元TBSアナウンサーで、画家に転身しドイツで創作活動をしている伊東楓さん(30)が16日から東京・東急プラザ銀座で、3年ぶり2度目の個展「サントリージャパニーズクラフトジンROKU〈六〉/~日常を旅するホテル~東急ステイpresents 伊東楓個展『人はいつまで夢を見ていられるのだろう』」(28日まで)を開催している。このほど取材に応じ、世界を舞台に挑戦する決意を語った。
明るい髪色にラフな服装。アナウンサー時代と雰囲気が一変した伊東さんだが、現役時から定評のあった画力を生かし、人生の新たなステージに真剣に向き合っている。「全て好き」という現地で描いた34作の水彩画の中でも、特に思い入れのあるのが、完成に1年を費やした、青い虎が描かれた1枚。「ドイツで私が一番、心がすさんでた時…架空請求とか、トラブルにあって、その時期に描いていた。『負けたくない』という思いが前面に出ている。動物には自分を投影していて、苦しいことがあったり、うまく物事が進まない時には、猛獣を描いている」。画家として生きていく覚悟も込めて「110万円」という値を付けたこの作品は、個展初日、知人ではなかった鑑賞者によって購入された。「ビックリです」と驚きながらも、手応えを感じている。古巣TBSの後輩や元上司も来場。子供の名前を「楓」にしたと報告してくれる来場者も現れ「実感として、応援してくださってくれる方がいるんだと知って、とてもうれしいです」と喜んだ。
渡欧直後は自分のことを「画家」と呼べず、コンプレックスがあったと話す。「自分がTBSアナウンサーだったということを隠すつもりもなく、そのゲタを履かせていただいて、今の形がある」と自覚する一方で「(絵画の)学校も行ってないし、技術をちゃんと学んだわけではないから、私を画家と呼んでいいのか、という迷いがあった」。転換点となったのは、ユニクロの現地法人に自らアイデアを持ち込み、コラボ商品が実現、ヒットしたこと。「バックボーンが通用しない中で、グローバル企業相手に。結構、自信になりました。『ああ、自分は画家なんだ』と」。今回はその作品も展示される。
個展のテーマとしている「人はいつまで夢を見ていられるのだろう」。そのベースにあるのは「自分には旬がある」という考えだという。「その分、消費するものも大きいし、自分に対する負荷も高くて、私がいつまで画家としての夢を持っていられるのか、ゴールがどこなのか分からない中で走っていることへの苦しみとか。いつも、ドイツの1人暮らしの中であります」。その苦悩を今までは隠してきたが、今回「もう見せちゃってもいい」と考えに変化が生まれた。「はたから見たらうまくいっている人に見えるかもしれないんですけど、その一方で、人との連絡を断絶するくらい、悩んで苦しい夜もある。混沌(こんとん)とした自分、それが今の私だから、それをそのまま見せてしまおうということで、今回このテーマになりました」と話した。
個展の帰国のため、久々に年を越した富山・高岡市の実家では、1日に令和6年能登半島地震に遭遇した。震度5強で自宅の一部にはヒビが入る。「地元のために何かしたい」と考えた中で思い付いたのが、ドイツで親交の深い米国人女性が運営するセレクトショップで学んだ「日本酒」との縁だ。ここでも自ら、富山県酒造組合に連絡。複数の酒蔵のお酒にボトルの絵を提供して収益を被災した酒蔵の支援にあてる、復興支援ボトルの製作も決まった。個展の会場に送られた16の酒瓶を見ると、故郷や、有事の中で協力してくれた人たちへの思いが込み上げる。「本当に頑張ろうと思う」と決意を込めた。
古典絵画などを日常的に見られる環境として「直感」でドイツ移住を選んだ。今後もタレント活動などは行わず、住民票のあるドイツに戻り、創作活動に集中する予定だ。一方で、現地で再確認したのが「日本のすばらしさ」。伊東さんは「昔の先人が作ってきた日本ブランドがある。でもその日本ブランドがもろくなってきている感覚もある」と話す。その中で目指すのは、「日本人として、これだけやれる、というのを世界に見せたい」という姿。「画家・伊東楓」として、自分と、世界と向き合っている。【大井義明】
◆伊東楓(いとう・かえで)1993年10月18日(平5)生まれ。立大文学部卒業。16年にTBS入社。同期に日比麻音子アナ、山本恵里伽アナら。担当番組は「COUNT DOWN TV」や「はやドキ!」TBSラジオ「伊集院光とらじおと」など。21年2月退社し、その後ドイツに移住。著書に「唯一の月」(光文社)。