<「くるりのえいが」佐渡岳利監督に聞く1>
ロックバンドくるり初のドキュメンタリー映画「くるりのえいが」が、13日から全国の映画館で3週間限定公開&デジタル配信されている。くるりが4日にリリースした14枚目のアルバム「感覚は道標」を制作する過程に密着。ボーカル&ギター岸田繁(47)とベース&ボーカル佐藤征史(46)が、02年8月に音楽性の違いで脱退したドラムの森信行(48)に声をかけ、3人で新たな楽曲を作る日々を、克明にとらえた作品となった。佐渡岳利監督(57)に製作の舞台裏、音楽性を含めた、くるりへの思いを聞いた。 【村上幸将】
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くるりは、1996年(平8)9月ごろに立命大の音楽サークル「ロック・コミューン」で結成し、98年に「東京」でメジャーデビューした。「くるりのえいが」は、岸田と佐藤がオリジナルメンバーだった森に声をかけ、静岡県伊東市の伊豆スタジオで約1カ月、合宿して行った「感覚は道標」のレコーディングに密着。結成当時のプロモーション映像も絡めながら、なぜ今、また3人での曲作りを選択し、どのように新アルバムが生み出されていったのか、創作の裏側と秘密に迫った。
-映画製作のきっかけは?
映画を、お作りになられたいというお話があって。今回は、曲作りにフォーカスしたいというお話で。
-こだわった点は?
バンドを20年以上やって築き上げてきた…もちろん、作品はいろいろな、豊かなバリエーションがありますけど、そこに1本通った、くるりというバンドの足跡は、きちんと(撮影し、映画に)できた方がいいと思って。くるりというバンドの、基本的な方向性とは、ずれないようにしたいなと思っていました。
佐藤は劇中で「4、5年前から、森さんがいた当時から作っていたような曲をレコーディングする機会が増えてきた。いろいろ巡って、そういうもんが、いいなと思える時しか出来ないことやと思う。お互いが、それぞれ離れた中で、どんなことが起こるか楽しみになっていた」と、森と再び楽曲制作する思いを語った。岸田も「元々が3人編成。曲が生まれたりする瞬間…0から1にするための1番、基本的なピースが、この3人ちゃうかな。それが欲しかった」と語っている。一方で、佐藤は「すごい悪い言い方をすると、焼き直しかも知れないですけど、自分たちは普段、焼き直しみたいなことはやらない。20年経ったことで、前向きに焼き直しみたいなことができたような曲もあると思うし、それがすごい良かった」とも語っている。
-焼き直しをしたことがないというバンドが、結成から20年で初めて、かつてのオリジナルメンバーを招いて楽曲制作する姿を、どういう思いで撮った?
やっぱり、ドキュメントといっても、いろいろあるので…。でも、編集が入る以上、それは本当のドキュメントでは、当たり前ですけど、ないですよね。だから、編集した段階で、1回、ハサミが入っただけで、僕の感覚が入ってしまっています。だから、なるべく現場にいた人たちが「こういうレコーディングだったよね」って思ってもらえるような。「こういう感じじゃ、この空間はなかったな」となってしまったら、価値がなくなってしまうので。そのあたりは1番、心がけましたね。
-くるりは、非常にバリエーションに富んだ音楽性をはらみ、張っている音楽的なアンテナの範囲も広く、かつメンバーが個々の活動をしている。監督にとって、くるりとはどういうバンドか?
すごく上質な音楽を作っているイメージが何となく、皆さんにはあると思います。何で、そう感じるのか? というのは、僕も知りたいなと思っていました。それを、見てくださる方に提示できれば良いと思いました。長い時間、一緒にいた時に、確かにおっしゃる通り、創作する作品にとって、やっていることが全然、違うんだよね。だから…一概に言えないんですよ。でも、大事にしている根っこの部分は、常に変わらないものがあると思うんですよ。今回は、こういう作り方…たまたま最初の3人でやるのが、今回の作品に対してはベストだから、やったという。そこに彼ららしい音楽の向き合い方が、あると思うんですね。だから「くるりの映画」ってタイトルですけど、スタイルは2022年、23年を切り取ったものに過ぎないが、彼らの映画になっている、という感じって言って良いのかな。
-くるりは、その時代、時代を生きるバンドで一見、時代によって変わっているように見える面があるのかも知れないが、音楽が好き、ということが通底しているのでは?
そうですね。見てくださる方、それぞれの受け取り方があると思うんですけど、言い方が違うけど、恐らくは、そういうことなんだと思うんです。
-製作で気を付けた点は?
要素が、すごく少ない作品なので。基本的には、レコーディングと曲作りじゃないですか? だから、ある種、単調になってしまうかも知れないリスクを、どう回避するか、ということですかね。
本編が始まって3分の1あたりで「東京」の歌詞について語り合う一幕がある。岸田が「もう1回、聞くけど『東京』の歌詞だけ違う。より具体的に…」と問いかけたのに対し、森が「そういう話とか、俺たち絶対してきいひんかったやん。歌詞がどういう意味とか、いちいち聞かへんやんな」と返す。そのあたりから展開が大きく動いていく。
-途中まで一見、単調にも見えた展開が、森が吐露した場面から劇的に動き出していく。単調さを崩したとも言える場面は、計算して入れ込んだのか?
だが、しかし(単調さを崩して)事実から、ずれてしまっては良くないので…。計算というか、撮ったのは、レコーディングの順序通り。時間軸とズレていないですから。全く、100%(時間軸が)行ったり来たりしていないか? と言ったら、あれですけど…ほとんどないですね。
映画の終盤で、くるりと20年ぶりに制作をともにした森が、今のくるりの印象を語ったシーンがある。
森 例えば、佐藤君が歌を取った時「テイクが絶対、こっちの方が良い」と言うジャッジとか、委ねる岸田繁…という感じが新鮮。3人でやっていることは同じなんですけど、ジャッジ力、客観力が付いた上での初期衝動があるかな。くるりっぽさって、変化していくことに貪欲なこと。だから今回、僕が入ると元に戻る感じなんですけど、それも1つの変化なのかな。くるりが今、こっちに行きたいという感じの時に、たまたま元々の(メンバーの)僕がいて、そこと偶然、合致したんかなという感じ。
-昔のミュージックビデオを見ても、くるりというバンドの中心に岸田がいることは分かる。ただ、今回の映画では、劇中で森が語った、佐藤がジャッジしている場面も意識的に入れている感じがする
意識的というか、リアルな姿を、過不足なく入れた感じです。森さんのインタビューを撮ったのも、ほとんど最後の方で。たまたま、ああいうことをおっしゃられたわけですが、僕らが撮っている時に感じたことが、やっぱり森さんもそういう風に思っていらっしゃるのだなと。答え合わせとしてありがたかったです。そういう感じでやっているんだな、というのが分かりましたからね。
2回目は、NHKエンタープライズ・エグゼクティブプロデューサーとして「紅白歌合戦」「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」など音楽を中心にエンターテインメント番組を手がけてきた佐渡監督に、アーティストを題材にしたドキュメンタリー製作へのこだわりや二足のわらじで製作を続ける思いを聞く。