<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>
今年の春は「黄砂」の気象情報を目にする機会が多い。例のない巨大な砂嵐の映像にも驚かされた。
発生地となっている中国西部タクラマカン砂漠の東端にある敦煌市を訪れたのは36年前のことだ。映画「敦煌」(佐藤純弥監督)のロケ取材で、劇中にも登場した同市郊外の三日月形の泉、月牙泉(げっかせん)も見学した。
手前には巨大な砂山、鳴沙山(めいさざん)があり、現地の観光ガイドさんはこの山を迂回(うかい)するラクダ・ツアーを推奨したが、若手記者何人かであえて徒歩で山越えしたことを覚えている。5月のその日は微風の穏やかな天候だったが、砂漠の砂がどれだけ細かいか、つまりは飛びやすいかを実感させられた。
当時の新聞を読み返すと、サイド記事にそのことを書いている。
「100メートル以上はあると思われる砂山は上の方は急勾配で一歩進んではずり下がる。最後は四つんばいで登った。(中略)ポケットの中の100円ライターの液体ガスの中にまで無数の砂が入り込み、タオルに包んでおいたカメラ(当時はフィルム式)は、巻き取りがガラガラと音をたてた」
それでも、砂漠の真ん中で青々と水をたたえる月牙泉には目を奪われ、これがオアシスというものか、と感動したことは忘れない。
そこで、気になったのが月牙泉の現状である。例年になく黄砂が多い背景には、当然のように発生地の環境変化があるはずだからだ。グーグルアースでのぞくと、イメージしていたのとは違う現在の姿を確認することができた。
頭の中で当時の記憶を美化してきたことはあるのだろうが、三日月形のフォルムはやや半月に近づいてユルくなった印象。縁取りがはっきりして人工的になった気もした。水の色も緑が濃くなったように見える。
検索してみるとAFPニュースの19年9月にこんな記述があった。
「1960年代の記録には、湖水面積は約1万5000平方メートル、深さ9メートルとある」
「1990年代末に入ると、水脈が減少を続け、とうとう泉の底が干上がり、人がその上を歩けるようになった」
「生態環境を保護するため、2011年に総投資約12億円の月牙泉水源回復工事が決定し、17年10月に完工」
グーグルアースで垣間見た「現在の月牙泉」の背景が分かった気がする。そして、この眼で見た1987年当時の姿がいかに貴重なものだったか、と改めて思う。
現在も中国の観光地最高等級のAAAAにランクされているが、政府肝いりの回復工事があってこその名勝であることも確かだ。
90年代の水脈減少までは、この泉がそれこそ1000年以上にわたって砂に埋もれることなく景観を変えずにいたことからすれば、近年の地球環境の変化の大きさを、改めて思わずにはいられない。【相原斎】