石橋静河、朝ドラ決定8年前の初主演映画で語った紆余曲折人生と俳優への思い

29日、26年度後期の朝ドラ発表会見に臨む主演の石橋静河

<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>

石橋静河(30)が、2026年後期のNHK連続テレビ小説「ブラッサム」のヒロインに決定したと5月29日、NHK大阪放送局が発表した。一夜明けた同30日付紙面に「こんな人」と題し、初主演映画「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」(石井裕也監督)公開前の17年5月に取材した際の発言、エピソードを紹介した。取材した当時、ロックバンド「A.R.B.」のボーカルで俳優の父石橋凌(68)と俳優原田美枝子(66)の次女であることを、あまり聞かれたくないという意向は聞いていた、と書いたが、取材し、かつ両親のことをあえて聞くに至るまでには前段がある。

石井裕也監督(41)の作品には、いつも深く感じるものがあり、今も継続して追いかけている。14年は、原田も出演した「ぼくたちの家族」が5月、同12月には「バンクーバーの朝日」と2作が公開されたが、その後、3年にわたり新作が途絶えていた。気になっていたところに製作、公開が発表されたのが「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」だった。

ダブル主演の1人、池松壮亮(34)は「ぼくたちの家族」で、妻夫木聡(44)が演じた長男とともに原田が演じた母を支える次男役を好演。同作を含む3作で、日刊スポーツ映画大賞とブルーリボン賞で助演男優賞を受賞。池松は「バンクーバーの朝日」にも出演しており、3度目となる石井組の参加で初の主演…作品の真ん中に立ち、どういう芝居をするのだろうと興味津々で試写に足を運んだ。

一方で、池松とのダブル主演ながら、初めて主演に抜てきされた石橋のことは当時、よく知らなかった。試写を見て、演じた役の人生を生きる息吹を全身から発するような芝居をする池松と、まだまだ粗削りながらも真っ向から対峙(たいじ)していた石橋の芝居が、胸の奥深くに刺さった。

「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」は、詩人最果タヒ氏の16年の同名詩集を、石井監督が東京で男女が出会う恋愛ものとして脚本化し、実写化。舞台は、11年3月11日に発生した東日本大震災後の東京で、石橋が演じた美香は昼は看護師、夜はガールズバーで働き、不安と孤独を抱える日々の中、池松が演じた建設現場で働く慎二と出会う。息苦しい時代で居場所を失った若い2人は、互いにぶっきらぼうながら本音をぶつけ合い、近づいては離れる関係を続ける。

石橋と原田の次女であることを知ったのは、試写を見た後のことだった。作品の担当者から取材しないかと打診を受け、取材対象が誰か言われる前に石橋の演技が印象的だったと告げると、石橋の取材を依頼するつもりだったと告げられた。話の流れの中で、石橋が両親について聞かれることに抵抗があると聞いた。一方で「試写を見て、石橋さんのお芝居そのものに引かれていて、こちらも取材の打診をしたことに尽きるのだから、そのことをご本人にしっかり伝えれば、きっと口を開いてくれるのではないか?」とも言われた。

取材当日、石橋には最初に作品の感想、芝居を見て、どう感じ、どこが素晴らしかったかを伝えた。その流れで、これまでの人生と芸能活動の歩み、公開3カ月前の17年2月に世界3大映画祭の1つ、ベルリン映画祭フォーラム部門で作品が上映され、ドイツに行った感想を聞いた。

石橋は、15歳で米国にバレエ留学し、13年に帰国後はパンの製造、劇場の案内、ケーキ屋さんなどアルバイトをしながら幾つかの舞台に出たと振り返った。「アルバイトは全部、あまり続かなかったんですけど」と苦笑いしつつも「日本のダンサーって、本当に生活が苦しくて、踊っているだけでは食べていけない。お客さん自体も少ないし、本当に芸術をやろうとしている人が1番、生きづらい場所だと感じました」と当時、抱えていたであろう思いを赤裸々に吐露。その上で「すごく面白い世界が広がっているんだけど、活動する場所がどんどん狭くなっていってしまうような感覚があって。もっと広い表現がしたい、面白いものと出会いたいと思ったあたりから邦画を見始めました」と続けた。「小さい頃、1番やりたくないことは俳優。お芝居なんて死んでもやらないと思っていた」とも口にしたが「やりたいとは思わなかったけれど、何か引かれるものがあって…」と、俳優業に踏み出した裏の思いを明かした。

そうした流れの中で、取材時間の1時間が残り10分を切った段階で、両親のことを聞いた。石橋の視線は一瞬、険しくなったが、それまでに自身の芝居について多々、話していたからか、話す中で次第にガードを下ろしていった。原田が「ぼくたちの家族」で母と子を演じた池松について何か語っていたか? と聞くと「それは、ないですけど。お母さん役だったから(池松のことを)どこか母親的な視点で見ていたのは感じるし…それは(母と池松)2人の関係ですから」と答えた。続けて、池松から何か言われたか? と聞くと「池松さんも、母と共演したことがあっても、じゃあ、あなたはどういう人なんですか? という感じで私に接してくれたので、すごく安心できました」と笑みを浮かべた。

当時、記者は映画担当を離れ、かつて日本代表を含め担当していたサッカー、事件や政治を追う社会、格闘技から、オリンピック種目まで広範囲に取材し、一定程度の専門性がある原稿を世に送り出す、ウェブ専任記者の立場にあった。よって、石橋のインタビューは紙面には掲載せず、ウェブで3回にわたって連載した。その中で、石橋を「スクリーンの中を駆け、何かにしがみつくような必死な目をしてスクリーンの中にいる」と評した。石橋も原稿に目を通し、興味深く読んでくれたと後日、関係者を通じて聞いた。

映画担当に復帰してからも、石橋のことはいつも心のどこかにあり、出演した作品の舞台あいさつ、イベントも意識して足を運び、取材してきた。朝ドラのヒロインの先輩としてアドバイスを求めると口にした有村架純(32)と初共演した、21年11月の有村の主演ドラマ「WOWOWオリジナルドラマ 前科者-新米保護司・阿川佳代-」の完成報告会。23年5月に東京・シアターミラノ座のこけら落とし公演として上演された、窪田正孝(36)主演の舞台「舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド」の公開ゲネプロなどなど…。それぞれ、取材と執筆のメインターゲットは主演ながら、石橋の発言等々についても、必ずと言っていいほど紹介してきた。

ファーストコンタクトから、8年…。ついに国民的俳優へと上っていくであろう階段に一歩、足を踏み出した石橋に、改めて話を聞いてみたい。撮影が忙しくなる前に時間を取って、今、何を思い、感じているのかを…。思いを真っすぐに放り投げてくるようで、瞳の奥は壊れそうなガラス細工のように繊細な光をたたえている。そんな石橋と、また向き合ってみたい。【村上幸将】