林家つる子 真打ちジャンプ 斬新「芝浜」女性目線の落語で注目 11人抜き昇進

元気いっぱいの林家つる子は、かわいいポーズでジャンプする(撮影・菅敏)

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ここ数年、落語、講談、浪曲で女性の活躍が著しい。来年3月に真打ちに昇進することが決まった林家つる子(36)は、先輩11人を抜いての抜てき昇進でもある。2010年に林家正蔵(60)のもとに入門。古典の名作「芝浜」の主人公をおかみさんに作り替えるなど女性目線の噺で注目されている。所属する落語協会として12年ぶり、女性としては初めての抜てき昇進となる、注目のつる子に話を聞いた。【林尚之】

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高校時代には演劇部に所属していた。大学でも演劇部に入るつもりだったつる子の落語との出会いは偶然だった。

「サークルの新入生歓迎で、落語研究会の人たちに部室に引っ張り込まれて、初めて落語を聞きました。そこで衝撃を受けました。江戸時代に生まれたものなのに、今でも素直に笑えて、面白いことに感動しました。もともと、表現することに興味があったので、やってみようと思いました」

中大落研で3代目となる「中央亭可愛」という高座名を名乗り、落語にのめり込んだ。2年生の時には全日本落語選手権「策伝大賞」に出場し、審査員特別賞を受賞した。卒業が迫る中、進路で悩んだという。

「落語家になりたかったけれど、迷いがありました。プロになると、一生が落語の世界になる。怖さがあって、ちゅうちょする思いもありました。就活もしましたが、なかなか決まらなかった。迷い悩んだ中で、就職と落語を天びんにかけたら、落語をやりたいという気持ちの方が強かった。中大落研顧問の教授や、中大に縁のある師匠に相談をし、弟子入りに悩んでいたころ、新宿・末廣亭で正蔵師匠の高座を見て、テレビで見ていた、こぶ平時代の『こぶちゃん』のイメージとは違う、古典に真正面から向き合う姿に心をつかまれました」

その後、晴れて正蔵のもとに入門を果たした。前座を経て、29歳で二つ目になった。

「師匠の家は大家族で、人の出入りが多かった。1人っ子で育った私は戸惑うことばかりで、怒られる毎日でしたが、そこで作法やいろいろなことを学びました。男性ばかりの楽屋も大変でしたが。4年先輩に蝶花楼桃花師匠、姉弟子に林家なな子姉さんもいて、相談できたし、とても心強かったです」

つる子が注目を集めたのが、男性が主人公の噺が大半の中で、女性を主人公にした女性目線の噺を作り始めたことだった。「芝浜」は酒好きの魚屋の勝五郎が主人公だが、つる子はおかみさんを主人公に作り替えた。大金の入った財布を拾った勝五郎は気が大きくなって酔いつぶれてしまう。2度と働かなくなることを恐れたおかみさんは、目を覚ました勝五郎に「夢でも見たんだろう」とうそをつく。3年後、おかみさんは心を入れ替えて真面目に働く勝五郎に真実を告げるという人情噺の名作だ。

「いい噺ですが、おかみさんの心情がほとんど描かれていないんです。おかみさんの気持ちを理解しようとすると、2人のなれそめや、おかみさんが財布のことで相談した長屋の大家さんとのやりとりなど、想像がどんどん膨らんでいきました」

「芝浜」を改作する過程に密着したドキュメンタリーがNHKで放送されると、大きな反響を呼んだ。

「共感してくださる人が多くてうれしかった。辛らつな意見もありましたが、新しいことをやる上で、そういうことは覚悟しています」

来年3月に三遊亭わん丈(40)とともに抜てきで真打ちに昇進する。12年春の春風亭一之輔(45)、同年秋の古今亭志ん陽(48)古今亭文菊(44)以来12年ぶり、女性では初めての抜てき昇進となる。

「本当にびっくりしました。怖さや不安が押し寄せたけれど、素直にうれしいなという思いが大きかった。このコロナ禍で自分にも変化がありました。あのような状況の中で足を運んでくださるお客さんは、わざわざ時間を割いて、特別な空間を求めている。そういうお客さんに満足してもらえるよう、全力を出し切る私になりたいと思いました」

正蔵師匠から言われた「頭でっかちにならず、いろいろなことに挑戦しなさい」との言葉が心に残っているという。

「女性目線の噺を練り上げていきたいし、小学4年の時にNHKの中国語講座で1年間勉強し、大学でも中国文化を専攻したんですが、中国語で落語もやってみたい。いろいろと取り組んできたことが実を結ぶように頑張りたいと思っています」

◆林家つる子(はやしや・つるこ)1987年(昭62)6月5日、群馬県生まれ。中大文学部卒業後の10年に林家正蔵のもとに入門した。15年に二つ目に昇進し、21年、22年と2年連続でNHK新人落語大賞の決勝に進出した。TBSラジオ「パンサー向井の♯ふらっと」にレギュラー出演。ぐんまの観光大使なども務める。女性目線の噺は「芝浜」のほか「紺屋高尾」「子別れ」がある。8月5日に日本橋社会教育会館で「林家つる子独演会」を開催。

落語では

▼東京の落語界で初めて女性落語家が誕生したのは1981年で、三遊亭円歌に入門した三遊亭歌る多(60)が第1号だった。それから40年が経過し、現在は30人を超えています。

その中で、子育てをしながら高座に上がっているのが柳亭こみち(48)。出版社勤務を経て、28歳の時に柳亭燕路に入門。こみちも古典のほかに、女性を主人公にした新作に取り組んでいる。「死神」をアレンジした「死神婆」は、強烈なインパクトを持つ高齢女性の死神が主人公。大食いの男が登場する「そば清」は5人の子を育てた女性を主人公にした「そばの清子」に作り替えた。

漫才コンビ「宮田陽・昇」の宮田昇と結婚し、13年に長男、15年に次男を出産した。臨月まで高座に上がり、次男の時は出産からわずか8日後に高座に上がった。浅草演芸ホールの7月上席(10日まで)夜の部でトリを務め、女性が主人公の新作を披露している。

講談では

▼講談界は女性上位です。東京には「講談協会」と「日本講談協会」の2つの協会があり、男性が33人、女性が45人で、日本講談協会の会長は女性の神田紅です。以前は圧倒的に女性が多かったが、ここ数年の神田伯山ブームで、男性の入門者が急増している。

その中で二つ目ながら、人気急上昇中なのが田辺いちか(44)。舞台俳優や声優をしていた33歳の時に講談に出会い、14年に田辺一邑に入門した。鮮やかな人物描写と力強い語り口で注目され、二つ目になった20年には渋谷らくご大賞の「楽しみな二つ目賞」を受賞した。今月15日には湯島天神参集殿でつる子との「二人会」を予定している。

浪曲では

▼浪曲でも女性の活躍が顕著です。東京の浪曲協会は男性13人、女性26人で、会長は女性の東家三楽です。

中堅のリーダーとして多方面に活躍しているのが玉川奈々福。95年に玉川福太郎に曲師として入門、01年に浪曲師として初舞台を踏んだ。古典のほか、「浪曲熱海殺人事件」「浪曲・平成狸合戦ぽんぽこ」、「椿姫」をベースにした「椿太夫の恋」など新作も多数あり、19年には伊丹十三賞を受賞している。新宿・末廣亭の7月下席夜の部に出演する予定。