東方神起が転機、昨今の音楽シーンでK-POPが席巻、J-POP復活へ今後の打開策とは

avex Youthについて語るエイベックスの都築裕五取締役

<ニュースの教科書>

昨今の音楽シーンを振り返ると、目立つのはK-POP。BTS、TWICE、BLACKPINKなど、男女ともに韓国のダンス&ボーカルグループが世界市場で活躍している。配信のインフラが普及し、国境のハードルが下がったことが要因なのだろうが、ひと昔前の音楽記者としてはアジアでJ-POPが隆盛だった時代が懐かしい。日本経済の国際競争力の低下が指摘されるが、音楽業界も同じなのだろうか。日本の音楽シーンをけん引してきたエイベックスの都築裕五取締役(50)に、今後の打開策を聞いてみた。【竹村章】

1997年(平9)年11月。ソウル市内で、大手芸能事務所ライジングプロとエイベックスが、韓国の大手プロなどと共同で韓国初の公開オーディションを開催した。日本の音楽市場で活躍する新人アーティストの発掘が目的。いわば“韓国のアムロ”を探した。

その7年後の04年には、歌手安室奈美恵(当時26)がソウル・蚕室(チャムシル)オリンピック公園体操競技場で3日間連続公演を開催。計2万5000人を動員し、日本人アーティストの韓国公演としては過去最高に。いわば、J-POPの全盛だった。記者はこの公演を取材したが、前座のアーティストと安室のパフォーマンスは、あらゆる面で比べようもなかった。

それから約20年。日本の音楽市場も、K-POP抜きには成り立たない現状がある。98年ごろまで、韓国では日本の大衆文化の流入制限を行ってきた歴史を振り返ると、まさに隔世の感がある。

-気が付くと、K-POPに抜かれていました

都築氏 そうですね。我々の世代は若いころに洋楽聞いてましたが、今はK-POPを聞いている子たちがめちゃくちゃ多い。うさぎとかめ、じゃないですけど、いつのまにかですね。

-何が原因ですか

都築氏 日本がぬるま湯とはいいませんが、韓国は自国の市場だけでは厳しいので、常にアジア、世界を目指す必要に迫られている。デビュー前の候補者らは1日に10時間ぐらい練習するんです。選抜は厳しいですが、その練習環境はとても恵まれています。

-いつごろが転機だったのでしょうか 

都築氏 08年に東方神起が日本で大ブレークし、NHK紅白歌合戦に出場するようになったころです。

エイベックスは他レーベルとは違い、浜崎あゆみ、大塚愛、ELTなど昔から自前のアーティストを抱えていた。ここでレコード会社の業務内容を簡単に解説する。そもそもレコード会社は、歌手やアーティストのCDを制作→生産→出荷し、宣伝を行うとともに販売する組織だ。ただ、アーティストの業務内容全体から見るとそれは一部でしかない。レーベル業務以外にも、アーティストにはマネジメント業務、公演などのLIVE業務、ファンダムと呼ばれるいわゆるファンクラブ業務、MD(マーチャンダイジング)に最近だと、SNSでの発信などデジタル全般も含めて、その業務は多岐にわたる。これらをすべて行えば、利益も大きくなるが、人件費を含めて投資額は多くなり、リスクは増える。一部に徹するのか、すべてを行うのかは、それぞれのレコード会社の判断だ。エイベックスも自社アーティストのリリースは少ないものの、LDHやジャニーズ、YGなどタッグを組んでのレーベル業務は活発だ。

-やはり自社のスターが必要ですか

都築氏 今のうちにはスターコンテンツがないと言われています。韓国に抜かれ、負けたんだという現実を受け入れ、韓国の育成システムを学ぶことからスタートしました。世界で戦えるアーティストを真剣に作っていく必要があると思っています。

-それで世界を狙う人材を育成するavex Youthを新たに立ち上げたんですね

都築氏 昨夏に一新しました。もともとエイベックスはダンスとボーカルのスクールがあり、1万人以上の生徒がいました。これを母体に提携するスクールやスカウトした人材なども含めて約2万人の中からまず100~200人を選抜します。そのメンバーをさらにtier3~1の3段階に選別して、レッスンを続けながら1人1人をしっかりと見ていく態勢を作りました。

