吉原光夫の境地 ミュージカル「おとこたち」意欲 劇団四季出身、ドラマでも活躍44歳が語った

恵まれた体格と優しい語り口調が魅力的な吉原光夫(撮影・中島郁夫)

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ミュージカル「レ・ミゼラブル」のジャン・バルジャン役で知られる吉原光夫(44)が、3月12日初日のミュージカル「おとこたち」(東京・渋谷PARCO劇場)に出演する。男たち4人の22歳から85歳までのおかしくも壮絶な人生を描く、岩井秀人作・演出の異色作。シェークスピア作「ジョン王」で代役を務め、NHK大河ドラマ「どうする家康」に柴田勝家役で大河初出演するなど、幅広く活躍する吉原に話を聞いた。【林尚之】

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作・演出の岩井秀人さんからの手紙が出演の決め手になった。

「私の舞台を観劇した岩井さんから手紙をもらい、作品や演技についての感想が書かれていたのですが、良かったこと、悪かったことなど的確で、うそ、偽りがなく、演劇を大切にする気持ちにも共感できた。岩井さんの舞台を見ていて信頼感もあったので、ちょい役でも出たいと思いました」

「おとこたち」は4人の男たちに起こる恋、不倫、老い、病気、死、暴力などを描いた作品。14年に初演され、今回はミュージカルとしての上演となる。吉原は製薬会社営業マンの鈴木を演じる。

「人生って、目を伏せたくなることや見たくないこともあって、ストレートプレイだと残酷で痛々しくなるものも、音楽にのせてやると和らいでいく。鈴木やほかの役にも共感しかないし、いとおしくなる。初日にはすごい景色が広がっているだろうと確信しています」

共演はユースケ・サンタマリア、藤井隆、橋本さとし、大原櫻子、川上友里らで、2度目となる大原以外は初めての共演。橋本は「レ・ミゼラブル」でジャン・バルジャンを演じており、2人のバルジャン俳優が並び立つ。

「大原さんは若くして、24時間演劇のことを考えている人。年下だけど、演劇を通じて知り合った友人です。橋本さんは『レ・ミゼラブル』のオーディションを受けた時、参考に見た舞台映像でバルジャンを演じていた。自分が勉強したジャン・バルジャンが隣にいるのは不思議な感覚ですね」

186センチの長身で、中高校ではバスケットに打ち込んだ。専門学校で演劇を学んで、その魅力に目覚め、劇団四季に入った。

「映画で見た『ジーザス・クライスト=スーパースター』に出たくて四季に入りました。浅利慶太さんに出会って、俳優としてのすべてを形成してくれた。メード・イン劇団四季で、感謝とリスペクトしかない。僕の原点です」

退団後、四季時代の仲間と小劇場で活動を続けた。米国に演劇留学した若手演出家の小川絵梨子さんが演出を担当し、英米の現代演劇を上演した。その後、小川さんは新国立劇場の芸術監督に就任した。

「本当にぜいたくな時間だった。小川さんとは作品の趣味もあったし、それまで僕が培ってきたものを訂正して、また新しいものを入れてくれた。出会いに感謝です」

32歳の時、「レ・ミゼラブル」のオーディションに合格し、ジャン・バルジャンに抜てきされた、日本公演の歴代最年少のジャン・バルジャンだった。

「その時も小川さんの前でジャン・バルジャンの曲を歌ったら、『全然分からない。これは独白であって、何を言っているか聞きたいよね』とアドバイスしてくれた。彼女が有名になった時も嫉妬はなくて『行け!』って感じでしたね」

昨年12月にはシェークスピア作品初挑戦で、「ジョン王」のジョン王を代役で演じた。

「四季時代にも『ライオンキング』などで代役したことがあったし、依頼された時の(相手側の)電話の感じがやばかったので引き受けました。初めてのシェークスピア劇で、膨大なせりふ量に最悪と思いました」

