが近づくたびに、音楽記者の間でかわす会話がある。「今年のヒット曲って、何があったっけ」。そもそも、ヒット曲の定義とはなんだろう。CD売り上げ、ストリーミングの再生回数、MVの再生回数…。そんな疑問に真摯(しんし)に答えようとしてきたのが、ビルボードJAPANの総合チャートだ。事業のスタート以来、どのようにブラッシュアップしていったのか。ビルボード事業本部の礒崎誠二氏に聞くとともに、上半期のランキングを振り返った。【竹村章】

昭和時代、テレビの音楽番組はランキング形式が主流だった。代表的なのはTBS系「ザ・ベストテン」。新幹線のホームから生中継するなど、リアルな歌唱がランキングの信ぴょう性を際立たせた。同番組の最高世帯視聴率は41・9%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。ランキングはレコード売り上げやラジオのリクエストなどから作成され、番組出演するとレコード売り上げはアップ。NHK紅白歌合戦の出場歌手はその年のヒット曲を歌い、世代を超えたヒット曲が存在した時代だった。

その後、ウォークマンの普及などにより音楽は個人で楽しむものに。ハードも進化。CDの普及で音楽はデジタル化され、MP3の技術から01年にはアップル社からiPodが誕生。1000曲も入った小さな機械を気軽に持ち歩けるようになった。さらにスマホの普及とともに、ストリーミングや、動画配信も含めて、あらゆるソフトで音楽が楽しめる時代になっている。

ビルボードはアメリカで最も権威のある音楽チャートだ。日本では阪神阪急東宝グループの阪神コンテンツリンクがライセンス契約を結び、08年からチャート事業をスタートさせた。当初は、CDシングルの売上枚数と全国ラジオ局の聴取回数の合算だった。

-最初から合算チャートなんですね

礒崎氏 米ビルボードのHot100はミックスでないとダメという決まりがありました。アメリカは51年にチャートが始まったのですが、レコードとジュークボックスの合算でした。ということで、ラジオのデータを加えました。

-ラジオはパワープレイなど作為されるのでは

礒崎氏 CDも複数枚購入をどう扱うかなど課題はありました。そこで、10年にはダウンロード回数も加え、日本ではレンタルマーケットもあるので13年からは、PCによるCD読み取り数であるルックアップ回数や、楽曲とアーティスト名のツイート数なども加えました。

-その後も進化します

礒崎氏 15年にはストリーミング回数と動画再生回数を。18年からはカラオケの歌唱回数を加えました。

-なぜカラオケを

礒崎氏 私たちの間でも、おじさんが飲んだ後に歌うという認識がありました。でも取材すると、若い人たちが、新曲を聴くためにカラオケ店に行くというデータがわかり、これはヒットを反映するのではと考えました。

-データは外部から購入するわけですね

礒崎氏 そうです。ただ、CD売り上げのサウンドスキャン社は子会社です。もともと、ビクターの資本で、信じられる数字を集めたいと始まった会社ですが、15年にその会社をたたむという話がありまして。(ライバルの)オリコンさんからデータを購入することはできないと思い、事業を継承しました。ちなみに、サウンドスキャンのCD売り上げでは、複数枚購入の減算処理はしていません。

-サウンドスキャンは米ニールセンとの共同事業でした

礒崎氏 米大統領選挙の当確システムから生まれました。エリアを分割し、その地域のリアルな売り上げをPOSで集計しシェアから計算。これはオリコンさんも似ているのでは。ただ、マネジメントの直接販売やアイドル系の販売をどうカバーするのかなどはそれぞれです。それぞれの楽曲のリアル販売とネット販売のデータは公表はしていませんが、トータルの金額ベースですと、リアル店舗のシェアは約3割です。複数枚購入はECサイトの方が便利な面も影響しているのでしょう。

