徳永えり殺陣に初挑戦したダブル主演映画「クモとサルの家族」で共感した夫婦と家族の幸せの形

映画「クモとサルの家族」で主演を務める徳永えり(撮影・鈴木みどり)

徳永えり(34)が、宇野祥平(45)とのダブル主演映画「クモとサルの家族」(長澤佳也監督、18日公開)で、時代劇の殺陣に初挑戦した。2002年(平14)に14歳でモデルとしてデビューし、04年にフジテレビ系ドラマ「放課後。」で女優デビューし19年。そのキャリアの中でも「新鮮」「面白かった」と語る作品の魅力について語った。

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「クモとサルの家族」は、河瀬直美監督の03年「沙羅双樹(しゃらそうじゅ)」や、ダウンタウン松本人志の第1回監督作品の07年「大日本人」、20年の諏訪敦彦監督の「風の電話」、同年の清野菜名と松坂桃李の主演映画「耳をすませば」などの製作、プロデュースを行った、長澤佳也監督のオリジナル脚本の作品だ。同監督は、魅力を感じていた時代劇の中から、忍者を主人公にした家族の物語を作り上げた。

映画は冒頭から広大な大地で始まり、そこから徳永演じる主人公の顔を後方から、なめるようにアップで映しだしていく。画面の展開は日本映画的ではなく、オープニングのキャスト、スタッフ紹介も全て英語。アップテンポでインパクトのある楽曲含め、香港のアクション映画のようだ。

「まさに、そう(香港映画のよう)で、不思議ですよね。最近の日本映画では、なかなか見ない、ダイナミックさと、ポップさとエンターテインメントという、いろいろなものが交じっていて。撮影当初は、あそこまで、ポップにカラフルな出来上がりになるとは想像していなかったので、見ていて新鮮でした」

物語は、江戸時代初期の、椿藩と火ノ藩の中立地帯が舞台だ。森に住む一家の家長サル(宇野)は元忍びだが、血なまぐさい仕事は苦手で、現役時代はもっぱら争いの交渉人として活動。天下太平の時代となり、仕事もなく主夫として家庭を守っている。一方、妻のクモ(徳永)は、他国から声がかかる売れっ子の忍びで、仲介人を介して働くクモの稼ぎが、この家族の生命線となっている。

映画の序盤から、忍びを演じる徳永の殺陣のシーンが登場する。ダンスの経験があっただけに、殺陣に初挑戦したとは思えないほど、動きのキレは鋭い。

「時代劇自体は経験はありますけど、アクション自体は今回が初めてでした。ダンスは、ある程度、やっていましたけど…。アクションは相手あってのものですので、傷つけないように…とすると、どこか、ビビっている心が(動きから)体でバレて、先生に『それじゃあダメ』って怒られて…自分の恐怖心と闘う時間でもありましたね。型があるのは振り付けと似ているなと思ったので、そういう意味では助かったんですけど」

クモが使う武器の二丁鎌は、芝居はもちろん、制作から苦心惨憺(さんたん)の末、生まれたものだった。

「刀とは、さばき方が違います。さらに、監督が『ガンマンの2丁拳銃みたいに出して欲しい』と言うので、美術スタッフも、どう作れば抜けるんだ、どうやったら格好良く見えるんだと頑張ってくれて…。とにかく私は、落とさないように、危なくないように、慣れることで必死でしたね。アクションの際は、危なくないように加工したものでしたけど、そうじゃない時は本物。スキあれば、ずっとクルクル回したりとかしていましたね」

サルとクモの4人の子どものうち、実子は一番下の弟兎(ニエ・ズーハン)だけで、長女蝶(田畑志真)はクモと先妻との間の子で、長男竜(リー・ファンハン)と次女豪(チャオ・イーイー)は孤児だ。そうした複雑な関係ながら、皆で力を合わせて幸せに生活している家族が描かれる。中国の子役を中心とした、アクションシーンも軽妙で、家族のシーンは全編を通して、明るい。

「体が動く子を選んだと、監督はおっしゃっていましたが、子どもたちなので、ずっとエネルギーがある。山でも簡単に飛び越えるし、クルクル回ったり、すごかったですね。ちょうど、クモさんが最終的に、おなかに(赤ちゃんが)いるんだよと、分かる場面があるので、妊娠しているという設定に甘えて…でも、出来る限りの事はやりたいなと思った」

