アリスのリーダーでシンガー・ソングライターの谷村新司(たにむら・しんじ)さん(本名同じ)が10月8日、亡くなった。74歳だった。16日、所属事務所が発表した。
葬儀は親近者のみで15日に執り行った。3月に腸炎により手術を実施。6月に開催予定だったアリスの全国ツアーなどに向けて療養を続けていたが、かなわなかった。ソロでも代表曲「昴-すばる-」を生み出したほか、山口百恵さんの「いい日旅立ち」などを提供するなど、非凡なヒットメーカーがまた1人、この世を去った。
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谷村さんの音楽の根底には「和」がある。母親は長唄の三味線奏者。姉は幼少から地唄舞を習い、中学で名取となった。家には常に三味線の音が流れ、お弟子さんが出入りした。
詞を書き始めて「子供のころから無意識で身に付いた世界がある」と気づいた。「鳶(とび)色のひとみに…」(「君のひとみは10000ボルト」)の鳶色は赤暗い茶褐色。代表曲「群青」は深い青紫色で、いずれも日本の伝統色である。生活の中にあった着物の色彩感覚が、洋楽にはない感性を磨き上げた。
詞だけでなく、メロディーも独特。かつて「アリスのころ、メジャーヒットが1曲出ると、そういうサウンドのグループなんだとみんな思う。でも、自分たちは違うサウンドもあるよ、ということをいつも伝えたかった」。ロック調の「チャンピオン」もあれば、フォーク調の「帰らざる日々」もある。「その時々に見える色は一色ですけど、時が流れると、何十色もあるように表現できれば」。
「サライ」は「家」を意味するペルシャ語だが、日本人の郷愁をそそる名曲だ。「いい日旅立ち」もそうである。名曲「昴」は世界的なスタンダードになった。「歌は発表した瞬間から自分だけのものではなくなる。聞いてくれた人たちが自分の歌だと思ってくれれば幸せ」。その思い通りの、音楽人生だった。【笹森文彦】