<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>
仲代達矢(92)が常々「第2の故郷」と呼ぶ石川・能登での無名塾公演「肝っ玉おっ母と子供たち」を取材した。5月29日に稽古を一部公開し、同30日に初日の幕が開いた。
これまで何度か取材して思ったことの1つは、仲代の本番へのギアチェンジがすごいなということだ。前日稽古で、もう完成されているのではと感じても、本番を見るとさらにその何倍ものパワーを感じる。たとえば声量について言えば、初日の数カ月前、稽古場での本読み稽古を取材させてもらった時からよく響く声にうっとりしたが、公開稽古ではさらに声が出ていると感じ、本番ではその1・5倍増しくらいになっていた。
稽古で力を温存しているという感じではない。無名塾の後輩たちは常に、仲代のハンパない稽古量を語っており、常にできる限りで臨んでいる。それが本番になると、本番の力なのか、観客の力なのか、劇場の雰囲気なのか、もう1段階何かが変わる。それが役者というもの、と言われるとそうなのかもしれないが、ものすごく如実に感じるのだ。
今回の公演は、24年元日に起きた能登半島地震の復興公演として上演された。劇場も大きな被害を受けたため約7カ月延期し、ようやく上演に至った。
同作は軍隊に付き従い商売する主人公アンナの、たくましくもかなしい姿、登場人物それぞれの平和への願いを描いた反戦劇。冒頭、印象的なシーンがある。ステージ後方の大扉が開くと、アンナ一家が幌(ほろ)車に乗って、向こうに見える森の中から登場する。
能登演劇堂は、自然の風景が取り入れられる大扉が特徴。劇作家、演出家で妻の故宮崎恭子さん(ペンネーム隆巴=りゅう・ともえ)さんと同演劇堂を監修する時、自然と一体になる劇場を作りたいという思いを実現した。
劇場のあちこちが地震で被害を受けたが、大扉の被害が深刻だったそうで、軸が曲がり開閉が困難になってしまった。劇場は今年2月に復旧し、復興公演として、大扉のシーンが欠かせない「肝っ玉-」が上演されたことは意義深い。仲代も公演前に、「久しぶりに第2の故郷の能登に帰って来て、皆さんに見ていただくということはとても幸せなこと」と話した。
初日の公演では、大扉が開くと、わぁっという歓声が起こった。森の中から幌車が現れると、観客が一気に物語に引き込まれていく雰囲気を感じた。
仲代のパワー、エネルギーと、能登演劇堂にしかない舞台機構や空気を感じた。公演は6月22日まで行われる。【小林千穂】