大ヒット作「ラストマイル」にはまだまだ秘話が! 藤本賞授賞式で明かされたこと

前列左から塚原あゆ子監督、新井順子氏、野木亜紀子氏、後列左から安田淳一監督、押山清高監督、大山良氏(25年4月16日、東京パレスホテルで)

<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>

映画全盛期を代表するプロデューサー、藤本真澄氏(79年68歳没)の名を冠した藤本賞は、映画製作者を中心に表彰。数ある映画賞の中で異彩を放っている。

小学生の頃に見た初期の「ゴジラ」シリーズの伴映作が、決まって加山雄三主演の「若大将シリーズ」だったので、その製作者だった藤本氏の偉大さを身をもって知るぎりぎりの世代である。

他に森繁久弥の「社長シリーズ」に代表される多くの娯楽作品の他、世界的評価の高い成瀬巳喜男監督と組んだ「浮雲」など、振り返れば、その幅広さ、それぞれのクオリティーの高さに改めて感服する。

44回を数えるその藤本賞の授賞式が先日、都内で行われた。

藤本賞には「ラストマイル」の製作陣。TBS系で放送された「アンナチュラル」(18年)と「MIU404」(20年)と同一世界で展開するサスペンス作品で、ドラマを担当したプロデューサーの新井順子氏、脚本の野木亜紀子氏、塚原あゆ子監督の3人がそのまま関わったことで、なしえた映画だった。

「興行成績59・6億円」には改めて驚かされるが、受賞コメントでは、このメガヒット作品の秘話も明かされた。

「ラストマイル」でバイク便の青年を演じた望月歩は、「アンナチュラル」第7話の中では、いじめの復讐(ふくしゅう)のためにネット中継で世間を騒がせた高校生にふんしていた。つまり同一世界の中で成長しているわけだ。ドラマの中では法医・中堂(井浦新)から「許されるように、生きろ」と諭されていたが、年を経て「更生した姿」を見せたことになる。

野木氏は「脚本を書いていると、その後が気になるキャラクターってあるんですね。そんな思いを実現することができました。演じた望月クンは実は免許を持っていなかったので、この映画のために原付免許を取ってもらったんですよ」と明かした。そんな「隠し味」がドラマファンの心をくすぐったのだろう。

「ラストマイル」は昨年11月に亡くなった火野正平さんの遺作映画ともなった。

塚原監督は「火野さんから『映画はやりすぎるなよ。やりすぎると面白くてやめられなくなるから』と言われたことを思い出します。『まあ、思うがままに進めばいい』とも。いただいたお酒はもっといい仕事ができた時に飲みたいと思います」と涙ぐんだ。

劇中の軽妙な演技とともに、ワイドショーを賑わせたころから変わらなかった火野さんの「人たらし」の一面を思い出した。

特別賞には「ルックバック」。アニメーターでもある押山清高監督は58分の作品の半分を超える350カットを自ら手がけた。

押山監督は「僕はアニメーターなので藤本賞をいただけるとは思っていませんでしたが、製作に関わることで、やりたいことができました。例えばジブリ作品に関わらせてもらっても1人のアニメーターができるのは50、60カットです。だから自分の作品では可能な限りやってみたかった。ちょっと自分を追い込みすぎたかもしれませんが」と笑った。

企画・プロデュースの大山良氏は「監督はスタジオに2カ月以上泊まり込みでした。5歳、3歳の2人のお子さんがいらっしゃるので、その間パパを奪ってしまって申し訳ないと思っています」と明かした。

奨励賞は「侍タイムスリッパー」。安田淳一監督は「どラッキーパンチが当たった感じです。この賞ではビジネス面を評価されたことがうれしいです。『カメラを止めるな!』の宣伝方法を徹底的に研究したことが実を結びました」と話した。

三者三様、24年の映画界の新風を象徴する受賞だった。【相原斎】