濱口竜介監督「悪は存在しない」銀獅子賞 黒澤明監督以来の4映画賞完全制覇わずか2年半で達成

ベネチア映画祭で審査員グランプリを受賞した「悪は存在しない」の大美賀均(左)と濱口竜介監督(C)2023 NEOPA/Fictive

ベネチア映画祭(イタリア)授賞式が9日(日本時間10日)行われ、濱口竜介監督(44)の「悪は存在しない」(24年公開)が審査員グランプリ(銀獅子賞)を受賞した。

21年に「偶然と想像」がベルリン映画祭(ドイツ)審査員グランプリ(銀熊賞)、前作「ドライブ・マイ・カー」がカンヌ映画祭(フランス)で邦画初の脚本賞を受賞しており、世界3大映画祭で主要賞を受賞。同作は昨年、米アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞しており、黒澤明監督以来の4映画賞完全制覇をわずか2年半で達成した。

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2010年代中盤から世界の映画界を席巻し続ける、濱口監督の勢いが止まらない。演技未経験の女性4人が主演した15年「ハッピーアワー」が各国の映画祭で評価されると、18年に商業映画デビュー作「寝ても覚めても」が3大映画祭コンペティション部門では初となるカンヌ映画祭に出品。そこから数えても5年4カ月で、黒澤監督以来の3大映画祭コンペ部門受賞、4賞制覇を成し遂げた。

恐るべきは達成に要した時間の速さだ。黒澤監督は51年に「羅生門」でベネチア映画祭金獅子賞、59年に「隠し砦の三悪人」でベルリン映画祭最優秀監督賞(銀熊賞)、76年に「デルス・ウザーラ」で米アカデミー賞外国語映画賞、80年に「影武者」でカンヌ映画祭パルムドール受賞と制覇まで29年を要した。ベネチアとカンヌで最高賞をとった黒澤監督と、ベネチアとベルリンで最高賞に次ぐ賞を受賞した濱口監督とは単純比較できないが、偉業であることは間違いない。

濱口監督は授賞式で「グラッツェ、サンキュー」とイタリア語と英語で感謝の言葉を述べた。「金はとりたかった?」と聞かれると「本当に少しもないというのが正直なところですね。コンペに選ばれるとも思っていなかった」と即答した。今回の企画は「ドライブ・マイ・カー」で音楽を担当した石橋英子氏に依頼され、音楽ライブ用の映像制作を進める過程で長編劇映画として完成。「始めた当初は海のものとも山のものともつかないような企画。ここまでたどり着けたことも奇跡的」と振り返った。

同作はコロナ禍で経営難の芸能事務所が補助金を得て、地方の村にグランピング施設建設を計画も、自然や生活を破壊しかねない計画で村民が反発。物別れに終わった中、仲介役を頼まれた村の何でも屋の親子の暮らしに影響が及ぶ物語。

濱口監督の作品は、普通の人の繊細な心の動きを細やかに描くのが1つの色だが、自然と向き合う人間という社会性の高さを織り込んだ部分が新機軸となった。「本当に一番、いいものをいただいた。自分たちにとって、これ以上の結果はないんじゃないか」。謙虚すぎる受賞の言葉の先に、まだまだ限界は見えない。

◆濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ)1978年(昭53)12月16日、神奈川県生まれ。08年の東京芸大大学院映像研究科修了制作「PASSION」が、サンセバスチャン映画祭(スペイン)に出品。15年「ハッピーアワー」が、ロカルノ映画祭(スイス)など複数の国際映画祭で主要賞を受賞。企画と共同脚本を務めた20年「スパイの妻」で、東京芸大時代の師・黒沢清監督がベネチア映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞。昨年のベルリン映画祭でコンペティション部門審査員。