20年のNHK連続テレビ小説「エール」で馬具職人の岩城を演じ、最終回の特別編で「イヨマンテの夜」を熱唱して知名度がアップした。今年は大河ドラマ「どうする家康」に柴田勝家役で出演する。

「『エール』は5話ぐらいで終わるはずでした。でも、予定した舞台がコロナ禍で延期となってスケジュールが空いたので、また出ることになったんです。『どうする家康』は、急きょ『ジョン王』の稽古と本番が入ったので、掛け持ちで死ぬかと思うほど大変でした。せりふもあまり覚えられなくてやばいなと思ったんですが、ちゃんとやることをやめたら、できました。肩の力が抜けたのが逆によかったかもしれません」

「おとこたち」では順調に出世しながらも闇を抱える鈴木を演じ、「どうする家康」では熊のように大きく、声は柱を壊すほど大きい勝家を演じる。

「20代は無敵と思って、唯我独尊だった。でも、30代で『あれっ』と思うことがしばしばあった。うまくいくはずの30代後半に暗雲が立ち始め、44歳になった今も雲を払拭できたわけじゃない。でも、大人になったら強くなると思ったけれど、精神的にも肉体的にも弱く、怖くなっていく年齢。怖いことを隠さずにあるものとして、怖さと同居しながら生きていきたいと思っています」

◆吉原光夫(よしはら・みつお)1978年(昭53)9月22日、東京都生まれ。99年に劇団四季付属研究所に入所し、「ライオンキング」「美女と野獣」などに出演。07年退団後、元劇団四季メンバーと「Artist Company響人(ひびきびと)」を結成し、演出も手掛ける。11年「レ・ミゼラブル」に主演し、ミュージカル「マリー・アントワネット」「手紙」、映画「燃えよ剣」「ヘルドッグス」にも出演。現在配信中のディズニープラス「ガンニバル」に出演中。

■2~3月四季出身者作品

2~3月上演の劇団四季出身者出演作品には、退団から35年ぶりの共演や、四季OBがダブルキャストで主演する公演がある。

▼舞台「キングダム」(帝国劇場、2月5~27日)

四季で活躍した山口祐一郎(66)と壤晴彦(75)が35年ぶりに共演。大人気漫画の舞台版となる「キングダム」は中華統一を夢見る少年の信と、後に始皇帝となる政の2人を主人公にした物語で、壤は政の曾祖父にあたる昭王など2役、山口は昭王に忠誠を尽くす王騎を演じる。山口と壤は四季時代には「ジーザス・クライスト=スーパースター」などで共演しているが、退団後は初めて。

舞台では死期が迫った昭王が王騎に中華への熱い夢を語る場面が用意されている。山口は「キングダム稽古場でお姿を拝見した時、突然、1970年代後半にタイムスリップしました」と久々の再会を喜べば、壤は「彼とは『ジーザス』ではイエスとピラトで歌の応酬をしたのみ。今回初めてせりふを交わすことになります。それもこんな壮大な物語の中で。ゾクゾクしますね。楽しみです」と話している。

▼ミュージカル「ジキル&ハイド」(東京国際フォーラムCホール、3月11~28日)

主演は石丸幹二(57)と柿沢勇人(35)。科学者ジキル博士が人間の善と悪を分離する薬を発明したことから起こる悲劇で、日本初演は01年。石丸は12年から単独主演してきたが、今回がファイナルで、柿沢は初登場となる。石丸は四季では看板俳優として「オペラ座の怪人」などに出演したが、07年に退団。柿沢は「春のめざめ」などに出演し、09年に退団した。四季時代の共演はなかった。

昨年12月の会見で、石丸が「若いカッキー(柿沢)に負けないよう体力をつけて頑張りたい」、柿沢は「石丸さんのすてきなところを勉強して、自分なりの『ジキル&ハイド』を作りたい」と話した。同舞台には2人のほか、21年に四季を退団した上川一哉(36)、09年退団で昨年は大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で大江広元を演じた栗原英雄(57)も出演する。