3人組フォークバンド酔蕩天使こだまたいち「やっとスタートライン」音楽、映画で表舞台出た心境

今後の活動について語る、こだまたいち(撮影・村上幸将)

3人組フォークバンド「酔蕩天使」(よいどれてんし)のリードボーカルこだまたいち(31)は、22年に飛躍した1人だ。テレビ東京系で昨年6、7月に放送された連続ドラマ「ザ・タクシー飯店」に主題歌「タクシードライバーブルース」を書き下ろしデビュー。11月には初主演映画「ゆめのまにまに」(張元香織監督)が公開され、全国で順次、上映された。18年にファッション誌「メンズノンノ」専属モデルを卒業して5年。生業にしたかった音楽、映画で表舞台に出た心境を聞いた。【村上幸将】

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こだまは、昨年1年を「やっと、スタートラインに立ったようなイメージ」と位置付けた。まず、酔蕩天使として、昨年6月1日に放送開始の「ザ・タクシー飯店」の主題歌「タクシードライバーブルース」でデビュー。同曲を、同17日に発売した。

「あれは大きかったです。いずれ来るであろうデビューのために曲だったり、いろいろ準備はしていて。どこで自分たちを表に出そうか? というタイミングで出したという感じ」

酔蕩天使は、ボーカル&ギターのこだま(タイチ)とギター、マンドリン、バンジョー、コーラス、編曲の水永康貴(ヤス)、ベースの磯部智(サトル)による3人組フォークバンドだ。ヤスは韓国出身のアーティストNight Tempoのライブにギタリストとして参加。サトルも姉妹ピアノ連弾ボーカルユニットKitriのトラックメイクやアレンジも手がけている。

「タクシードライバーブルース」を発売したのは、個々の才能を生かして活躍していた3人が「集まって、この3人で行こうというタイミングから2年以上たっていた」(こだま)時だった。どういう曲をやっていこうか、話し合っていたのは、ちょうどコロナ禍が始まった時だった。

「こんな曲、こういう音でどう? みたいな。ちょうどコロナで、時間はたっぷりあった。時間があるが故に、あれもダメ、これもダメ、というのもあったんですが」

その中、主題歌の話が来た「ザ・タクシー飯店」は、事務所の先輩・渋川清彦(48)演じる個人タクシーのドライバー八巻孝太郎が、一期一会の乗客と車内で人生を語り合い、時に愛する町中華に連れて行き、酒まで酌み交わす。その物語をテーマに、こだまは歌詞にタクシードライバーの生きざまを刻み込んだ。

作曲も担当し、口笛で始まる、マカロニウエスタン調あふれるブルースを作り上げた。何より、こだまの柔らかなハスキーボイスが胸にしみる。フォークソングをやっていくことになったのは、自身がフォークソングが好きだったからだ。

「そこまで深く意味を考えていなくて…。ただ、何となく日記のような、エッセーのような、肩に力の入っていないフォークの歌詞が自分には、しっくりきた。性格もガツガツしている方じゃないので、ひっそりとした歌を歌おうかと。本当に好きなんで。こういう音楽を聞いたことのない人には、聞いてほしいから」

昨年11月12日には、91年の設立以来、映画作りにこだわる所属事務所ディケイド設立30周年記念作でもある主演作「ゆめのまにまに」が公開された。役作りの根底には、撮影が行われた東京・浅草に実在する古物店「東京蛍堂」へのリスペクトがあった。

「東京蛍堂に、もともと商品が並んでいるロケーションが素晴らしいので、やっぱり頭から最後まで店内が中心。その画面の雰囲気が良くないと、成立しない映画だと思っていて。自分の存在で邪魔しないというか…。そこにただ、いるということを意識しました」

劇中では村上淳(49)演じる不在がちな店主・和郎に代わって店番をするアルバイトのマコトを演じた。「ただ、いる」という言葉とは裏腹に、スクリーンの中心で際立った存在感を見せる。浅草の街が、どこか違う時代、空間のように映るのも、マコトがゆったりながらチョウが羽ばたくかのように自転車で街を巡っているからだろう。

「自転車で現れた冒頭の姿は、台本を見た時点で(脳裏に)映像が浮かんできた。自転車をこいで、あの辺を走る…。まさに日常でしかないんですけど、そこから始まって、心に風が抜けていくような…。ここから何かが始まるかもしれないという、小さなファンタジーの導入としてバッチリ合っている。自分の中で、良いシーンになる確信しかなかった。監督からは『少し蛇行してください』『閉まっているシャッターをチラチラ見てください』と具体的な演出はあったんですけど、やるだけで大丈夫という確信があった。(台本は)すごいと思いました」

東京蛍堂には、さまざまな客が足を運ぶ。千國めぐみ(34)演じる真悠子だけが繰り返し店を訪れ、店主の和郎と何か訳ありの関係だと想起させるが、客の詳細は描かれず、マコトでさえ細かな人物像は示されない。その余白の多さが、この映画の魅力だと、こだまは強調する。だからこそ続編はあえて望まない。

「お客さんが店を出た後に何をしているかは、あまり映されない。それが想像できるような仕掛けにはなっていますが、店以外で何をしているかのヒントがちりばめられている。それが絶妙だなと思うのが監督のセンス。いやらしくない情報(の出し方)、そこ(続編)は、やぼになりかねないので…ここで、終わりです、ということなのかもしれませんね。ここで、ちょうど終わるんだと思います」

「ゆめのまにまに」では、19年にソロで発表した楽曲「サンローゼ」が、張元監督が映画を着想するにあたり、大きなヒントになったとして主題歌に選ばれた。音楽活動、俳優としての活動に、それぞれ1つの形を作ったが、まだまだこれからだと考えている。

「最初から最後まで出ずっぱりで芝居したのも初めてで、主題歌もやった。ただ『サンローゼ』という曲を出しました、『ゆめのまにまに』に主演しましたという1発だけで、こだまたいちという人間は浸透しない。やったから終わりじゃなくて、質を自分の中で上げていく…この挑戦は長いと思っていますね。こんな人がいるんだという説得力を、これからの長い時間で生んでいくことをしたい」

中学時代、兄が音楽の先生からもらってきたアコースティックギターを弾き始めて音楽に興味を持った。その兄から紹介された、モッズカルチャーなどを描いた79年の英国映画「さらば青春の光」を見て映画への出演を志した。その2つの夢をかなえる足掛かりとして12年10月号から「メンズノンノ」専属としてモデル業にも取り組んだ。今後、どこに向かって歩いていくのか?

「とにかく、今後の作品をいいものにしたい。良い役者、良いミュージシャンになれるように…。どこを切っても、こだまたいちだと言ってもらい、それが初主演映画の再評価につながったら、うれしいですね」

こだまは、ゆっくりと歩んでいく…。音楽と映画の世界に、自らの存在を刻み込むために。

◆酔蕩天使&こだまの今後の活動 酔蕩天使はワンマンライブ「ollie ollie」を12、31日に東京・下北沢で開催するが、12日はチケットが完売。19日には、こだまが名古屋でのライブイベント「under the sunset」にソロで出演。4月14日には、こだまが「サンローゼ」の動画でコラボした、中野ミホとの初のツーマンライブ「酔蕩天使presents『マイルドブレンド』」を東京・渋谷で開催する。