「世界一」ガリチュウ福島善成に聞いた米セレブ人気「柔術」魅力、ストレス解消やダイエットにも

ワールドマスター柔術選手権の金メダルを手に笑顔を見せる福島善成(撮影・相原斎)

<ニュースの教科書>

お笑いコンビ、ガリットチュウの福島善成(46)が先月、米ラスベガスで行われた「ワールドマスター柔術選手権」で優勝しました。この大会には俳優の岡田准一(42)と玉木宏(43)も参加していて、芸能界に広がる「柔術ブーム」が浮き彫りになりました。多くの米セレブもトリコにする柔術の魅力と効能とは? 「世界一」となった福島に聞きました。【相原斎】

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福島が優勝したのは「マスター4青帯ライト級」です。30歳以上のマスター・クラスは5歳ごとに区分され、45歳の福島は「4」。経験と練度を示す帯には白・青・紫・茶・黒の5段階があり、年齢とこの帯に、体重を加えてカテゴリー分けされています。ライト級は76キロ以下で、ボクシングでいえば、ほぼスーパーミドル級に相当します。

-まずは優勝の感想を

福島 昨年は3位で、この1年の目標が優勝でした。全日本、アジア選手権で優勝し、段階を踏んでの挑戦だったんですけど、大会1カ月前に岡田准一さんと玉木宏さんの参戦が決まって、僕の話題はきれいに消え去りました(笑い)。アイツいたの? という雰囲気の中で、ここで負けたらホントに「無」になると、実は前夜は一睡もできませんでした。で、当日。(別のクラスの)岡田さんと玉木さんがそろって1回戦を勝ち進み、もう、プレッシャーはハンパなかったですね。それが逆に良かったんでしょうか。準決勝までは1本勝ちで進み、決勝も完勝でした(笑い)。すべてから解放された感じで、ホントうれしかった。

-高校までは柔道をされていましたね(2段)。柔術を始めたきっかけは

福島 3年前、コロナ禍で仕事が激減したときに、クインテッド(寝技格闘技)を見て、これならできるかもと思ったんですね。で、しばらくはノーギ(柔術着をつけない)のルールで、小さな道場を転々としながらやってみて、いけそうな感触があったんです。でも、クインテッドを旗揚げした桜庭和志さん(54=総合格闘家)とエキシビションで対決する機会があって、当たり前ですけどボコボコにされちゃったんですね。それが悔しくて、野良柔術家としていろんなところで練習を続けたんです。そんな時、ワールドマスターという大会があることを知り、カテゴリーも分かれているので、自分の位置で優勝を狙うのも面白いかもしれないと思ったわけです。で、野良の状態では大会に出られないことを知って今のトライフォース(柔術アカデミー本部)に入ったのが21年の11月でした。ルールを覚えるところから始めて、明けて1月には青帯をいただきました。

-青帯までは年単位を要すると聞きますから、よほど才能があるんですね

福島 ま、それと根性ですかね。次の月には全日本マスターで優勝しましたから(笑い)。

-福島さんが所属するトライフォースには全国に約50の支部があり、下は3歳から上は60代後半までがレッスンに参加していると聞きます。米国では約300万人、日本でも3万人を超える愛好者がいる柔術の魅力はなんでしょう

福島 米国ではサーファーよりモテるそうです(笑い)。(愛好家の1人)マーク・ザッカーバーグ(39=Facebook創始者でメタ社CEO)が言っていたんですけど『もう走るのはやめた。柔術こそが脳のデトックスで最高のスポーツだ』と。走っていたら、よけいなことを考えちゃうじゃないですか。夫婦間のわだかまりとか、仕事の不安とか…。柔術は関節の取り合いや締め合いで、やられれば痛いし、苦しい。要は『殺し合い』なんですよ。他のことを考える暇なんてないんです。テストステロン(筋肉や骨量の増加、幸福感などに関与するホルモン)は男同士が組み合った時に一番出ると言われます。ベンチプレスとかではそんなに出ませんから。ザッカーバーグのように多忙な人でも短時間で効率よく鍛えられるわけです。

-現代人のストレス解消に最適というわけですか

福島 僕自身がっちりハマった頃は、コロナ禍で仕事が減り、嫁も家にいて夫婦げんかが増えて…という状況でした。柔術行ったら約1時間、相手を倒すことだけを考える。ワザとワザの組み合わせも無限大にある。だから、心身の疲労がすごくて変なことを考えるスキがなくなる。夫婦のわだかまりもいつの間にか解消するというわけです。

