イタリアで開催中の世界3大映画祭の1つ、第80回ベネチア映画祭で5日(日本時間6日)オリゾンティ部門に出品された、塚本晋也監督(63)5年ぶりの新作映画「ほかげ」(11月25日公開)のワールドプレミア上映が行われた。
上映には塚本監督と、主演の趣里(32)演じる戦争で家族を亡くした女が関係し、希望を見いだす戦争孤児役の塚尾桜雅(8)、戦争孤児と関係のある片腕が動かない謎の男役の森山未來(39)が参加。エンドロールに差しかかると、場内には拍手と歓声が出始め、劇場を埋め尽くした観客たちから約8分間のスタンディングオベーションが巻き起こった。
上映後には、観客との質疑応答の場が設けられ、塚本監督は「まずは、ありがとうございました! grazie!」とイタリア語の感謝の言葉を交え、あいさつした。作品について尋ねられると、「今回の『ほかげ』は、実際に戦争に行った人だけではなく、戦争のせいで恐ろしい目に遭った一般の人たちの目を通した物語です。僕自身は年を取ったので召集されることはないでしょうが、もし今後、戦争に行くとなったら若い人たちです。そういったことが起きないようにという願いを込めて製作しました」と説明した。
欧州の映画祭に初参加の森山は「塚本監督の映画はどれも力強い作品だと感銘を受けていたので、今回、作品に参加させていただけるということを光栄に思っています」と、初の塚本作品でベネチア国際映画祭に参加できたことへの感謝の意を表し、大きな拍手を浴びた。
海外の映画祭辞退、初めての参加となった塚尾は「Mi chiamo OGA. Ho 8 anni.Piacere!(僕の名前は桜雅です。8歳です。はじめまして!)」と一生懸命覚えたイタリア語でのあいさつを披露し、会場を沸かせた。
塚本監督は上映を終え「実は、『ほかげ』は僕自身が、とっても好きな映画にできたんです。また、今回、このような大きなスクリーンで上映できてうれしかったですし、お客さまが皆、息を詰め、集中して観てくださっていて、観終わった後に、祈りの思いが伝わったと3いう感触を非常に強く感じられました。とてもうれしいです」と喜んだ。ベネチア映画祭には9度目の参加の塚本監督だが、今回、初めて観客からの質疑応答に立ち会い「お客さまが的確で実感のこもった質問をしてくれたので、想像以上に大事なことを伝えられた気がします。今の世の中の不安とか、戦争に近づいてきているということを伝えられたし、皆さんが真剣に聞いてくださったので、とても良い時間になりました」と振り返った。
森山は「ヨーロッパの映画祭に参加したのは僕自身初めて。ベネチア国際映画祭という場所にこの作品で来られて、本当に光栄です。監督の込めた祈りやエネルギーがこれからどういう風に観客に届いていくのだろうと楽しみでもあります」と語り、塚尾は「自分が出ている映画を多くの方が観てくれていると思うと、すごくうれしい気持ちでいっぱいです!」と語った。
「ほかげ」は、塚本監督が自ら脚本も手がけたオリジナル作品。10月2日スタートのNHK連続テレビ小説「ブギウギ」でヒロインを演じる趣里にとって「ほかげ」は18年の「生きてるだけで、愛。」以来5年ぶりの主演映画となる。劇中では戦争で家族をなくし、焼け残った居酒屋で体を売って生きる女を演じた。喪失感にさいなまれる中で出会った戦争孤児との関係に、ほのかな光を見いだしていく役どころで「たくさんの心に留めておかなければならないことを教えていただいた。一瞬一瞬の感覚がいとおしく、悲しく今でも忘れられません」と振り返っている。
塚本監督は14年の「野火」と18年の前作「斬、」がベネチア映画祭コンペティション部門に出品された。同映画祭オリゾンティ部門は、新鮮で革新的な作品が選出される部門で、邦画では前回の第79回に、妻夫木聡の主演映画「ある男」が出品されている。