宮沢りえ(50)が、作家・辺見庸氏(78)氏の小説を石井裕也監督(40)が映画化した「月」(10月13日公開)に主演する。製作・配給のスターサンズが30日、発表した。オダギリジョー(47)が共演し、16年の映画「湯を沸かすほどの熱い愛」に続き、宮沢と夫婦を演じる。また共演には、磯村勇斗(30)二階堂ふみ(28)鶴見辰吾(58)原日出子(63)高畑淳子(68)らが名を連ねた。
宮沢は、深い森の奥にある重度障がい者施設で新しく働くことになった“書けなくなった”元有名作家の堂島洋子を、オダギリは洋子を「師匠」と呼ぶ夫の昌平を演じる。洋子の施設の同僚職員で作家を目指す陽子を二階堂ふみ、絵の好きな青年さとくんを磯村が、それぞれ演じる。
洋子は、昌平とふたりで、つつましい暮らしを営んでいる中、重度障がい者施設で働き始め、光の届かない部屋で、ベッドに横たわったまま動かない、入所者の“きーちゃん”と出会う。生年月日が一緒で、どこか他人に思えず親身になっていくが、職場は決して楽園ではなく、洋子は他の職員による入所者への心ない扱いや暴力を目の当たりにする。そんな世の理不尽に誰よりも憤っているのは、さとくんだ。彼の中で増幅する正義感や使命感が、やがて怒りを伴う形で徐々に頭をもたげ“その日”が、ついにやってくるという物語だ。
原作者の辺見氏は、実際の障がい者殺傷事件をモチーフに「月」(角川文庫)を著した。事件を起こした個人を裁くのではなく、事件を生み出した社会的背景と人間存在の深部に切り込まなければならないと感じ、語られたくない事実の内部に潜ることに、小説という形で挑戦した。
この問題作の映画化に動いたのは、18年「新聞記者」や21年「ヤクザと家族 The Family」を手がけ、22年6月に72歳で亡くなったスターサンズ代表の河村光庸さんだった。河村さんは生前、プロデューサーとして最も挑戦したかった題材として、辺見氏の原作とモチーフにした事件のことを、ことあるごとに口にしていた。その裏には、日本社会に長らく根付く、労働や福祉、生活の根底に流れるシステムへの問いと、複眼的に人間の尊厳を描くことへの挑戦という信念があった。生前「映画にするから。半端なものは作らない。映画にして、世の中に問いたいんだ!」などと力強く誓っていた。
その河村さんが監督として白羽の矢を立てたのが、スターサンズが21年に配給した、コロナ禍を生きる親子を描いた「茜色に焼かれる」を手がけた、石井監督だった。同監督は、10代から辺見氏の作品に魅せられてきただけに「この話をもらった時、震えました。怖かったですが、すぐに逃げられないと悟りました。撮らなければいけない映画だと覚悟を決めました」とオファーを受諾した。
その上で「多くの人が目を背けようとする問題を扱っています。ですが、これは簡単に無視していい問題ではなく、人ごとではないどころか、むしろ私たちにとってとても大切な問題です」との信念の元、原作を独自に再構成し、渾身(こんしん)のパワーと生々しい血肉の通った表現を追求した。
石井監督の元に集った俳優陣たちもまた、ただならぬ覚悟で参加した。同監督は「この映画を一緒に作ったのは、人の命や尊厳に真正面から向き合う覚悟を決めた最高の俳優とスタッフたちです。人の目が届かないところにある闇を描いたからこそ、誰も観たことがない類の映画になりました。異様な熱気に満ちています。宮沢りえさんが、とにかくすさまじいです」と製作陣と俳優陣、中でも宮沢を絶賛した。
河村さんの遺志を継いだ、長井龍プロデューサーは「目の前の問題にふたをするという行為が、この物語で描かれる環境に限らず、社会の至る所に潜んでいるのではないか、という問いが映画『月』には含まれています」と作品を評した。その上で「障害福祉に従事されている方にも本作をご覧頂き『この映画を通して、障がい者の置かれている世界を知ってもらいたい』という言葉も預かりました。本作を届けていく必要性を改めてかみ締めています。そして、映画製作を通して、この数年で障害福祉の環境が変わろうとしている現実も目の当たりにしました。そのこともまた、社会の持つ可能性のひとつだと信じています」と訴えた。
公開決定と併せて、主演・宮沢が写る場面写真1点が解禁された。まるで何かを隠そうと生い茂る森に囲まれ、たたずむ洋子の表情からは、さまざまな悩みや不安を抱えていることが読み取れる1枚となっている。