枝元萌 個性的なキャラで舞台など活躍「いつか自分の脚本で公演ができたら」夢語る

独特なキャラで舞台、テレビ、映画で大活躍の枝元萌(撮影・柴田隆二)

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枝元萌(47)という女優をご存じだろうか。個性的なキャラクターで舞台、ドラマに出演しているが、最近の活躍ぶりには目を見張る。昨年は紀伊国屋演劇賞個人賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞し、9月公開の山田洋次監督、吉永小百合主演の映画「こんにちは、母さん」にも主要キャストで出演した。11月にiaku公演「モモンバのくくり罠(わな)」(世田谷・シアタートラム)に主演する枝元に話を聞きました。【林尚之】

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今年は井上ひさし作のこまつ座「闇に咲く花」、NEWS加藤シゲアキ主演「エドモン」など5本の舞台に出演し、引っ張りだこの枝元だが、最初から演劇を目指したわけではない。京都の短大を卒業後、地元滋賀県にある酒造会社に就職した。

「営業担当で、小売店を回って集金もする仕事をしていました。当時はディスカウント店に押されて、小売店が大変な時期。集金に行くと、包丁を持った店主に追い返されたこともあって、修羅場でした。まだ20歳の私は店に行くのが怖くて、実際は行っていないのに会社に出す日報に『店に行ったけれど、留守でした』と書いていたんですが、ある日、上司に呼び出されて『店はつぶれて、もうないぞ』と怒られました」

会社を1年で辞めた。雑貨店でアルバイトをしていた時に、その後の人生を決める運命の出会いがあった。

「深夜、NHKの舞台中継を見て、本当におなかを抱えて笑ったんです。加藤健一事務所公演の喜劇『パパ、I LOVE YOU!』で、こんなに面白いものがあるのかと思いました。数日後、偶然にも友達が加藤健一事務所の俳優教室のオーディションに行くと聞いたんです。私も一緒についていって、受けたら合格しました」

俳優教室では演劇にどっぷりつかった。終了後は小劇場の舞台を中心に活動を続け、05年には仲間たちとユニット「ハイリンド」を結成した。

「20代から30代は焦りしかなかったですね。バイトを1日に3つも掛け持ちしたこともありました。朝5時からファミレスのバイトに入って、夕方までやって、その後、稽古をはさんで、また別のバイトもしていました。家政婦もしたし、バイトを辞めたのは40歳の時でした」

その転機となったのは、17年のNHK連続テレビ小説「わろてんか」に藤井隆との夫婦役で出演したことだった。藤井ふんする売れない芸人の夫に代わって、一膳飯屋を切り盛りし、派手な夫婦げんかもする歌子を好演した。

「大きな役でレギュラー出演したのは初めてでした。奇跡でしたね。それまで母親は『早く結婚しろ』『孫が見たい』とか言っていたんですが、朝ドラに出てからは言わなくなりました。周りの人から『娘さんが出ていたね』と言われるのがうれしかったみたいで、孫は見せられなかったけれど、違う形で親孝行ができたと思います」

19年に横山拓也作・演出のiaku公演「あつい胸さわぎ」に出演した。シングルマザーの母と娘を主人公に、枝元は娘を思う母親の愛情を情感豊かに表現した。

「横山さんの作品を初めて読んだ時、感動して『出してください』と直談判したほどでした。会話はワクワクするほど小気味良くて、ユーモアもある。私は泣いたり、涙を流す演技が苦手だけれど、横山さんのせりふはそういう感情に連れていってくれて、自然に泣いたり、涙を流すことができました」

この舞台で、枝元は読売演劇大賞優秀女優賞を受賞した。大きな賞は初めてだった。

「受賞はうれしかったんですが、再演する時、『読売演劇大賞優秀女優賞の枝元』と書かれて、ちょっとプレッシャーでした。見る方は、どんな演技をするのか、期待するじゃないですか」

昨年は「あつい胸さわぎ」の再演とこまつ座「貧乏物語」で、伝統ある紀伊国屋演劇賞個人賞を受賞。さらに一連の舞台成果で芸術選奨文部科学大臣新人賞も受賞した。

「もう『重い、重い』ですよね。賞はありがたいですけど、自分はまだ下手くそだと思うし、できないことが多すぎるんです」

9月に公開された山田洋次監督、吉永小百合主演の映画「こんにちは、母さん」に、吉永演じる福江の友達役で出演した。初日舞台あいさつにも登場したが、並んだのは山田監督、吉永、大泉洋、永野芽郁、寺尾聰などそうそうたる顔ぶれだった。

「ものすごく緊張しました。何か爪痕を残したくて、あいさつでも頑張ったんですが、うまくいかなかったですね。撮影初日は頭が真っ白でした。撮影でも、福江が営む足袋屋を訪れて『あら、お客さん』という場面で、山田監督のOKが出なくて、何度もやり直して、1時間かかったことがありました」

11月24日初日の横山作・演出「モモンバのくくり罠」で再び母役を演じる。山奥に住み、くくり罠で鹿や猪を捕獲する原始的な生活を送り、周囲から「モモンバ」と呼ばれる母と、そんな母に反発する娘と親子の物語。

「難しい役ですよね。自然の中で生きて、自分の生き方を貫いている。私は子供がいないけれど、血のつながりだけでなく、愛情、母性で、守りたいと思えた時に家族になるのかなと思います。私も家族にあこがれて、お見合いしたことがあったけれど、ご縁がなかった。でも、今回の作品で『パパ』というせりふがあるんですが、お芝居の中で家族をやらせてもらっています」

今年6月には23歳の若手演出家が主催する舞台に出演した。

「出演者で私が最年長だったんですが、稽古で集中的に絞られて久しぶりに泣きました。『くそっ』と思ったけれど、若手演出家の意見を素直に聞ける器を持つ人間にならなければと反省しました」

演劇の世界に飛び込んで25年が経過した。インドア派で、漫画が趣味という枝元には夢があるという。

「今、漫画の映画化やドラマ化が多いんですが、私もこれは映画になると思った漫画を推薦する手紙を制作会社に送ったりしています。もう1つの夢は、自分で書いた脚本を上演すること。ハイリンドの番外公演で、短いコントのような舞台をやったことはあるけれど、いつか自分の脚本で公演ができたらと思っています」

貴重なバイプレ-ヤーの道を歩みながら、新たなステップアップを目指している。

◆枝元萌(えだもと・もえ)1976年(昭51)6月15日、滋賀県生まれ。加藤健一事務所俳優教室を終了後、05年に仲間たちとユニット「ハイリンド」を結成。舞台、ドラマなどに出演。主な出演作は舞台「闇に咲く花」「貧乏物語」「エドモン~シラノド・ベルジュラックを書いた男~」。ドラマ「鵜頭川村事件」「卒業タイムリミット」「わろてんか」など。声優としてアニメ「大王」や海外ドラマの吹き替えなどにも出演する。

◆モモンバのくくり罠 とある関西の山奥にある一軒家を舞台に、狩猟や農作など自給自足の生活を貫き、周囲から「モモンバ」と呼ばれる母(枝元)とその娘(祷キララ)を主人公に、親が形成した「家族価値」と、そこに縛られた子の生き方を見つめる物語。シアタートラムで11月24日から12月3日まで上演し、大阪公演はABCホールで12月8~10日。