鈴木杏「ようやく肩の力が抜けた」30代 26日から加藤拓也氏新作舞台「いつぞやは」に出演

演劇「いつぞやは」に出演する鈴木杏(撮影・小沢裕)

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確かな演技力で若き大女優の風格も漂う鈴木杏(36)。子役時代から大人に囲まれる環境が多かったという彼女が、気鋭の演出家加藤拓也氏(29)の新作舞台「いつぞやは」(26日から、東京・シアタートラム)で主演窪田正孝(35)ら同世代とがっぷり組み、大きな刺激を受けている。30を過ぎ「ようやく肩の力が抜けた」という現在地を聞いた。【梅田恵子】

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若くしてがんと診断された主人公と、報告を受けて久々に集まった旧友たちの物語。鈴木が演じるのは、主人公の残りの日々に関わっていくことになる元カノの役どころだ。

いきなり「死」というトピックと向き合うことになった若者たちの心の動きが、何げない会話の応酬で描かれていく。「友人って、家族とはまた違う距離感じゃないですか。がんと言われてどう反応していいか戸惑う感じは、実はこういう温度感だったりするのかなって」と、加藤作品の魅力を語る。

闘病記や、支える人の美談といった分かりやすい切り口ではないからこそ感じられるリアルがあるのだという。「彼らの会話って、居酒屋で隣のテーブルで起こっている話かもしれない。そういう近さと、でも演劇なんだよね、という遠さのバランスが絶妙なんです」。また「演劇って39度くらいの体温でやらないと飛んでいけない世界観も多いですが、加藤さんの演劇は平熱や微熱の温度感。うそがつけないヒリヒリ感を実感します」と話す。

共演者は窪田をはじめ、橋本淳(36)、夏帆(32)ら同世代ばかり。「子役のころから年上の大人の空間に1人送り込まれる、みたいな感じが多かったので(笑い)、そわそわします」と楽しそう。「見てきたアニメの話とか、共通言語が多い。同じ年代を生きているってこういうことなんだなって。みんな出自が違うのも刺激的なんですよね。それぞれのキャリアでちゃんと立っている人たちで、かっこいいんです」。

映像やCMの子役を振り出しにキャリアを重ね、10代、20代から蜷川幸雄氏、野田秀樹氏、栗山民也氏ら多くのレジェンドの薫陶を受けてきた演劇の申し子でもある。「若いうちからいろんな演出家に鍛えられて本当に恵まれている」と語る一方、「できないことをできるようになるために必死で、当時はいっぱいいっぱいでした」と振り返る。

肩の力が抜けるようになったのは、30代に入ってからという。栗山氏演出で初の一人芝居に挑戦し、読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞した「殺意 ストリップショウ」(20年)は大きな転機のひとつ。「2時間出ずっぱりだと、肩の力なんか入れてらんないんですよ(笑い)。どうにかしてどうにかするしかない。良くも悪くもタガが外れちゃって、『どうにかなる』と開き直れるようになった。その場、その瞬間にうそをつかないことの方が大事なんだって」。

今年4月には、世界的名作「エンジェルス・イン・アメリカ」にオーディションで役をつかんで出演。この秋にはNHK「大奥Season2」の平賀源内役も控える。チャレンジ精神旺盛な活動ぶりは「全然意識的じゃない」と笑う。

「『エンジェルス・イン・アメリカ』はなんでこんなに感動するのか、ずっと知りたかったんです。台本を読みたかったら作品に関わるしかない。だからオーディションを受けたという下心満載の理由です」。今回も同様だ。「加藤さんの演劇がどういうふうに構築されるのか興味があって、ずっとご一緒してみたかった。興味があると動いちゃうタイプなんです」。

現在36歳。目指す女優像を聞くと「呼吸するように芝居ができるようになりたい」と答えた。「芝居って大したことじゃないのに、緊張や気合、見られる自意識で大したことになってしまう。なるべくそこの差をなくして、役も一緒に呼吸できたらいいなと。そんな境地に、いつかたどり着いてみたいです」。

■ギャル系リスペクト「チャラチャラ見えて筋1本通ってる」

演じる役どころは、主人公の元カノであると同時に「元ギャル」という設定でもある。鈴木自身、ルーズソックスに象徴されるギャル全盛時代に学生時代を過ごした1人。女優業中心で「ギャルではなかった」というが、ギャルにはリスペクトできるところが多くあるという。

「恋愛リアリティーショーを見るのが好きなんですけど、ギャル系の人もよく出てくるんですよね。元気だし、チャラチャラしているように見えて筋は1本通っていたり、優しかったり。1対1で話してみたらかっこよさそうな一瞬があるんですよ」。

リアリティーショーの魅力は「知り合わない人たちを見られること」という。「生きていると、同じ世界の人や自分と似ている人とばかり仲良くなる。ギャルとか、全然違うところで生きている人を見て、『ああそうか』『そういうふうに進むのかー』って見るのが面白い」と話す。「それに、人が恋に落ちている瞬間って、単純にものすごくかわいい。この年になると周りも結婚したりして、恋バナも減ってくるんですよ。恋バナっておもしろいじゃないですか。恋バナ聞きたいなー、って(笑い)」。

◆鈴木杏(すずき・あん)1987年(昭62)4月27日、東京都生まれ。小学生のころから子役として活躍し、ポカリスエットのCMなどで注目される。95年、ドラマ「Missダイヤモンド」で女優デビュー。卓抜した演技力で映画、ドラマ、演劇と幅広く活躍。20年の舞台「殺意 ストリップショウ」「真夏の夜の夢」で紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞最優秀女優賞。163センチ、血液型B。

◆シス・カンパニー公演「いつぞやは」 かつての劇団仲間のところに、1人の男が訪ねてきた。故郷に帰る前に顔を見に来たというが、淡々と語り出した近況は意外なものだった。作、演出加藤拓也氏。主演窪田正孝のほか、橋本淳、夏帆、今井隆文、豊田エリー、鈴木杏が出演。8月26日から10月1日まで東京・シアタートラム、10月4日から同9日まで大阪・森ノ宮ピロティホールで公演。