役所広司カンヌ男優賞「PERFECT DAYS」監督「監督をする者にとって最高の俳優」

カンヌ映画祭で男優賞とエキュメニカル審査員賞の2冠を獲得した「PERFECT DAYS」の、左からヴィム・ヴェンダース監督、役所広司、中野有紗、アオイヤマダ、田中泯(C)若山和子

第76回カンヌ映画祭(フランス)で、役所広司(67)が日本人俳優として、04年の柳楽優弥(33)以来19年ぶり2人目の男優賞を受賞した映画「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督、日本公開未定)が、エキュメニカル審査員賞を受賞した。同賞はキリスト教徒の映画製作者、映画批評家らによって1974年(昭49)に創設。邦画では過去22年3月に亡くなった青山真治さんがメガホンを取り、、役所が主演した00年「EUREKA(ユリイカ)」と、河瀬直美監督(53)の17年「光」、20年に邦画初の脚本賞を受賞した、濱口竜介監督(44)の「ドライブ・マイ・カー」が受賞しており、邦画として4作目の受賞となる。

作品としての2冠獲得に、エグゼクティブプロデューサーも兼任した役所をはじめ、カンヌ映画祭に参加した俳優陣、ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース監督(77)がコメントを発表した。

役所広司(平山役) 日々を丁寧に静かに重ねるように生きる。この平山という男を演じるのは、大きな挑戦でした。ヴィム・ヴェンダースという偉大な監督には、フィクションの存在であるこの男にとても大きなリスペクトがありました。それが私を導き、平山という男をこの世界に生み出した気がします。このような賞をいただいてとても光栄です。日本の、世界の、映画が少しでも、もっと素晴らしいものになるようにこれからも努力を重ねていきたいと思います。日本でもみなさんに、「平山」という男をご紹介できる日が楽しみです。

ヴィム・ヴェンダース監督 これ以上の言葉を私は見つけることができない。“役所広司は、監督をする者にとって最高の俳優である”彼こそが俳優である。それも最高の俳優だ。彼こそが平山であり「PERFECT DAYS」というこの映画の心臓であり、魂なのだ。この映画を通じて私たちはゆっくりと平山の視線や生き方を受け入れていく。彼の目を通してこの世界をみつめる。そうすることで彼が選びとった人のために生きるというその姿に癒やしを感じるようになる。他の俳優でも平山を「演じる」ことはできるだろう。けれど役所広司は平山そのものになった。穏やかさ、謙虚さ、大きな心。同じようなひとに対してだけでなくすべてのひとに対しても。自然に対してもそれをもつ。とくに木々には静かで美しい感情を抱いている。カンヌの劇場から泣いて帰る人がいるとしたら、それはこの偉大な俳優が彼らを旅に連れ出したのだ。彼らの魂に、より良く生きることとは何か。満たされた生き方はどういうものか。そういう考えに火をともしたのだ。こんなことを成し遂げる俳優は世界にそうはいない。私は彼と一緒に映画をつくれたことをとても幸せに思う。この賞は、私と、そしてカンヌに集まったチームの全員が待ち望み、そして夢にみたものである。

中野有紗(16=平山のめいのニコ役) 受賞、本当におめでとうございます。役所さんの演技、作品に取り組む姿勢は私の心に強く響きました。役所さんの存在の素晴らしさが更に世界に伝わったような気がして、自分の事のようにうれしく感じています。その様な受賞作品に、私も出演させて頂けた事を心より光栄に思って居ります。本当におめでとうございました。

アオイヤマダ(22=アヤ役)受賞おめでとうございます。人それぞれの日常や居場所が主人公であり、それこそが平和ということ。与えられた時間を精いっぱい生きること。そして、決して1人では生きられないこと。私はこの作品に携わらせて頂き、改めて意識することができました。ヴィムさんがみつめる日本には、私たちが気がつくことができない、新芽のような美しさがあります。素晴らしい機会をくださったこと、本当に感謝しております。

田中泯(78=ホームレス役) うれしい!役所さんの受賞が自分のことのようにうれしい。そうして「PERFECT DAYS」を受け入れたフランス、カンヌにヤッホーだ。この作品に関わった全ての人の心の内に秘められていたことがこの結果だった、と僕は信じます。ヴェンダース監督がそんな人々の先頭で喜びに浸っているに違いない。役所さんが体現した平山さんは、自分のテンポとメロディーで生きたい人々の本当の例題となるでしょう。言葉少ない役所さんは、ずっと踊っていた!

◆役所広司(やくしょ・こうじ、本名・橋本広司=はしもと・こうじ) 1956年(昭31)1月1日、長崎県諫早市生まれ。県立大村工高卒業後、上京し千代田区役所土木部道路課に勤務。20歳で見た舞台「どん底」に感銘を受け、主演の仲代の無名塾入り。78年「オイディプス王」の群衆の1人で初舞台。80年のNHK連続テレビ小説「なっちゃんの写真館」で、ドラマ初出演。96年の映画「Shall we ダンス?」で主要映画賞を総なめ。近年は20年「すばらしき世界」や公開中の「銀河鉄道の父」など主演、出演多数。179センチ。血液型AB。

◆「PERFECT DAYS」 渋谷でトイレの清掃員として働く平山(役所)は淡々と過ぎていく日々に満足している。昔から聴き続ける音楽と、休日のたびに古本の文庫を読みふけるのが喜びで、小さなフィルムのカメラを持ち歩き木々を撮る中、思いがけない再会が過去に少しずつ光を当てていく。「ユニクロ」を中心とした企業グループ「ファーストリテイリング」柳井正代表取締役会長兼社長の次男・柳井康治取締役(46)が、個人プロジェクトとして21年に立ち上げた、有限会社MASTER MINDが企画発案、出資、製作し、初プロデュース。共同脚本・プロデュースを電通グループグロースオフィサー高崎卓馬氏(53)が務めた。柄本時生(33)石川さゆり(65)三浦友和(71)麻生祐未(59)らも出演。