<悼む>
紙切り芸の第一人者として知られる林家正楽(はやしや・しょうらく)さん(本名秋元真=あきもと・まこと)が21日午前6時29分に死去したことを26日、落語協会が発表した。76歳。葬儀は近親者のみで執り行われた。
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「世界で唯一の芸が消えた」-紙切り芸人さんはほかにも何人かいるけれど、現代日本ではトップ。イコール世界の第一人者だ。
今年の年賀状には、恒例の「去年のリクエストベスト10」(1位は大谷翔平)に加え、「初席は大にぎわいでした。良い年になればと願っています」とあった。今年もいい芸が見られる、と思ったばかりだったのに。
レース部にいたころ、有馬記念の企画で正楽さんに「有馬風景」を切っていただいた。突然の依頼にも、「こんな芸があることを、競馬のファンにも知ってもらえるのはうれしいこと」。高座での温和な表情そのままに、二つ返事で引き受けてくれた。
こんな縁を頼りに、仙台の東北総局赴任に際して、「伊達政宗を切ってくださいませんか。赴任先の自宅に飾ります」とお願いした。極めて個人的な依頼にもかかわらず、「有馬記念でお世話になったから」とこれまた二つ返事。
ある日の寄席。孫のために「ウルトラマン」をリクエスト。はさみを操り「難しいなあ、受けなきゃ良かった」とボヤきながらも、見事なものが…。切ること、だけではなく、話しぶりも芸になっていた。
高座で作品を見せると常に客席から「オーッ」の声が上がる。ちょっとだけうれしげに「どうも~」と言って降りる姿が粋だった。
毎年いただく年賀状で、前の年のリクエストで何が多かったのかを知るのが、正月の楽しみのひとつだった。それもなくなってしまった。まだまだ至芸を見たかった。早すぎる旅立ちが残念でならない。【元レース部長・今西和弘】
◆正楽さんの高座での決めフレーズ
その1 「何を切りましょうかって言ったら、あるお客さまが売店で買ったお菓子の袋を差し出して『これを切ってくれ』。いろんなお客さまがいらっしゃいます」
その2 「何を切りましょうかって言ったら、あるお客さまが前に出てくるなり、両手を出して『爪を切ってくれ』。いろんなお客さまがいらっしゃいます」
その3 「どうして紙を切るときに体を揺らすんだ、とおっしゃいました。(と言って揺らさずに下を向いて切り始め、しばらくして)…暗くなります」