前澤友作氏の宇宙旅行から2年…臆測呼んだ旅に密着 映画公開前に痛感した今、見るべき理由

ドキュメンタリー映画「僕が宇宙に行った理由」完成披露上映会に登壇した前澤友作氏(撮影・村上幸将)

衣類通販大手ZOZO創業者でスタートトゥデイ社長の前澤友作氏(48)が、21年に日本の民間人として初めて国際宇宙ステーション(ISS)に12日間滞在するまでの道のりから、帰還後までを描いたドキュメンタリー映画「僕が宇宙に行った理由」(平野陽三監督、12月29日公開)完成披露上映会が27日、東京・TOHOシネマズ日本橋で行われた。

本編が初お披露目される機会で、上映から参加し、取材した。

記者は、前澤氏が米宇宙旅行会社「スペースアドベンチャーズ」とロスコスモス(ロシア連邦宇宙局)のサポートを受け、21年5月にISSに渡航、滞在するための過酷な検査やトレーニングをしていると聞き、関係者から情報を得ては随時、報じてきた。同年12月8日午後12時38分(日本時間同4時38分)に、同氏がロシアの宇宙船ソユーズMS-20に乗り込んで宇宙に飛び立って以降は、宇宙から配信した動画、情報を得て定期的に報じ、同20日午後12時13分にカザフスタンの平原に着陸し、帰還した後に開いた会見も日本からリモートで参加。帰国後に都内で開いた会見含め、その後も前澤氏を継続して取材している。

そんな記者でも知らなかった、前澤氏の本音が映画の中で描かれていた。同氏は「宇宙でやって欲しい100のこと」と題して、無重力トイレやけん玉など、ISSでさまざまな実験を行い、宇宙から映像を配信し、地球からの取材にも精力的に応じていた。記者も、前澤氏が宇宙空間で感じた変化などを可能な限り伝えたいと思い、関係者に1日に何度も新情報がないか問い合わせていた。

ただ、前澤氏はISS滞在から数日後の段階で、ともにISSに渡航し、撮影していた平野監督が構えたカメラに向かって「(地球からの取材、リクエストで)変化、変化と言われても、あるわけないですよ。慣れてきただけ。本当に勘弁してよ」と言い放った。さらに「何か変わらないと、ダメなわけ? 宇宙でゆっくり出来る空間があると良いね」と、地球で待つメディアの期待に疲れを感じていると吐露。そのシーンを見ていて、ひたすら新たな情報や素材を求め続けたメディアの1人として、当時を振り返り、反省した。

同年12月8日午後12時38分(日本時間同4時38分)に、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられてから数分後、関係者から出発直後のソユーズの中にいる前澤氏の写真が送られてきた時も、思いのほか早く届いたことに喜び、即、速報をウェブに発信したが、それが決して、当たり前のことではなかったことも改めて痛感させられた。撮影していた平野監督は、完成披露上映会で「さすがに出発のタイミングが危険なので(カメラの)手持ちはダメ」と、ソユーズの操縦席にウエアラブルカメラのGoProを数個、設置していたと説明。その上で「何個か設置したんですけど、途中で止まったり壊れていた。(打ち上げ直後のソユーズ機内の写真を)撮って世の中に出るのが珍しいと思うので、発信できて良かった」と、撮影自体が非常に困難だったと明かした。

そもそも訓練前のメディカルチェックの段階で、前澤氏はフィジカルの強化を命じられた上、網膜の裏に水がたまっており、失明の可能性があるからと1度、不合格になっていた。平野監督にいたっては、親知らず4本に加え、根本に炎症を起こしていた1本、合わせて5本の歯を全身麻酔を受けて抜歯していた。そうした事実も映画は描き、宇宙旅行とはいえ命懸けの挑戦だった裏側を克明に明らかにしている。

当時、費用は1人数十億円と報道されたこともあり、前澤氏が億万長者だから行けたんだろうという論調や、金持ちの道楽、物見遊山だとやゆする向きも少なからずあった。ただ映画の中で、前澤氏が2007年(平19)にスタートトゥデイが東京証券取引所マザーズに上場した際、ラッカーで「NO WAR」(戦争反対)と描いたTシャツを着たセレモニーの写真を元にした、パズルを宇宙船で組み立てていたシーンを見れば、そんな論調は簡単に口に出来なくなるだろうと思えた。当該シーンで同氏は、こう語っている。

「(ISSに集った各国の宇宙飛行士は)国家の税金の一部を使って宇宙に行っている。言えることと言えないことがある。俺は宇宙に自分のお金で行っている。宇宙飛行士は(『NO WAR』とは)言えない。伝えられない何かを(自費で渡航した民間人だからこそ)伝えられるかも知れない責任がある」

世界を驚かせ、さまざまな話題、臆測を呼んだ前澤氏の宇宙旅行から、2年が過ぎた。映画の終盤でも触れているが「NO WAR」パズルを宇宙で組み上げた前澤氏をISSまで連れて行った国、ロシアが前澤氏の帰還から2カ月後にウクライナに侵攻するなど世界各地で紛争が起きている。そんな今だからこそ「僕が宇宙に行った理由」を見る意義は、あるのではないか? 少なくとも、映画館の大きなスクリーンで、多くの人がいまだ体験したことがないであろう、宇宙に包まれるような映像は、楽しめるに違いない。【村上幸将】

◆前澤氏の宇宙旅行 前澤氏は、米宇宙旅行会社「スペースアドベンチャーズ」とロスコスモス(ロシア連邦宇宙局)のサポートを受けて、21年5月にISSに渡航、滞在する日本人初の民間宇宙飛行士になるための訓練を開始。モスクワ市郊外のガガーリン宇宙飛行士訓練センターを拠点として、約100日に及ぶ訓練を行った。そして同年12月8日午後12時38分(日本時間同4時38分)に、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられた、ロシアの宇宙船ソユーズMS-20に乗り込み、宇宙に向かった。打ち上げから約6時間後の同6時48分(同10時48分)に、ソユーズはISSとのドッキングに成功した。同20日午前8時52分には帰還の途につき、ISSとのドッキングを解かれたソユーズが宇宙空間に飛び立つと、前澤氏が乗り込んだ帰還モジュールは同午後12時13分にカザフスタンの平原に着陸し、地球に帰還。元TBS記者の秋山豊寛氏以来31年ぶり2人目の日本人の商業宇宙飛行となった。

◆「僕が宇宙に行った理由」 少年時代にハレー彗星(すいせい)を見たことで宇宙に興味を抱き、「どうしても、宇宙に行きたかった」と語る前澤氏が、民間人として宇宙に行くことができることを知り、人知れず宇宙旅行プロジェクトを始動したのが15年。そこからカメラを回し始め、21年にソユーズが打ち上げられるまでに要した期間は約7年。宇宙に魅了され、夢に向かって挑戦し続ける1人の男の姿と、迫力のある音や映像の打ち上げシーン、ISS滞在中の貴重な宇宙での映像が1つの映画として描かれた。同氏のマネジャー、関連会社役員としてともに宇宙に向かった平野陽三氏(36)が、初めて監督を務め、ロシアでの訓練生活や宇宙での前澤氏の本音に迫った、臨場感あふれる映像を作り上げた。