-レッスン料は

都築氏 無料です。授業料を取るとどうしても生徒はお客さんになってしまいますから。年明けには桜新町(世田谷区)に3階建てのレッスンスタジオを建設します。原石を集めて、徹底的に磨いていこうということです。やはり環境整備は大事ですから。そして、集められた生徒たちが切磋琢磨(せっさたくま)するために、合宿所の準備も進めています。

-育成には何が必要なのでしょう

都築氏 まずは思いの強さです。スターになりたいかと聞くと、みんなイエスといいます。でもどの思いがどれほど強いのかが大事です。もう1つは、人間力ですね。難しい話ではなく、幼稚園とか保育園で最初に習う、ありがとうとか、ごめんなさいとか、本当に当たり前のこと。それらは、簡単だから最初に習うんじゃなくて、人間にとって一番重要だから最初に習うんだと思います。

-韓国は何が優れているんでしょう

都築氏 まずは、アグレッシブさがすごい。日本の大小のいろんなスクールに、バンバン連絡してきますから。いい人材がいないかと。僕らが提携しているスクールにも向こうから会いに来るわけですよ。実際、私たちが、韓国のスクールにまで手を伸ばしているかというとそこまではできていない。あと、決断の早さですかね。ダメだと決めると、すぐに育成規約を解除する。ドライなんです。

-生徒を見るプロデューサーは何人ぐらい

都築氏 十数人ほどです。ボイトレ、ダンスはそれぞれの講師にお願いしています。プロデューサーの指示のもと、スタッフが講師の先生と連携をしながら、タスクを与えてます。この子はダンスはいいけど、ボーカルのスキルは低いからとか、1人1人のレッスンメニューというのを作っています。面談を重ねながら、クラスを上げたり、下げたり。あと、音楽とかの能力だけじゃなくて、すべてを見ます。

-上のクラスに当然力が入ります

都築氏 ティアの上の子たちをよりスピード感を持ってピカピカにして、プロデューサーがイメージするブランドに近づけて輩出していくのは間違いないです。でも、1回出して終わりではない。連続性をもって輩出していかねばなりません。中長期には、例えばまだ小学5年生でも、将来の可能性を見越してタッチして、トレーニングしておかないといけない。そういう意味ではティアの下の子たちというのは未来のエイベックスの基盤を作る原石でもあるので、しっかりやっていかねばなりません。

-世界市場においては語学も必要ですね

都築氏 avex Youthのオフィシャルサイトでは、私たちの活動方針をステートメントという形で公開しており、人材のエントリーもできますが、サイト訪問者は日本人とは限らないので、英語バーションも設定でき、英語でのエントリーも可能です。当然、語学のトレーニングも必須です。

-育成もするし、レーベルとしてもアーティストを作っていくわけですね

都築氏 もちろんavex Youthだけでとは考えていません。いろんなセクションがあるし、レーベルが主導する別のオーディションもやっています。乃木坂46の公式ライバルも発表しましたが、これもうちのレーベルチームなので、Youthからの人材の提案というのも、やらせてもらっています。

ネットなどメディアの多様化で、アーティストの表現の場は広がった。それだけに、レコード会社の新人担当者はネットで原石を探しているという。ただ、そんな時代だからこそ、愚直にイチからスターを育てようとするavexの試みは好感をもてるし期待したいと思う。

■WARPs、革新的な風

avex Youthから出てきたのがWARPsだ。Wind Assemble Radical People-Syndicateの略称で、革新的な風を創造できる集団という意味がある。固定グループだけではなく、さまざまなプロジェクトを、いろいろな分野で横断して組み合わせることの集合体だ。既存のカテゴリーや枠組みを超えることを目指している。

■ユニバーサル、各レーベルごとオーディション

ユニバーサルミュージックは、各レーベルごとに不定期で新人オーディションを開催している。また、同レーベル内のヴァージンがサポートする「ONE 's MUSIC SCHOOL」はオーディション合格者のみが受講可能な、メジャーデビューコースもある。1年間のレッスンをへて、同レーベルからのデビューが確約。ボイストレーニングや楽曲制作などはもちろん、アーティスト写真の作成やSNSの活用法など、幅広くメジャーデビューまでの道のりをバックアップする。

◆竹村章(たけむら・あきら)1987年(昭62)入社。販売局、編集局地方部などを経て文化社会部。芸能全般のほか、放送局などメディア関連の担当が長い。記者生活最初のソウル公演取材は93年の高橋元太郎。まだ日本語歌唱が認められていない時代だった。