甲状腺がん手術のため、20年4月に京都で引退公演を行い、山口県で旅館おかみなどを経験した元宝塚歌劇団雪組トップ高嶺ふぶき(前名・たかね吹々己)が、3年半ぶりに舞台復帰する。高嶺の引退公演も手がけた「劇団とっても便利」が10月13~15日、大阪・ABCホールで、ミュージカル「complex」を上演。高嶺が主演する。
「最初は、今回だけ、特別にって。友情出演で。声のリハビリもうまいこといってたんで、じゃあ今回だけ頑張ってみようかなと。(首を指し)ここを切ったんでね。この周りの筋肉とか、力が微妙に」
術後、日常での発声に支障はなくとも、宝塚時代から美声で知られた高嶺は「高嶺ふぶきの歌が歌えなくなる」として、いったん引退。山口県の旅館でおかみとして切り盛りしたが、コロナ禍が直撃。それでも「逆らっても仕方ない」「なるようになる」と受け止めていた。
そこへ、同劇団の大野裕之氏が、今作の再演を決め、高嶺に声をかけた。今作は、とあるバーを舞台に、乾いた人間関係と愛憎が渦巻く群像劇。07年の初演時に、2人は知り合った。大野氏は今年3月、高嶺のいた山口まで行き、交渉するうち、高嶺が「調子もいいし、復帰してもいいかな」と漏らした。
そこから、友情出演→主演と話が進み、舞台復帰が決まった。「カラオケで歌ってみたら、歌えなくもない。いけるかも」。手ごたえは感じたものの、首回りの筋肉にメスを入れたことで「声の強弱、音の調節、微妙な出し入れができない。バズーガ砲みたいに出しっぱなしよ」。豪快に笑う。それも、超絶な歌い手としての自負ゆえ。大野氏も「初演時と楽曲のキーを替えてない曲が多い」と言い、2日から始まった稽古にも汗を流す日々だ。
がん闘病から克服、旅館おかみに就けばコロナ禍に見舞われた。まるで、自身も「導かれるよう」と振り返る復帰への道筋だった。
「(引退前に改名していた)たかね吹々己はいったん引退させて、元の名前で新しい高嶺ふぶきを-。そう思えば自分も楽になっているような気がする」
もともと、ポジティブ思考。「なるようにしかならない」。現実を受け入れる強さを持つ。その秘密は「たられば、じゃなくて、ならじゃあ」と言う。
「こうだったら-とか、こうなっていれば-とか、考えても仕方ない。そう“なら”ばどうするか-、“じゃあ”こうしよう-。言霊ですよ。自分の口は自分の耳、脳みそに一番近いんやから、自己暗示ね」
高嶺自身、病、コロナ禍をへて「心が豊かになった気がする。今まで以上に(自身を)客観的に見る余裕ができた。冷静に見つめられる」と言う。
芝居、演技、歌の表現の上でも、自身を俯瞰(ふかん)視することで、幅が広がるように感じており「これぞ、まさにけがの功名。文字通りよ」。どこまでも明るい。
今回、共演は元劇団四季の上田亜希子、東映京都撮影所の俳優峰蘭太郎ら。上田はもともと宝塚志望で、あこがれていた時代のトップが高嶺だった。共演者の最年少は18歳だといいつつも「私、まったく(世代の)壁を感じない。一緒にやっていて楽しいし、世のアラ還女性の希望になりたいですね(笑い)」。
どこまでも前向き。
「そもそも、手術してもしなくても、年いったら声質も変わってくるでしょ。年数がたてば、同じ役者が同じ役を演じても、また深みも変わってくる」
おりしも、今年は初舞台から40周年。節目イヤーに「高嶺ふぶき」を復活させ、将来については「お仕事いただいたら、精いっぱいやりますよ」と言ったその表情は満面笑みだった。【村上久美子】