女優若村麻由美(56)が、20日にスタートしたフジテレビ系連続ドラマ「この素晴らしき世界」(木曜午後10時)で主演を務め、1人で複数の役に挑戦している。今作は“なりすましコメディー”。当初、主演予定だった鈴木京香(55)の体調不良による緊急降板で、急な出演オファーだったが快諾した。03年の同局系連続ドラマ「夜桜お染」以来20年ぶりの地上波連ドラ主演を務める若村が、今作に対する思いを明かした。その胸の内には、女優を始めたときから持ち続けていたコメディエンヌへの憧れがあった。 【高橋洋平】
◇ ◇ ◇
変幻自在だ。若村は「この素晴らしき世界」で、平凡な主婦・浜岡妙子と大女優・若菜絹代を演じ分けている。さらに妙子扮(ふん)する絹代という“妙子若菜”も含めて実質、3役を1人でこなしている。
「シチュエーションがしっかりあるので、自然に相手役の人とのセリフを交わす中で、声のトーンとか、役の重心みたいなものが決まっていきます。なので、自然と姿勢も変わってくるし、歩き方も変わってくる。やっぱり人間っていうのは、人に対してどう見せたいかとか、人との距離感で人物ができていくんだなっていうのを、このドラマをやることによって改めて気づかせてもらいました」
妙子は事務所関係者も認めるほど若菜に顔も声も似ていた。若菜の週刊誌スキャンダルの釈明会見に妙子が身代わり出演を打診されるところからストーリーが始まる。当初は鈴木が主演を務める予定だったが、5月9日のクランクインから2日後の11日に体調不良で降板発表。同18日には若村の代役主演が発表された。若村は鈴木のことを思い、番組プロデューサーを通じて「京香さんの無念な思いを引き継ぐ覚悟で」などとメッセージを託していた。
「手紙を書こうと思ったけど、気持ちのうえで負担になってはいけないと思って。でも、気持ちは伝えたかった」
鈴木と共演経験こそないものの、“魂のリレー”は行われていた。10日の制作発表会見では若村は開口一番、「私は鈴木京香さんからバトンを引き継ぎまして、この役をやらせていただくことになりました」とあいさつ。若村がクランクインしてからは、鈴木の出身地宮城の名物「ずんだ餅」「ずんだシェイク」が現場に差し入れされた。
「何よりもやっぱり京香さんに早く元気になっていただきたいなってずっと思っていました。私はもう今、とにかく京香さんにちゃんと私が受けたバトンを持ってゴールしました、っていうことを言えるように、元気で頑張らなきゃいけないと思ってスタートしています。そういうときにエールをいただいたと思っています」
いざ、撮影が始まると、自信が確信に変わった。共演者やスタッフが温かく迎えてくれた。
「現場に入った時に、やらせていただくことになりましたっていう、ごあいさつせていただいた時に、スタッフの方たちが本当に温かく迎え入れてくださって。すごく緊張していたんですけど、この中でやらせていただけるかもしれないって、ふと思っていたんです。でも、現場に実際入ってみて、セリフを言った時に、それは共演者の方もスタッフの方も、それぞれの役割を全部してくださっている中の時に、1歩踏み出したんだなっていう感じがしました。この温かいスタッフと共演者となら、やっていけるなっていう風に、その時が1つ大きな安心感とともに、楽しいな、という風に感じられたので、あとは怒濤(どとう)の毎日を送っているという感じです」
撮影は1話ずつではなく、一気に撮っていくという。
「ピースをつなげて、1話になっていくという感覚が、まだないみたいな感じ。でもそれが逆にワクワクします。それまではちょっと不安だなとか、思っていたんですけど、なんかものすごく信頼できるスタッフさんなんです。なので、そういう不安とかなくなって、ある意味、まな板の上のコイで、あとはどう面白くしてくれるんだろうと思っています。そういう意味では大船に乗ったつもりで、本当に恵まれているな、というふうに思っていますし、助けてもらっています」
フジテレビからの出演オファーにも縁を感じていた。同局系ドラマは87年のデビュー翌年に「飢餓海峡」に出演し、96年には「もう我慢できない!」で主演。03年には「白い巨塔」に出演、さらに同年「夜桜お染」で主演を任された。
