是枝裕和監督「怪物」出演13歳黒川想矢に感じた末恐ろしさ…その才能を世界はどう受け止める?

5月8日、映画「怪物」完成披露試写会で舞台あいさつを行った黒川想矢

<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>

末恐ろしい…あえて、そう評したい1人の若き俳優がいる。名前は黒川想矢(13)。世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(フランス)で最高賞パルムドールを争うコンペティション部門に出品される、是枝裕和監督(60)の邦画3作ぶりの新作「怪物」(6月2日公開)に、映画初出演ながら主要キャストに名を連ねる。

「怪物」は、是枝監督が脚本家の坂元裕二氏(55)と初タッグを組んだ作品だ。舞台は大きな湖のある郊外の町で、よくある子供同士のケンカに見えたものが、息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たちの主張が食い違う中、次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、当事者の子供たちが、こつぜんと姿を消す物語。

黒川は劇中で、安藤サクラ(37)演じるシングルマザー麦野早織の小学5年生の息子・湊を演じた。湊の友人・星川依里を演じる柊木陽太(11)との掛け合い、絡みは、子役からステップアップする過程にあるだけに、あどけなさとかわいらしさがにじむ。一方で、多感な時期で自らの感情を持て余し、爆発する様は演技とは思えないほど生々しい。加えて、喜びや苦しみ、悲しみをたたえた瞳は、実に奥深い。教えて出来るものではない、素材としての力、人間力を感じる。

8日に都内で行われた完成披露試写会でも、黒川のあどけなさと、裏腹の役者としての底知れない才能が垣間見えた。撮影時の年齢を聞かれた際、黒川は「えっと…小学5年…6年生か? 今が中学…」と、口ごもった。担任教師の保利道敏を演じた永山瑛太(40)から「中2でしょ?」、安藤からは「撮影中に中学に入学していたよ。入学式に行ったの覚えている、私。『入学式、どうだった?』ってホテルでしゃべった」と突っ込まれるなど、撮影時と今の自分の学年が分からなくなってしまった。是枝監督からも「僕が会ったのが小6かな」と言われ、さらに永山から「春編を撮っている時に小6で、夏編になったら中1」と畳みかけられると万事休す…笑うしかなかった。中学生にしては、あどけない一面を壇上で見せてしまったのは、舞台あいさつが初体験だったこともあるだろう。一連のやりとりを見た観客からは、温かい笑いが起きた。

それが、難役を演じた芝居の話になると、ややたどたどしい口調ながら、役者として役を生きることについて、本質を突く発言が飛び出した。

「お芝居している時は、あんまり何も考えていなくて…。ただ、カットがかかった時に(演じた)湊君から、あまり自分に戻れなくて…。それで湊(の役)に入ると、苦しくなったり、悲しくなったりすることがあって。でも(芝居は)とても楽しかったです」

つらくなった時、誰かに相談したかと聞かれると「あまり、相談しなかったです」と答えた。司会のフリーアナウンサー笠井信輔(60)から「永山さんに相談したんじゃなかったっけ?」と投げかけられると「永山さんには相談したんじゃなく、永山さんの方から、初めての休日にドライブに誘ってくださって」と、事実関係を訂正。その上で「自分がどう演技する、とか、そういうことじゃなくて、役者さんは基本、監督の脳みその中にあるものを表現するんだよ」と、永山から俳優業の在り方を学んだと明かし「(永山の言葉が)響きました」と、声を1段階、大きくして力強く答えた。

ドライブに誘った側の永山の言葉からも、黒川の俳優としての素材、才能を認めているのは、明らかだった。

「想矢は、本当に現場でも、すごくこの作品に対しての思い、愛情が深くて、自分のお芝居に対して深く掘り下げたいという思いを、たくさん抱えていたので、声をかけて。(撮影場所の)近所の諏訪湖を一緒に散歩しながら話をしたり『お肉を食べたい』と言ったから、焼き肉屋に連れて行った。ジンギスカン屋さんで『ジンギスカンは食べたことがない』と言うので、無理やり食べさせちゃったのは悪かったなと思ったんですけど、生まれて初めて食べたのが僕とで良かった。僕としては、食べさせてあげて良かった」

黒川は、21年放送のNHK BSプレミアム「剣樹抄~光圀公と俺~」で共演した舘ひろし(73)に撮影中に「入れてください!」と直談判して、22年8月に舘が率いる舘プロに加入した経緯がある。記者は、かつて数年にわたって舘の番記者を務めたことがある。舘は記者をはじめ芸能メディア各社の番記者を大事にし、取材の機会はもちろん、酒を酌み交わす中で、自らの芝居、生き方をはじめ芸能界の面白さ、厳しさを教えてくれた。温かい一方で、すごく厳しい人でもある舘が認めた子だという事前情報は、軽く持ってはいたが「怪物」で初めて接した黒川は、それらを軽々しく飛び越えていったと言っても過言ではない。

是枝監督は、子役の演出に定評がある。中でも、04年に同じくカンヌ映画祭コンペティション部門に出品された「誰も知らない」では、主演の柳楽優弥が14歳にして同映画祭で男優賞を受賞し一躍、世界にその名を知られた。

黒川に対して、柳楽の再来になり得る存在ではないか? と期待する声が、早くも業界の一部から聞こえ始めている。記者も、その声には同意したい。カンヌ映画祭の開幕は、16日。世界の映画人が「怪物」を見て、スクリーンに刻まれた黒川想矢という若き才能から何を見いだし、感じ、評価するか…記者は、期待している。【村上幸将】