辞めた女子アナ生かす道 出演以外に営業も…企業PR動画制作/カタルチア高橋絵理社長に聞く

カタルチアの高橋絵理社長

<ニュースの教科書>

夏は4月入社の新人アナウンサーが研修を終えてデビューする時期。これを「初鳴き」と呼びます。初々しさを感じる一方、民放キー局では、女性アナの退職や人事異動も目立ちます。地方局にまで目を広げれば、非正規雇用で辞めざるを得ない現実も。フリーの仕事が、そう次々とあるわけでもありません。女性アナが定年まで画面に出続けることは、難しいのでしょうか。フリーアナから、アナウンサーによる制作会社を立ち上げたカタルチアの高橋絵理社長(32)とともに考えてみました。

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民放キー局の女性アナウンサーの競争率は1000倍を超える。厳しい選考をくぐり抜けるため、学生時代から芸能事務所に所属したり、アナウンススクールに通う学生も多い。ハイスペックな女性が競い合う戦場だ。そんな激しい競争を勝ち抜いたにもかかわらず、局を去る女性アナは多い。日刊スポーツが、キー局のアナウンス部から人事異動や退職などで去った女性アナを数えたところ、ここ5年間で34人にも上った。フリーとなり画面に出続ける人もいるが、入社した人数分だけ去る感じもする。

受験する側から見れば、アナウンサー試験はピラミッドの構造だ。キー局を頂点に、在阪の準キー局、名古屋や福岡、札幌などの大都市の局へと受験生は流れる。そして、各県の地方局となると非正規雇用の募集も多い。公共放送のNHKでさえ、地方局でのアナウンサー、キャスターの採用は契約社員がほとんど。多くのフリーアナの経歴を見ると、北から南まで、地方局を転々としているのはそのためだ。

-高橋さんはなぜアナウンサーを

高橋さん 高校時代、朗読のボランティア団体で活動していて、地元のテレビ局に取材されNHKのスタジオにも呼ばれました。あまり勉強は得意ではなく、パッとしなかった環境が変わり、人生の衝撃。くすぶっていた自分の思いを引き出してくれたアナウンサーという仕事に憧れました

-放送局でアナウンサーを志望したんですね

高橋さん 最初の局はまずまずだったのですが、最終的にはダメで。それ以降もうまくいかず、落ち込み、挫折し、上手にしゃべれなくなりました

-最初からフリーに

高橋さん 事務所に所属し、最初は雑用などの仕事でした。イベントの司会の仕事もありましたが、フリーアナはたくさんいて、東京での暮らしは厳しい。それは私のスキル不足、キャリア不足のせいだと思っていました

-将来像を描けない

高橋さん 元局アナの先輩でも仕事がなく、飲食店でアルバイトをしている人も。私はキャリア不足でしたが、もしかしたら構造的な問題なんだと気付きました

-動画の仕事につながるわけですね

高橋さん 知り合いの社長から、研修用の動画を作成したんだけど、ナレーションを入れるのはどこに頼めば、と相談されたんです。すぐ、それは私の仕事ですよと。自宅で録音しPCで編集して、データでお渡ししました。社長にはとても喜ばれて。そこで気付きました。フィールドがあれば、フリーアナが活躍できる場所があるんじゃないかと。スキルがあるのに仕事がないアナと、アナに仕事をしてほしい企業を結べば、両者を応援できると考えました

-カタルチアを創業したんですね

高橋さん 25歳の時でした。カタルチアは「語る」と「チアー(応援)」の造語です。企業PRをアナウンサーが応援する会社です。動画コンテンツが伸びていることもあり、おかげさまで、業績は右肩上がりです

-動画の参入障壁は低いですが

高橋さん 確かに映像制作のハードルは下がっています。だからこそ、情報をわかりやすく伝えたり、まとめて正確に言語化するプロのアナウンサーの仕事が生きると考えています

-具体的には

高橋さん 例えば、会社紹介のビデオを作る時、アナウンサーが出演し、先方と掛け合いをすることでミニ番組ができあがります。低予算での制作が可能なので、喜ばれています。

-出役の仕事だけではないのですか

高橋さん 企画を提案し受注。構成を考え台本を作り、映像のディレクションをして、出役として自分が出る。場合によっては、カメラマンも発注し、別のアナをキャスティングし、自分はディレクターに専念することもあります

