「浪花のモーツァルト」こと、作曲家キダ・タロー(本名・木田太良=きだ・たろう=)さんが14日午前6時13分、大阪府内の自宅で亡くなった。15日、所属事務所が発表した。93歳。在阪テレビ各局のテーマソングや「かに道楽」などのCMソング、坂田利夫さんの出ばやしなど実に数千曲を手がけ、毒舌トークも人気だった。葬儀・告別式は、近親者のみで終えた。
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「書いた曲が、全部で何曲あったのか、自分でもわかりませんねん」と笑顔で話していたキダ・タローさん。「浪花のモーツァルト」の音楽人生を陰に日向に支えていたのが、妻の美千代さんにほかならなかった。もともと歌手だった美千代さんにキダさんが猛アタックし、結婚。妻がいなければ何もできないダメ亭主でもあった。
「家に帰ったら、パジャマに着替えて、コンピューターゲームにかじりつきっぱなし。1歩も動かずにビールをグビグビ飲んでるんですのよ。まあ、熊みたいですわ」
夫婦そろってインタビューさせてもらった際、美千代さんはあきれたような表情で夫をみやった。そのときもキダさんはにこにこ。目を細めて妻にやさしい視線を向けていた。
美千代さんを愛するあまり、誤解から警察ざたになったことがある。その夜、東京出張に出ていたキダさん。ホテルから自宅に電話して、愛妻の声を聞こうとしたが、何度コールしても出ない。携帯電話のない時代。自宅の固定電話に何度かけても、どれだけ待っても出なかった。
「これは何か事件に巻き込まれたのに違いない」「誘拐されたのかも」と不安はどこまでもふくらみ、心配で仕方ないキダさん。
次の瞬間、意を決して警察署に電話をかけた。「もしもし、うちの嫁はんが電話に出ないんですわ。こんなことは今までなかった。とんでもないことが起こったのに違いない。自宅は●●町の●丁目です。急いで嫁はんを助けてください」と警官に出動を要請した。
冗談でもなく、妻が電話に出ないことでキダさんはパニックになり、警察が動いた。結局は美千代さんがたまたま外出していただけのことで、本人は捜索願が出されているとは想像もしなかった。
そこまで美千代さんを愛し、美千代さんに頼り切っていたキダさん。
横山ノックさん(漫才師、元大阪府知事)、大橋巨泉さん(タレント)とキダさんは、いずれも昭和ひとけた生まれ。同じように戦後の芸能界をたくましく生きてきた。もうひとつ共通点がある。3人とも若いころ、信頼していたマネジャーにあり金を持ち逃げされ、一文無しになった経験があった。腕一本で稼いだ大金がパーになったが、そこから再び、ど根性で這い上がってみせた。まさに昭和の芸能界だった。【芸能担当=三宅敏】