「オールナイトニッポン」サブスク解禁 ラジオ初、特定番組の聞き放題/担当を直撃

「オールナイトニッポンJAM」の番組ラインアップ

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「寝落ちした夜を取り戻せ!!」。こんなキャッチコピーを掲げ、ニッポン放送が6月、今年55周年を迎えた深夜の看板ラジオ番組「オールナイトニッポン」の過去放送が聞き放題になるサブスクリプションサービス「オールナイトニッポンJAM(ジャム)」を開始した。プロジェクトの中心メンバー、同局デジタルビジネス室の濱原晋介氏(56)と澤田真吾氏(33)に企画立ち上げの経緯や苦労、今後の展望を聞いた。【遠藤尚子】

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6月20日、前触れなくリリースされた「オールナイトニッポンJAM」(以下、JAM)にラジオファンがざわついた。特定の番組に限った聞き放題サービスは業界初の試みだ。

サブスクサービスのプロジェクトは、新型コロナウイルスの影響が広がり始めた20年初夏に本格始動した。主催イベントが軒並み中止となり、濱原氏は「世の中の動きが完全に止まった時にどうしようかと。新しいビジネスモデルを考えなくては、というところからスタートしました」と振り返る。コロナ禍以前はポッドキャスト内での広告ビジネスを収益軸の1つとしていたが、澤田氏は「コロナで広告案件がなくなり、広告収入だけでは安定しないよねと。BtoC(消費者向け)モデルをやろうと、今回のサブスクになりました」と話す。

「こんなサービスがあれば」というリスナーの声も後押しした。YouTubeなどで違法にアップロードされる例は後を絶たないが、澤田氏は「ユーザーさんのリテラシーもだいぶ上がってきていて、そこには手を出したくないと言ってくれる人も結構いる。そういった人たちのためにコンテンツを届けるには公式が汗をかいて、努力するしかない。ちゃんとしたものを作りたかった」と力を込める。

番組プロデューサーを交えて出演者への交渉を進め、サービス開始時点では大看板「オールナイトニッポン」をはじめ、姉妹ブランド「-0(ゼロ)」「-GOLD」などから放送中の現役を含め30番組が出そろった(現在は32番組)。「JAM」では一部を除き、00年代以降の番組をアーカイブ対象とする。長い歴史を持つ「オールナイト」だけに、往年の番組の登場を期待するファンもいるが「2000年以前は音源がデジタル化されていなかった」(濱原氏)と実現には技術的な問題が立ちはだかる。録音テープが残っていればまだしも音源が残っている確証もなく、澤田氏も「倉庫をあさって探すしかない」と明かす。

番組は初回放送から順次アップされているが、一括配信が難しい理由の1つに編集作業にかかる労力がある。過去の放送内容が現在の社会情勢にマッチするかを確かめる「検聴」をし、権利の関係で流せないBGMや当時放送で使用された楽曲をカット。その上で聞きやすいよう著作権フリーのBGMを重ねるなど、放送ごとに「21世紀とは思えない作業」(濱原氏)が発生する。番組の顔とも言えるテーマ曲「ビタースウィート・サンバ」は交渉の末に使用許可を得ているが、音楽が入った「完全形」を求めるリスナーの声は根強く、濱原氏は「音楽団体には今後も協力を働きかけていきたい」と語った。

過去番組を中心にストックする特性上、放送を懐かしむ30、40代をメイン層に見込んでいたが、意外にも有料会員の半数が20代だったという。濱原氏は「いわゆるZ世代がお金を払ってくれている。この方向性は間違っていなかったんだと。『オールナイト』が彼らにとってのラジオの原体験になっているのかもしれないと考えるとすごく勇気づけられるし、数字として見えてくると励まされます」。「オールナイト」の歴代パーソナリティーは俳優、ミュージシャン、お笑い芸人、文化人などさまざまで、顔ぶれの多様さが特徴でもある。「JAM」では“偶然の出会い”も提供したいとし「推しのパーソナリティーはもちろん、他の番組も聞いて欲しい。たまたまつけたラジオにハマって、以後毎週聞くようになることがあるじゃないですか。そういう体験を『JAM』でも実現できたら」と期待する。

澤田氏は「JAM」の今後について「対象を『オールナイト』に限らなくてもいいのかなと。面白い30分の箱番組(週1回放送の番組)もあるので、そういったものも出していきたい」と話す。異業種や地方局とのコラボレーションも構想しつつ「まずは『オールナイト』という分かりやすいブランドでラジオがストックされていくことが当たり前になる文化を作っていった上で、どんどん広げていけたらと思っています」と展望を語った。

▼「オールナイトニッポン」 1967年(昭42)10月、ニッポン放送の男性アナらがDJとなり、月~土曜の深夜番組としてスタート。73年から著名人がパーソナリティーを務めるようになり、2部制、3部制など編成を変更しながら今年55周年を迎えた。過去の出演者には笑福亭鶴光、中島みゆき、タモリ、ビートたけし、桑田佳祐、とんねるずらがいる。現在は1部の月曜をCreepy Nuts、火曜を星野源、水曜を乃木坂46、木曜をナインティナイン、金曜を霜降り明星、土曜をオードリーが担当する。

▼「オールナイトニッポンJAM」 2000年以降の放送を対象に、「オールナイトニッポン」ブランドの番組音源が聞き放題になるサブスクリプションサービス。月額500円。公式サイトでは「もう一度聞きたいオールナイトニッポン」のリクエストを随時受け付けている。

◆濱原晋介(はまはら・しんすけ)91年ニッポン放送入社。スポーツ、営業、人事などを経て、ビジネス開発局デジタルビジネス室長。ニッポン放送の推し番組は「『ショウアップナイター』。キャリアのスタートが野球場なので」。

◆澤田真吾(さわだ・しんご)13年ニッポン放送入社。ビジネス開発局デジタルビジネス室所属。「JAM」企画立案の中心人物で「『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン』を聞いて、この会社に入ろうと思いました」。