出来る限り…と思った裏には、フィルムで撮影することへの思いが大きかった。

「今回、35ミリのフィルムで撮っていて。フィルムでアクションというのを、最初に聞いた時、まず、すごく難しいことだと思った。フィルムって、そもそも貴重なもので、何本も何本も使えないものですし。それに加えて、アクションは、なかなか難しい。もともと、殺陣をすごくやっていた人間でもないですし…その緊張感があった。でも、現場になり響くカラカラという、フィルムならではの音だったり、デジタルでは味わえない本番での緊張感とか、今はすごい貴重なので、すごく良い現場にいるなぁと思いながら撮影していました」

劇中では、野草を採取したり、狩りをして、自然の恵みを堪能する一家の食事のシーンも描かれる。生きたイノシシをさばくシーンをはじめ、食育を描いたのも作品の大事なポイントだ。

「私は、そのシーンはいなかったんですけど、ずっと撮影していた小豆島では結構、イノシシがいっぱい出るので、さばくというんです。地元の方の協力を得て、おいしくいただけて撮影もできました。特に子どもたちは、いろいろなものをダイレクトに吸収する時期なので、最初は生きている状態をさばいていくのは、すごく怖かったみたいです」

「だんだん、やっていくうちに自然の摂理というか…スーパーでパックに入っているものに行き着くまでの過程を感じて、最後は『おなかが空いてきた』と言うくらいでした。たくましいですし、素直にいろいろ感じた上で、みんなでイノシシをいただくシーンは、本当にありがたい気持ちでいただけたんです。みんなで焼いて、普通に食べて…おいしかったです。目を背けたくなりますけど、自分たちが何で生かされているのかに直結するので、食育は大事なテーマだったと思いますね」

クモは、サルがかぶってしまった元師匠の借金まで返済するなど、家計を一手に支える大黒柱だけに、家庭内でも主導権を握っている。一方で、主夫のサルは一見、頼りなさげながらムードメーカーでもあり、その存在が家族を支えている。そんなサルを演じる、宇野の動きは実に面白く、映画のアクセントになっている。

「宇野さんは何していても面白いというか、かわいげがあり、すごく愛らしいんですよね。それが、サルという役にも、すごくマッチしているというか、いとおしい気持ちになりますね」

サルの元同僚で、クモにとっては仲介人でもある、どぶろっく江口直人(44)演じる犬は、物語を動かす存在だ。加えてクモと犬、宇野と江口の見た目が激似であることも、映画にとって1つのアクセントとなっており、徳永もそこに面白みを感じている。

「宇野さんと江口さんのフォルムが似ていて…あの2人のカットバック、恐らく、監督は狙ったんですよね。笑っちゃいますよね。ちょこちょこ、監督のこだわりと言うか、おかしみみたいなものが組み込まれていると思います」

うつぶせになって、サルに腰をもませる、クモの姿が、すごく自然に描かれているが、そこに、徳永は共感するという。

「サルさんが、クモのことを好きだという気持ちは、もちろん画面上で見て分かると思うんですけど、私の中では『私の方が好きだ!』という気持ちはなくさないように意識しました。ないがしろには絶対にしない…たとえ長女が反抗期であっても、お父さんのことを悪く言うのは許さんと…どれだけサルさんが好きか、という気持ちは、愛情の元。相手が宇野さんで良かった。宇野さんが大好きなので、現場では宇野さん好き、好き! と、ずっと思っていました」

劇中では、子どもの教育面も考えて街に出て生活しようと言うサルと、生活費などの面で難しいとたしなめるクモの、夫婦のやりとりも描かれる。そこは、まさに現代の夫婦、家庭にも通じたシーンだ。

「もはや新しい形でもないというか。今は多様性というのもあって、夫婦だけじゃなく(サルとクモの一家のように)家族のあり方自体、息子や娘でも血が繋がっていない子たちもいますし…それでも、私たちは家族なんだ、と。血のつながり、立場とかそういうのではない、自分たち、お互い、考えた形を大事にするというのは、本当に今、まさに必要というか、もっと、こうであったらいいのになぁと思っていたので、私は演じていて、とっても心地よかった」

徳永は「いろいろな形があってしかるべきだし、本人たちで、それで良いなら、それで幸せだと思うというのはクモさんに共感できましたね」と、現代に通じる夫婦の形を描いた部分が、作品の良さだと強調した。【村上幸将】