-その点では地方局アナはスキルが高い

高橋さん 地方局は人が少ないので、企画を立て取材、インタビューしてカメラを回し、編集しテロップ、ナレーションを入れ、夕方のローカルニュースには顔出しします。それなのに、非正規雇用のケースが多い。こんなに仕事ができるのに、生活が不安定なのはおかしい、ということが会社の原点です。だから、女子アナの互助会とも言われています

-営業スタッフがいるのですか

高橋さん どこかで仕事の話を聞き、そのナレーション私にやらせてください、と言っても実際は会社→広告代理店→映像制作会社→キャスティング事務所→アナウンサー、というのが流れです。待っていてもフリーアナは仕事がこない。だから、その時にカタルチアに仕事を任せてくださいと、全員が営業スタッフになっています。受注すれば営業フィーも支払いますし、自分が出役で出れば出演料も払います。この人を使って、というよりも、カタルチアという映像制作会社を紹介する方が現実的です

-編集作業は誰にでもできるのですか

高橋さん 機材の使い方などは勉強すれば誰でも使いこなせます。それよりも大切なのは、クライアントの意向を引き出し、伝えたい軸を理解し、絵コンテを作り、映像を制作すること。取材経験があり、コミュ力があり、言語能力が優れているアナウンサーに適していると思います

-熱量があると

高橋さん 企画の段階から携わっているので、その商品を誰よりも知っている。自分で取材しているから、自分が出て伝えるのは熱量が違う、放送作家が書いた原稿を読むのとは伝わる意気込みが違います

-クライアントがアナウンサーを選ぶ?

高橋さん ルッキズムもあるでしょうし、年配の方の仕事の拡大も課題ではあります。ベテランアナの企画で、先方に提示する際、アナのリストから自然に、自分を抜くんです。聞くと、若い人の方がいいと思ったというんです。だから、私から、あなたもリストに入れなさいと。だって、その商品について一番分かっているのはその人なんですから。結果、その人に決まりました。若くてかわいい人を求めるクライアントもいるけど、一番商品を理解してくれる人に話して欲しいと考えるクライアントも多いんです

-若くてきれい、がいいと思い込んでいる?

高橋さん きれいというのは、個性、強みでもあるのでそれは否定しません。ジェンダーも、みんながズボンならいいのではなく、スカートをはきたい女子もいる。画面の中で、華として扱われることを嫌だとは思わない女性アナもいます。女子アナという言葉遣いを止めれば、女性アナの非正規雇用がなくなり、華が求められる出役のポジションがなくなり、年を取ると画面に出づらくなる現状が変わるわけでもありません。ジェンダーやルッキズムの問題提起を否定するのではなく、ただ、アナウンサーの仕事を続けたい人のために、暮らせるお金を稼げるような仕組みを整えたいと思っています

■この5年で多くの女性アナウンサーがフリーに

この5年間で多くの女性アナウンサーがキー局のアナウンス部から去った。フジテレビはフリーになった16年加藤綾子、17年大島由香里をはじめ、今年も久代萌美、久慈暁子がフリーになった。TBSも19年にフリーになった吉田明世、宇垣美里のほか、今年はベテラン堀井美香がフリーに転身。テレビ朝日は19年に宇賀なつみ、小川彩佳、竹内由恵がフリーとなり、昨年は大木優紀の異業種への転職も話題に。テレビ東京も20年に鷲見玲奈がフリーとなり、翌年も秋元玲奈、森本智子が続いたほか、日本テレビも今年、久野静香がフリーに転身した。(敬称略)

◆高橋絵理(たかはし・えり)1989年(平元)11月10日生まれ、香川県出身。立命館大産業社会学部卒業後、フリーアナウンサーとして活動。その後、非正規雇用の女性アナのセカンドキャリア創出を目指し、15年7月、アナウンサーによる映像制作会社カタルチアを設立。民間企業や官公庁の映像コンテンツ制作を行う。会社経営の傍ら、自身もアナウンサーとしてイベントの司会やナレーションなどを務める。

◆竹村章(たけむら・あきら)1987年(昭62)入社。販売局、編集局地方部などを経て文化社会部。芸能全般のほか、放送局などメディア関連の担当が長い。テレビ特集ページ「TV LIFE」や「ドラマグランプリ」を立ち上げる。女性アナウンサーの1日密着をはじめ、ロングインタビューなども手掛ける。アイコン化された“女子アナ”への批判は、甘んじて受けたいと思います。