2月4日に東京・ユーロスペース1館で封切られた映画「茶飲友達」(外山文治監督)が、公開から10日の14日現在で公開劇場が25館まで拡大するムーブメントを起こしている。製作したENBUゼミナールは、18年6月に都内2館から全国375館にまで公開が拡大し、製作費300万円ながら興行収入(興収)31億円超を記録した「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)も製作。「カメ止め」と同じシネマプロジェクト第10弾の「茶飲友達」のヒットは、その再来になるのでは? と期待が高まっている。
「茶飲友達」は、2013年(平25)年10月に、会員男性1000名、女性350名(会員の平均年齢は60歳前後で、最高齢は男性88歳、女性82歳)で男性経営者も70歳という、高齢者売春クラブが警視庁に摘発された実際の事件を元に、外山文治監督(42)が着想し、オリジナルで脚本を開発。21年3、4月に667人が参加して10日間、行われたワークショップ・オーディションで、主演の岡本玲(31)ら33人の出演者を選抜した。岡本演じる高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達(ティー・フレンド)」代表の佐々木マナや海沼未羽(22)演じる朝倉千佳ら運営側を若い世代に置き換え、老人の孤独死、介護といった高齢化社会の問題と、低賃金などで行き場のない若い世代という、日本社会の2つの課題を描いた、社会派群像劇。キャストの年少、年長の年齢差が57歳というのも、その作品性を物語っている。
ユーロスペースでは、公開初日からロビーからあふれた観客が下の階まで列をなし、初回から5回連続で満席となった。1日3回の上映ながら、土日(4、5日)2日間の成績は動員715人、興収110万円と好スタートを切った。平日もシニア層を中心に動員は落ちず、公開2週目の週末(11日、12日)も連日、満席。そうした動きが反響を呼び、公開館も全国へと順調に拡大し、今後は横浜、名古屋、大阪、福岡などで公開する。
「カメ止め」の場合は、公開初日の18年6月23日から上映が72回連続満席という驚異的なヒットを打ち立て、同7月22日時点で公開は全国8館に拡大。興収3858万5390円、動員2万4928人を記録した。それを受けて、アスミックエースがENBUゼミナールとの共同配給に乗り出し、同7月25日時点で全国40館での拡大公開が決定。同8月3日には北海道から鹿児島まで全国124館の劇場に公開が拡大された。
「茶飲友達」のブレークには、「カメ止め」の公開拡大と符合する部分がある。一方で、両作品の決定的な違いは「カメ止め」が、山奥の廃虚を舞台に37分間ワンシーン・ワンカットでゾンビサバイバル映画を撮影する、自主映画撮影隊を描いた若者向けの映画だったのに対し、「茶飲友達」は内容からいってもシニア向けの映画ということだ。
コロナ禍以前は、映画館の平日、しかも昼間の興行は比較的、時間に都合がつきやすいシニア層の動員に支えられていた。それが20年春にコロナ禍に陥って以降、シニア層の足が劇場から遠のき、シニア層向け作品の興行は軒並み、苦戦した。そうした中で「茶飲友達」は「カメ止め」ブームのシニア版になり得ると話題を呼んでいる。
ユーロスペースの北條誠人支配人は「コロナ禍がシネコン、ミニシアター問わずに残したものは、シニア層の観客が劇場にもどってこなくなったことです。その影響を受け、東京で最も古い歴史をもつ岩波ホールが昨年7月に閉館しました」と、映画業界の現状を説明。そして1月31日に都内で行われた、日本映画製作者連盟(映連)新年発表会で公表された、22年の概況を踏まえ「映連が発表した2022年の興行収入は前年比131・6%までとりもどし、史上最高の興行収入を得た2019年の89%まで取り戻しました。それはアニメ作品のいままでにない大ヒットが支えた数字で、ミニシアターにはその余波の影響はありません」とした。
その上で「茶飲友達」について言及。「『茶飲友達』が描くのは高齢者のセックス産業です。ですから、正直、どれだけシニア層が『茶飲友達』を見に来てくださるのだろうかと心配はしていました。コロナ禍の出控えと高齢者のセックス産業の可視化。実際に初日を迎えて、ワークショップに参加された役者さんたちが引っ張ってきたお客さん以上に、予想を超えるシニア層がいらして驚きました」と、シニア層が映画館に戻ってきたことに、喜びを超えた驚きを示した。
北條支配人は、動員の状況について「男性のひとり客と女性のふたり連れが圧倒的に占めています」と説明。「渋谷という街が若者の街ということもあり、またユーロスペースの劇場カラーが若いお客さんに支えられているミニシアターとしては珍しいスタンスゆえ正直、一番予想できない層が初日から2日目の毎回満席にして平日月曜日の初回も満席近くになって、びっくりしました」とムーブメントへの率直な感想を語った。
そして「どこでこの作品の情報を得たんだろうという驚きと劇場に戻ってこないと言われた層がちゃんと動いているという驚き。私たちが頭で理解していることを映画はものの見事に裏切っていきます。自分たちの好奇心に応えてくれる映画にはきちんと足を運んでくれる姿をみて、コロナと共に生きていくことになるこれからのビジネスについて、考えを新たにした次第です」と「茶飲友達」のムーブメントで考え方自体、帰られたと語った。そして「自分たちの好奇心から社会の関心へ『茶飲友達』が動き出したようです」と社会的なムーブメントになりつつある、作品の今後に期待を寄せた。