<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>
8月24日に都内で行われた映画「沈黙の艦隊」(吉野耕平監督、9月29日公開)の完成報告会と完成披露試写会での、水川あさみ(40)の言葉が、数日が経過した今も耳の奥底と脳裏に刻み込まれている。
水川は劇中で、玉木宏(43)演じる海上自衛隊のディーゼル潜水艦たつなみ艦長の深町洋を支える、副長の速水貴子を演じた。主演・プロデューサーを務めた大沢たかお(55)が演じる、日本政府が極秘開発した原子力潜水艦シーバットに核ミサイルを積み、反乱逃亡する艦長・海江田四郎を追う役どころだ。
完成報告会で、水川は速水という役どころについて「原作では、男性なんですね」と明かし、かわぐちかいじ氏が1988年(昭63)から96年まで漫画誌「モーニング」に連載した原作漫画から設定が変わっていると説明した。演じるに当たって「私が女性で速水を演じるというところで、私の役割というのは何なのかぁ」と役作りについて熟慮したと明かし、自らの心の内と脳裏を明かした。
「実際、艦隊員に女性の方が増えてきていると伺っていたんです。だけど、やっぱり、副長…艦長の右腕として、すごく重要な立ち位置で女性が活躍するということが、速水としての覚悟、葛藤だったり…。そういうものを自分の中で感じることで、女性にも見ていただけるような目線を作れたらな、というふうに思って演じていました」
「沈黙の艦隊」は、約2年前から実写化に向けて企画が進められ、原作の連載から約30年の時を経て製作、公開までこぎ着けようとしている。製作の過程で、時代の設定を現代にアップデートしつつ、原作にはないエピソードを加えている。例えば、海江田と深町が艦長と副館長の立場で乗務した潜水艦で起きた海難事故が、2人の間に因縁を生んだという過去のエピソードは原作にはない。水川演じる速水を男性から女性へと置き換えたのも、潜水艦に女性が乗り込むことが増えた海上自衛隊の現状を落とし込み、時代をアップデートした結果だろう。厚生労働省の調査で、企業の課長級以上の管理職に占める女性の割合は昨年度12・7%で、原稿の方法で調査を始めて以来、最も高かったと7月31日に発表されたが、自衛隊においても、その動きが進んでいるという現状を、映画に落とし込んだと言っても過言ではないだろう。
実写化の目玉と言えるのが、日本映画で初めて実際の潜水艦を使用しての撮影だ。完成報告会後に行われた完成披露試写会には、撮影に協力した浜田靖一防衛大臣(67)をはじめとした防衛省と、潜水艦部隊をはじめとした海上自衛隊から、約50人が会場のTOHOシネマズ六本木ヒルズに駆けつけた。記者の隣の席では、海上自衛隊の広報担当者が檀上の俳優陣を撮影しており、客席には女性の自衛官の姿もあった。
水川は、檀上から客席に視線を送り「今の艦隊員の中には女性の方も、かなり増えているということは聞いていたんですが今、こうやって目の前に、こんなに…結構、いるんだということを目の当たりにして、とてもうれしいなと思いました」と感慨を口にした。そして、完成報告会で「女性にも見ていただけるような目線を作れたら」と口にした言葉が「女性に見ていただける視点を作れたのかなと思っています」と、より確信を持った言葉に変わった。
ジェンダーやジャンダーギャップという言葉が、より叫ばれる時代、世の中になった。その中で、男性が担っていた重要な立場を女性に置き換えた役どころを演じた女優が、その重みや覚悟を役作りの際に熟慮し、演じきった。そうして出来上がった映画の舞台あいさつで、自分がやった仕事の実感を得て、かみしめるように語ったひと言は、実に胸に染みた。その言葉通りの、水川の演技を、女性にはぜひ劇場の大きなスクリーンで見て、壮大なエンターテインメント大作である「沈黙の艦隊」を体感して欲しい。【村上幸将】