北野武監督、日本の映画製作に警鐘「大作は人をいっぱい使わないとつまんない。CGはダメ」

カンヌ映画祭「カンヌ・プレミア」での「首」上映後、スタンディングオベーションを受ける、左から中村獅童、西島秀俊、北野武監督、加瀬亮、浅野忠信(C)若山和子

北野武監督(76)6年ぶりの新作映画「首」(今秋公開)が23日(日本時間24日)フランスで開催中のカンヌ映画祭でプレミア上映された。

北野監督は上映後、日本メディアの取材に応じた。「首」は同監督にとって「座頭市」以来20年ぶりに手がけた時代劇。映画化に先立ち、19年12月には自身初の歴史長編小説として原作を書き下ろし出版した。そのことを踏まえた取材陣から、時代劇の可能性について質問が出た。

まず北野監督は「時代劇は…やっぱり、コンピューターグラフィック全盛になっても、3人でやると300人が3パターンしかないんだよね」と口にした。具体的に何を指しているかは口にしていないが、時代劇において大勢の武士、軍勢がぶつかり合う、合戦のシーンを指しての言及とみられる。「結局、1万人使ったら、10人でCGで1万人作っても絶対、かなわないんだよね。(リアルの俳優、人間は)予想しない動き、するから」と、大規模な合戦シーンであってもCGではなく、1万人規模のエキストラを投入し、リアルに撮るべきだと強調した。

「首」は、織田信長が跡目をエサに謀反を起こした家臣の捜索を命じたことをきっかけに、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康ら家臣の欲望と策略が入り乱れた末、本能寺の変まで向かう流れを独自の解釈で描いた。カンヌ映画祭向けに公開された特別プロモーション映像の中にも、相当数のエキストラが鉄砲や弓を打ち合い、やりをぶつけ合い、馬に乗って走り回る、大規模な合戦シーンが収められている。

北野監督は「だから、やっぱりCGじゃなくて、実際に役者を1万人、動員できる映画だったら素晴らしいんだけど、後ろの方の絵を見ると大体、CGだよ。あれに慣れちゃうと、ごく当たり前に見過ごすから…」と続けた。日本映画において大作とされる映画においても、大勢の群衆が動くようなシーンは、CGで人の数を増やしているという製作現場の実情を明かした。その上で「大作は大作なりに、人をいっぱい使わないと、つまんないんだ。ああいったCGは、やっぱりダメなもの…もうじき、お客も気が付くと思うけど」と指摘。例え製作費がかさんだとしても、どんなに端役でも可能な限り本物の俳優を使い、リアルにこだわって本物を作っていかないと観客に見透かされてしまうと、日本映画界ひいてはエンターテインメント界に向け、警鐘を鳴らした。

「首」は、北野監督がカンヌ映画祭ある視点部門に出品した1993年(平5)「ソナチネ」と同時期に構想し30年、温めてきた企画。その製作規模については、4月15日に都内で行われた製作報告会見の席上で、製作のKADOKAWA夏野剛社長(58)が「製作費15億円は、全てうちが出している大作」と、総製作費が15億円だと明かしている。