水谷豊23年ぶり舞台「これから舞台をどうするか。結論を出すためにやってみようと」挑戦語る

定番の!? スーツ姿ではなくカジュアルな稽古着姿の水谷豊さん。久々の舞台にはつらつと臨みます(撮影・滝沢徹郎)

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俳優水谷豊(70)の主演舞台「帰ってきたマイ・ブラザー」が、あさって4月1日、東京・世田谷パブリックシアターで開幕する。無双の芸歴の持ち主だが、舞台出演は23年ぶり3度目。舞台から縁遠かった理由や、約四半世紀ぶりに出演を決めた思いなど、70歳の挑戦を大いに語った。【梅田恵子】

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そもそもキャリアの原点は舞台である。14歳で当時の人気劇団「雲」の「ドン・ジュアン」(66年)に客演し、山崎努、岸田今日子、橋爪功らそうそうたる顔ぶれと共演した。「子どもだったから、俳優として舞台に立つ自覚など何もなくて、遊んでたみたいな(笑い)」。00年に「陽のあたる教室」の音楽教師役で舞台に立ち、以来23年がたつ。

「気が付いたら離れていた」のだという。「舞台って2、3年後のことを決めるんですけど、2、3年後に俳優やってるか分からない(笑い)。先のことを決めるというのは、なかなか僕には難しいことだったんですね」。出演依頼は多くあったが、ドラマ「相棒」や映画出演のほか、60代からは映画監督業にも進出。「気持ちがそれらで埋まっていた」という。

今回引き受けた背景には、年齢的なタイミングがあった。「一生、このまま舞台やらないで俳優人生が終わっていくんだろうかという思いがずっとあったんですよね。お話をいただいたのは3年前ですが、舞台になる時は70だなと。もうね、考えたままだと一生考えることになりますね(笑い)。これから舞台をどうするか。結論を出すためにやってみようと」。

妻、伊藤蘭には「やろうと思う」と報告したという。「僕はもう舞台をやらないと思っていたかもしれませんね」。反応を聞くと「蘭さんは僕のやることはどうぞご自由に、というところがありますから、どのくらい驚いたか分からないけれど、舞台は見に来てくれると思います」と笑顔で話した。

物語は、かつて一世を風靡(ふうび)しながら表舞台から消えた4兄弟コーラスグループ「ブラザー4」の復活劇を描くハートフルコメディー。長男水谷豊、次男段田安則(66)、三男高橋克実(61)、四男堤真一(58)の豪華共演は大きな話題だ。「4兄弟のキャラクターが魅力的なんですよ。それぞれの道を歩んで、それぞれ抱えているものがあって」。

すれ違っていたきずなが、ふとしたことから動き出していく。「人って、自分の狭い価値観に縛られて身動きができなくなったりするけれど、ちょっと自分の壁を崩してあげると、意外とたどり着けるところがあるんじゃないかと」。コメディーを選んだのは、コロナで疲弊したすべての人へのエールでもある。「難しい題材を意味ありげにやるより、見る人にいろんなことを忘れてもらえるような、ただ笑って泣ける王道をやりたかった」と思いを語る。

共演者は舞台経験豊富な演劇人ばかり。「頼もしいです。舞台に上がったら僕は末っ子みたいなものなので楽しいです」。映像と違う舞台表現も新鮮とし「アップも編集もある映像作品と違って、舞台はお客さまにすべてを見せるもの。お客さまが自由にカット割りしながら楽しんでほしい」という。

コーラスグループとあって、4人のハーモニーは大きな見どころとなる。「彼らがたどり着く姿が、コーラスグループとしてかっこいいんですよ。そこさえちゃんとできれば、手前は多少ぐちゃぐちゃでも」と笑う。自身も歌手の横顔を持ち、歌は大好き。4兄弟で積んできたけいこを振り返り「かつて一世を風靡したグループに、本番にはなっている、はず(笑い)」。

東京公演後、6月末まで全国8都市での公演も楽しみにしている。「ツアーが終わった時に、またやりたくなるのか、いい思い出を胸に生きていくのか。この先、舞台をやるかどうかは、この舞台にかかってます」と、23年ぶりの挑戦を満喫している。

■「相棒」寺脇康文共演も話題

「ブラザー4」のマネジャー役を寺脇康文(61)が演じるのも話題のひとつだ。先ごろテレビ朝日系ドラマ「相棒」で水谷と14年ぶりに再タッグを組んだばかり。杉下右京×亀山薫とは異なる形でどんな関係性を見せてくれるのか注目だ。

寺脇の起用は3年前の企画段階から決まっており、「相棒」の再タッグ案が持ち上がったのはその後のこと。水谷は「もし『相棒』が先に決まっていたら、こっちには引っ張ってこられなかった。舞台の方が先だったので堂々と」。

とはいえ、放送は「相棒」の方が先。最終回から間もないタイミングでの舞台共演となることについて、事前に話し合ったという。「どういう感じになるんですかね、みたいな話になったんですけど、寺脇があっさり『やりましょ』って。で、『はい、やろう』って」。あっけらかんとしたやりとりを実演して大笑いした。

寺脇演じるマネジャー像について「笑っちゃうくらい気配り目配りのキャラクター。亀山くんとは全然違いますね」。舞台経験豊富な寺脇を「頼もしく見える」とし「けいこ初日から亀山くんの感じはないですね。向こうも右京だと思ってないでしょうけど」。

◆水谷豊(みずたに・ゆたか)本名同じ。1952年(昭27)7月14日、北海道生まれ。10代から俳優活動を始め、68年、ドラマ「バンパイヤ」で初主演。76年の映画「青春の殺人者」でキネマ旬報主演男優賞を最年少受賞(当時)。「傷だらけの天使」「熱中時代」など70年代の名作から現在の「相棒」シリーズまでヒットドラマ多数。「熱中時代・刑事編」主題歌「カリフォルニア・コネクション」(79年)など歌手としてヒット曲も多い。60代から「TAP THE LAST SHOW」など映画3作を監督。

◆シス・カンパニー公演「帰ってきたマイ・ブラザー」 かつて大ヒット曲を飛ばしながら表舞台から消えた4兄弟コーラスグループ「ブラザー4」が、令和で再び脚光を浴びることに。それぞれの道を歩んでいた兄弟(水谷豊、段田安則、高橋克実、堤真一)のもとに、かつてのファン(池谷のぶえ、峯村リエ)やマネジャー(寺脇康文)が集まり、再結成の日を迎えることになる。作・マギー、演出・小林顕作。東京公演は世田谷パブリックシアターで4月1日~同23日。以降、名古屋、大阪、福岡、西宮、新潟、札幌、仙台、京都で公演。