-CDは複数枚購入、ラジオもパワープレイ、ストリーミングも再生キャンペーンなどもあります

礒崎氏 その昔からランキングデータにハッキングはあります。なので、複合データからチャートを作成しています。ただ、ストリーミングでも一日中音楽を流しているのと、仕事を終えた後に聞く1曲はどちらが重いのか。音楽との親和性の高いTikTokでの歌ってみた、踊ってみたをどう捉えるのか。昔はコアファンがアーティストの提供物を共有するのがアクションでしたが、現在はより積極的にコンテンツにアプローチする時代です。コアファンからファンダムに代わり、楽曲の楽しみ方も変わったので1つの指標の見極めも難しくなっています。

-そうなるとヒット曲の定義は難しいですね

礒崎氏 そうですね。ヒット曲とは、というよりも、音楽の楽しみ方を8つのデータで網羅していると考えています。チャートが絶対権威ではなく、逆に30位以下の曲でも、これがその人の1位だと考えてもらうのが本望です。私も80年代には、チャート下位の曲のカセットテープを作っていました。チャートからいろんな曲を見つけてほしいと思います。

-それではチャートの意味とは

礒崎氏 チャートがないと市場がカオスになると思います。順位をつけて、それを見せることでいろんな楽曲がヒットする可能性を作ると思っています。優里さんの「ドライフラワー」もノンタイアップでここまで来ました。楽曲がよければ、誰かの目に留まり、チャートに引っかかり、ヒットする環境が生まれたことはとてもよかったと思っています。

-チャート発表以外にもデータ販売を本格化しています

礒崎氏 8つのデータを、ある一定期間、それぞれ棒グラフにすると、アーティストのタイプがわかります。そのグラフの形は、例えばSixTONESのようなアイドル系だとCD売り上げがその時に大きくなるホームラン型、YOASOBIのようにストリーミングで聞かれるアーティストはグラフが一定していてヒット量産型と呼んでいます。ホームラン型はグラフが下がっている時にライブやテレビ出演したり、ヒット量産型は、SNSでの発信を重視するなど、データを読み取ることで、それぞれの販促につながります。どちらの型もありだと思います。ただ、BTSは19年まではホームラン型でしたが、世界進出が本格化し、ヒット量産型に。CDもストリーミングも両方とも数字は高く、アーティストのゴールなんだと思っています。

-上半期のデータから次に来るアーティストは誰ですか

礒崎氏 8つの指標以外に、HS(ヒートシーカーズ)という、ラジオ、ダウンロード、ストリーミング、週間動画再生数を集計し、急上昇中のアーティストを抽出したチャートがあります。上半期のHS1位は、大橋ちっぽけ「常緑」。総合では66位ですが。

◆ビルボードJAPAN Hot100

8つのデータで300位までの実数を集計し、米ビルボードの許諾を受けた係数を乗じてポイント化し合算したチャート。

(1)CDは店舗やコンビニ、ECサイトなど9割以上の実売データから推定(2)Download(DL)はアマゾン、iTunesなどから(3)Streaming(ST)はアマゾンプライムミュージック、アップルミュージック、AWAなどから(4)Radio(R)は全国主要エリアのAM、FM局のラジオ放送回数(5)Look Up(LU)はPCでCDを読み込んだ際にメディアデータベースにアクセスした回数(6)MVはYouTubeのオフィシャル動画の国内視聴回数とGYAO!の音楽コンテンツ視聴回数(7)Twitter(TW)は楽曲とアーティスト名の両方をツイートした回数(8)KARAOKE(K)は通信カラオケDAMとJOYSOUNDの歌唱回数を元に独自ポイントを付与したデータ。

◆竹村章(たけむら・あきら)1987年(昭62)入社。販売局、編集局地方部などを経て文化社会部。芸能全般のほか、放送局などメディア関連の担当が長い。テレビ特集ページ「TV LIFE」や「ドラマグランプリ」を立ち上げる。音楽全般も担当し、日本レコード大賞審査員のほか、吉田拓郎の連載なども担当。