-柔術愛好家の2割は女性と聞きます

福島 実際に試合に出る人は男女ともに約2割で、体幹が鍛えられてダイエットに効果があるから通うという人が多いようです。しっかり続いている人はどんどん痩せていきますし、バランスいい筋肉がつきますから、みるみるいい体になっていきますね。集中力がハンパないので、僕の場合始めてからの3年間で体重が30キロ落ちましたから。確かにダイエット効果はありますね。

-今後の目標は

福島 (「ヴェノム」などで知られる俳優の)トム・ハーディと戦いたいです。強いって聞いてます。帯は1つ上の紫で体重も近いんです。彼に勝って「芸能人世界一」になりたい(笑い)。ハーディは次期007役とも言われてるじゃないですか。柔術でいい試合すると、互いの強さとかいいところが分かるんで、仲良くなれるんですよ。だからそのコネで3分で死ぬ役でいいから007映画に出してもらえたら、と。

■ルーツと発展

安土桃山時代の刀狩りで、武器を持てなくなった農民が素手で戦うために始まったのが「古流柔術」と言われます。後に柔道、合気道、日本拳法の源流となりました。

現在ブームとなっているのは、時代を下って生まれた「ブラジリアン柔術」です。福島が優勝したワールドマスター柔術選手権も国際ブラジリアン柔術連盟の主催でした。

ブラジリアン柔術のルーツをたどると、初代講道館長、嘉納治五郎の薫陶を受け、柔道「三羽がらす」と呼ばれた前田光世(1941年=昭16=62歳没)に行き着きます。彼が14年にブラジルに渡り、カーロス・グレイシーに伝えたのが始まりと言われます。グレイシー一族はその後80年の間に改良を重ね「グレイシー柔術」を確立しました。93年に米国で開催された総合格闘技イベント「アルティメット大会」で、ホイス・グレイシーが圧倒的な強さで優勝したことで格闘界の注目を集めました。

日本でも97年10月に開催された総合格闘技イベント「PRIDE1」で、高田延彦に圧勝したヒクソン・グレイシーの強さが「グレイシー一族」を印象づけました。

この頃から「グレイシー柔術」は「ブラジリアン柔術」として認知され、ルールも整備されました。投げ技、抑え込み、関節技、絞め技によって勝敗が決められ、打撃による攻撃は禁止されています。

この打撃の禁止がハリウッドセレブや日本の俳優、さらには女性にも入りやすい要因となり、護身術、エクササイズとして広く普及することになりました。

■ハリウッドスター!! グーグル社福利厚生

米国では実業家のザッカーバーグ氏の柔術愛がよく知られています。一時はX(旧ツイッター)を経営するイーロン・マスク氏(52)との格闘技対決も話題になりましたが、福島も語ったようにその思いは真剣で、最近では「もしイーロンが本気でないなら、もう先へ進むべき時だ。私はこのスポーツに真剣に取り組む人との対戦に集中する」とSNSに書き込みました。

競技としてだけでなく、米国では体を鍛えるエクササイズとしてすっかり定着しています。あのグーグル社も福利厚生としてプログラムに取り込んでいるほどです。

アクション・シーンのためのトレーニングからハマったハリウッドセレブも多く、ニコラス・ケイジ、ジェイソン・ステイサム、メル・ギブソン、キアヌ・リーブス、ガイ・リッチー監督…と挙げればきりがありません。女性もミラ・ジョボビッチ、スカーレット・ヨハンソン…と主演級が愛好家に名を連ねています。

日本では、残念ながらともに2回戦敗退となりましたが、岡田准一が「マスター3茶帯ライトフェザー級」で、玉木宏が「マスター3青帯フェザー級」で、福島とともに最高峰の「ワールドマスター柔術選手権」に出場しました。上から2番目の茶帯というところが、他にもさまざまな格闘技を習得し、日本のアクションをリードする岡田らしいと言えるでしょう。

他にも木村拓哉、品川祐(品川庄司)、鈴木拓(ドランクドラゴン)、中村アン、菜々緒、すみれ、東あずさらが知られています。

◆福島善成(ふくしま・よしなり)1977年(昭52)10月6日、熊本生まれ。98年、熊谷茶とガリットチュウを結成。バラエティー番組でパイナップルつぶしを披露する怪力の持ち主。多数のモノマネレパートリーを持ち、日常の光景やサスペンスドラマの1シーンネタなどが得意。

◆相原斎(あいはら・ひとし)1980年入社。文化社会部では主に映画を担当。黒澤明、大島渚、今村昌平らの撮影現場から、海外映画祭まで幅広く取材した。著書に「寅さんは生きている」「健さんを探して」など。97年の異種格闘技「ヒクソン・グレイシーVS高田延彦」は鮮明に覚えている。ヒクソンが戦いに臨む決意を、勝つか負けるかではなく「生きるか死ぬか」と語ったのが印象的だった。