東京映画記者会(日刊スポーツなど在京スポーツ紙7紙の映画担当記者で構成)主催の第65回(22年度)ブルーリボン賞が23日までに決定し、石川慶監督(45)が「ある男」で作品賞を受賞した。
石川監督は「いろんな賞がある中で記者の皆さんに選んでいただけた。それも作品賞というのがすごく大きくて。みんなですごく良い完成度に出来たので、自分たちが目指した形として褒めていただいた感じがすごくうれしい」と喜んだ。
石川監督は両親の影響で幼少期から映画に興味を持ち、大学卒業後、映画監督を志し、ポーランドの国立大学に留学した。同作は第79回ベネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に正式出品され、上映終了後、5分に及ぶスタンディングオベーションを受けるなど、海外でも高い評価を得た。
“アイデンティティー”がテーマの同作に「海外の映画祭に行くと『日本映画って社会を描かないよね』と言われるんです。触らないほうが良いという暗黙の了解がある中で、韓国とかは果敢に挑戦してエンタメとなってみんなが見ている。とはいえ、それだけの映画を作る意思はないし、今回の映画もテーマはそれだけではない」と言及した。
「社会問題を扱う時に、それだけの映画だと思われると損。“在日問題を扱いました”だけが注目されるのは損だよねと。生活していて見聞きするものをナレーションとかで補足することなく、映画だと違和感を持ってくれる、さじ加減がちょうど良いと思った」。
劇中では在日問題を扱うテレビ番組が写るシーンもあったが、映像は実際に使用された映像を買い取って使用したという。「やはり皆さんが納得する形は難しい。今回も少ないと言われたり、強すぎるという声もあった。(映像が)強すぎるのであれば、そもそも現実が強すぎるということも考えられる」と自身の見解を示した。
弁護士の城戸を演じた、主演の妻夫木聡(42)とは17年公開の「愚行録」以来、2度目のタッグを組み「妻夫木さんと二人三脚で進めた実感が強いので、そこに対する感謝は大きい」と感謝した。
「妻夫木さんがやると言ってくれなかったら、前に進めなかった。『ある男』は自分たちの中でも大きなステップ。定期的に作品を作る関係性になれば」とも話し、今回の妻夫木の役作りには「圧倒的なスターですけど、こんなに普通で透明に転じる人ってなかなかいなくて。そこが悪目立ちせずに作品の世界にスッと入り込めるのは唯一無二。(妻夫木が)40代に入って、役所広司さん、佐藤浩市さんの後ろ姿が重なる大きい役者さんになっていくのを、撮っていても感じた」と振り返った。
主要キャストだけではなく、脇を固める役者まで際立った。「本当に理想的なオールキャストが集まったというか、見た目が派手なだけではなく『この役にこの人だ』という幸運が重なった。こんなキャストが集まるのは2度とないというのもちょっとあって、今でしか撮れないお芝居を撮ろうと今回ずっと思っていた」と話した。
同作は、累計28万部を超える芥川賞作家・平野啓一郎氏の小説を映画化した。純文学作品を映画化する難しさを「邦画界全体としてエンタメと違うベクトルに行くので、純文学を消す流れで人を呼びこむ。意味はわかりつつも、純文学にも良さがある。原作モノは完全にアウェーで試合するようなものなので、ぐうの音もでないような作品を作れば声援がつくと思っている」と心境を明かした。
次回作にも期待が高まるが「原作モノとオリジナルを両方抱えているが、基本的なスタンスは『おもしろい映画を作りたい』という思い。最終ゴールに対して純粋に誠実にいたい」と語った。【加藤理沙】
◆ブルーリボン賞 1950年(昭25)創設。「青空のもとで取材した記者が選出する賞」が名前の由来。当初は一般紙が主催も61年に脱退し67~74年の中断を経て、東京映画記者会主催で75年に再開。ペンが記者の象徴であることから副賞は万年筆。新型コロナウイルス感染拡大防止のため授賞式は3年連続で開催を見送ってきたが主演男、女優賞受賞者が翌年の授賞式で司会を務めるのが恒例。