「20代の頃から時代劇もフジテレビでずっとやらせていただいたし、主演という意味では20年前の『夜桜お染』もフジテレビ。とてもご縁をいただいている局だと思っています」
「白い巨塔」では主人公の財前五郎(唐沢寿明)の妻、杏子役を好演。財前が病に倒れて入院し、財前の愛人・花森ケイ子(黒木瞳)が見舞いに来た際には「どうぞ、ごゆっくり」と言って、花瓶の花を抜いて病室を譲ったシーンが印象的だった。「ものすごく難しい役だったんです」と当時を振り返る。同作では、89年のNHK大河ドラマ「春日局」で共演した唐沢や里見脩二役の江口洋介と再び共演を果たした。
「2人とも大河ドラマが初めてで、一緒に大河をやった仲間だったんです。若い頃に一緒にやっていた仲間2人がやるんだと思って、そこに参加させてもらえるっていうのは、それはありがたいこと。喜んでやらせていただきました」
今回、若村にとって、テレビ東京系「初恋、ざらり」や8月開始のテレビ朝日系「科捜研の女」の撮影がある中での決断だった。断らなかった理由は、自身が目指している女優像に当てはまる作品だったからだという。
「喜劇のできる役者になりたいと、若い時から思っていました。喜劇とかコメディーというのは、とても難しいと思っていたので、自分なんかにはできないだろうなと、ずっと思っていました。なので、今回のドラマがコメディードラマであるということは、私にとってはチャレンジで、うれしいことでもあります」
コメディーを難しいと思っていたのには理由があった。若村は仲代達矢(90)主催の俳優養成所「無名塾」出身。当時の本棚にあった「てんぷくトリオコント集」を読んでいたときに、仲代の妻、故宮崎恭子さんからかけられた何げないひと言が関係していた。
「私の恩師、宮崎さんが『てんぷくトリオ、これ本当に面白いんだけど、あなたにはまだ無理ねって』って言われた一言がグサっときて。私がやっていたギリシャ悲劇とかハムレットとかよりも『てんぷくトリオ』が一番難しいんだって、単純にその時に思って。その時から、コントやコメディーとか喜劇と言われるものができるような役者になりたいと、18歳の時に思ったんです」
そんな若村が舞台で喜劇を演じることになった。13年に故井上ひさしさんの戯曲「頭痛肩こり樋口一葉」に出演することで、“縁”がつながった。
「『樋口一葉』をやるまで気がつかなかったんですけど、『てんぷくトリオ』は井上ひさしさんが書いているコントだったんです。お笑いもそうですけど、人が笑う、笑顔になるっていうものを創造する、作り上げるっていうのは、本当に難しいなと思います。なので、今回もいいチャレンジをさせてもらっています」
若村は87年のデビュー以降、36年もの間、第一線で活躍している。「この素晴らしき世界」は芸能界が舞台。若村は「私にとって“素晴らしき世界”です。本当にその通りです」と前置きし、しみじみと語った。
「『あなたに』って言っていただけるということが、何よりもありがたいなと。どんなお仕事でも、必要とされるということは、本当に幸せなことだと思います。『あなたに』って言っていただける役者でい続けたいな、と思っています」
◆若村麻由美(わかむら・まゆみ)1967年(昭42)1月3日、東京都生まれ。高校卒業後の85年に、仲代達矢主催の「無名塾」入り。87年NHK連続テレビ小説「はっさい先生」で主演デビュー。88年エランドール新人賞受賞。00年に映画「金融腐蝕列島 呪縛」で日本アカデミー賞優秀助演女優賞受賞。NHK大河ドラマは「春日局」(89年)「信長」(92年)「篤姫」(08年)「花燃ゆ」(15年)に出演。18年には演劇「チルドレン」で第44回菊田一夫演劇賞受賞。162センチ、血液型A。
▼フジテレビ鈴木吉弘プロデューサー「作品ごとにまったく違う印象のキャラクターを見事に演じて見せてくださる若村さん。映画『老後の資金がありません!』を拝見して、ぜひ一緒にコメディー作品を作りたいと思っていました。このドラマでも、日本屈指のコメディエンヌ若村さんの演技力がさく裂しています」