宮崎駿監督、21年ぶり2度目オスカー「日本男児はうれしい顔見せちゃいけない」も「良かった」

「君たちはどう生きるか」で21年ぶり2度目のオスカーを受賞し笑顔をみせる鈴木敏夫プロデューサー(撮影・横山健太)

<第96回アカデミー賞授賞式>◇10日(日本時間11日)◇米ロサンゼルス(ドルビー・シアター)

宮崎駿監督(83)10年ぶりの新作長編アニメーション映画「君たちはどう生きるか」が、長編アニメーション映画賞を受賞した。03年の「千と千尋の神隠し」以来、21年ぶり2度目の受賞となった。受賞を受けて、スタジオジブリ代表取締役議長を務める、鈴木敏夫プロデューサー(75)が11日、都内の同社で会見を開いた。

鈴木プロデューサーは拍手の中、紺のパーカーととadidasのジャージ姿で会見場に登場した。宮崎監督の受け止めを聞かれると「宮崎はね、さっきまでしゃべっていたんだけど『日本男児として、うれしい顔は見せちゃいけない』と言いつつ…でも、こぼれていたんですね、喜びは」と明かした。その上で、同監督は受賞後も「心の底から喜んでいた。みんなも喜んでくれているし。興奮していました」と語った。

アカデミー賞授賞式の生中継は「彼のアトリエが側にありまして、そこで彼は待ち構えていました。僕は記者会見、その他がありますのでスタジオにいた。話したのは、電話。僕がスタジオに行く前『頑張ってください』なんて言っていましたからね」と分かれて見たという。その上で「『俺は気にしてないから』と一生懸命、自分の気持ちを抑えるように、そういう言い方をしていた。『欲しがらない』と言いながら。欲しかったんだなと。(受賞後も)緊張が続いていた。普通に『良かったです』と」と、宮崎監督の心中をおもんぱりつつ、受け止めを明かした。

受賞の際「おめでとうございます」と祝福すると、宮崎監督は「お互いさまです」と返したという。鈴木プロデューサーは「あまり感謝しない人なので。一緒にやってきて、今年は46年目。作品そのものは彼の力に負うところが多い…つい、僕は彼に対し『作品を作ってくれて、ありがとうございます』と、つい言っちゃうと機嫌が悪くなる。『2人で一緒にやったじゃないか』といつも言われて…ようやくこの年になって、それを受け入れられるようになった」と、やりとりの裏側に流れる心情を説明した。

質疑応答の中で、宮崎監督からは表にコメントを出すことはないのか? と質問が出た。鈴木プロデューサーは、宮崎監督が13年9月6日に都内で引退会見を開いたことを踏まえ「『もう、2度と作らない』と大記者会見、やったじゃないですか? あれ、すごい反省しているんですよ、本人は」と、同監督が引退会見を開いたことを反省していると明かした。

「君たちはどう生きるか」は、宮崎監督が鈴木敏夫プロデューサーに16年7月に企画書を渡し、新作長編の準備に入った。17年5月には「『引退撤回』を決断し、長編アニメーション映画の制作を決めました。年齢的には、今度こそ、本当に最後の監督作品になるでしょう」と製作スタッフを公募。同監督は、同年10月に都内の早大で故半藤一利さんと対談した中で「題名を、そのまま勝手にもらって、しかも本が映画の中で主人公にとって意味のあるものになる」と、一部の情報のみ自ら“暴露”していた。

鈴木プロデューサーは「今回、作る時だって、僕はやりたがっているのは何となく、分かっていたんですけど知らん顔をしていたんですけど」と、宮崎監督が製作を持ちかけてきた当時を振り返った。その上で「『みっともないのは分かっている。本当にみっともないんだけどもう1本、作りたい』って言ったんですよ」と、同監督が新作を作りたいと持ちかけてきた最初の言葉を明かした。同監督が、そうした発言と同時に「もう、世間には出ません」と告げたという。

鈴木プロデューサーは「これは本心だと思うんです。一生懸命、皆さんの前で、いろいろご説明してもね…結果としてにウソになってしまうわけでしょ? その愚行は繰り返したくないので、本人としては、この気持ちだと思う」と、宮崎監督が基本的には表舞台には立たないであろうと示唆。「(対外的なアナウンス、コメントの発表は)僕が引き受けている次第」と、自身の立ち位置について、改めて説明した。

宮崎監督の近況を聞かれると、鈴木プロデューサーは「映画(の製作)が終わって約2年、たつんですけど『パノラマボックス』という展示するものを作っている。その絵を描き続けている」と語った。「パノラマボックス」とは、三鷹の森ジブリ美術館等に展示しているもので「息子の宮崎吾朗君の発注で、自分の作ってきた作品を1こ、1こ、そこにまとめています。今後、彼の作ったパノラマボックスが、いろいろなところに出ていくと思います」と語った。

会見では、今回の受賞を記念して英語吹替版の日本語字幕付き上映が20日から日本全国で公開されることが発表された。23年12月8日から米国とカナダの2205館で公開された。公開初日から同10日までの3日間のオープニング興収(先行上映含む)で約1280万ドル(約18億6000万円)を記録し、全米週末興行収入ランキング1位を獲得。北米の週末興行収入ランキングで日本映画が1位を獲得したのは、1999年「劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲」、22年「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」以来3作品目だが、漫画や小説などの原作がないオリジナル作品としては初の快挙。

声優陣も、クリスチャン・ベール、デイブ・バウティスタ、ジェンマ・チャン、ウィリアム・デフォー、カレン・フクハラ、マーク・ハミル、ロバート・パティンソン、フローレンス・ピューなど豪華な英語吹き替え版キャストが大きな話題を呼んだ。日本語字幕は、英語セリフを翻訳したセリフではなくオリジナル台本のセリフを使用している。

◆「君たちはどう生きるか」 牧眞人は東京に住んでいたが、戦争が始まって3年目に街が戦火に包まれ入院していた病院が焼かれて母が亡くなってしまう。4年目に東京を離れ、疎開した先で出迎えにきた母そっくりの女性ナツコが、父との間の子を身ごもっており、新たな母になると伝えられる。複雑な心情を抱えつつも、眞人は新しい家に通され、自室のベッドで寝ているうちに母の夢を見て、涙し、目覚めると、家の近所に建つ古い塔に入り込んでいく。主演は俳優山時聡真木村拓哉、菅田将暉、柴咲コウ、あいみょん、木村佳乃、竹下景子、國村隼、大竹しのぶ、小林薫、火野正平、滝沢カレン(31)阿川佐和子らも出演。主題歌は米津玄師の「地球儀」。

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