河瀬直美監督の新作「たしかにあった幻」出演の寛一郎、ロカルノ映画祭前に「諸行無常」

新作映画「たしかにあった幻」がロカルノ映画祭のインターナショナル・コンペティション部門に選出された河瀬直美監督

6日にスイスで開幕する、ロカルノ映画祭のインターナショナル・コンペティション部門に選出された「たしかにあった幻」(26年2月公開)の、河瀬直美監督(56)主演のルクセンブルクの俳優ビッキー・クリープス(41)共演の寛一郎(28)が4日、コメントを発表した。

寛一郎は「諸行無常。何かこの作品に込められたテーマのような気がしています」と作品を評した上で「この作品が世界の人に見ていただけることに喜びを感じています」と、同映画祭出品の意義を強調した。ワールドプレミア上映が15日(現地時間)に決まった。

「たしかにあった幻」は、小児臓器移植実施施設が物語の舞台。フランスからやってきたレシピエント移植コーディネーターのコリーが、脳死ドナーの家族や臓器提供を待つ少年少女とその家族と関わりながら、命の尊さと向き合う。同時に突然、失踪した恋人の迅の行方を追う姿を通して愛と喪失、希望を描く。

コリーを演じたクリープスは「映画を作る時、私は目に見えない1本の糸をたどります。夢という大きな織物に織り込まれていく糸です。今回、糸は私を屋久島の、太古の森の奥深くへと導き、そして幼い頃のやさしい心へと連れ戻してくれました。幽霊と現実のあいだの繊細な境界線を歩きながら、私は愛という謎に引き寄せられていきました」とコメントした。

迅を演じた寛一郎は「この作品は自分にとって挑戦でした。言語、さまざまな自然での撮影、新たな人との出会いで、たくさんの学びと、この現場でしか体験できない経験をさせてもらいました」と、かけがえのない作品であることを強調。その上で「そんな作品がこうしてロカルノ映画祭に招待していただいた事を光栄に思います。関わった、たくさんの人たちの努力が報われる気がします」と口にした。

撮影は、24年7月から11月にかけて大阪、河瀬監督の地元の奈良、岐阜、屋久島、パリと転々とロケをしながら行った。小児臓器移植に携わる医療関係者たちが、現在の日本が抱える臓器移植の問題点をディスカッションしたり、移植手術のシーンなどはドキュメントとして撮影され、ドラマの中に取り込む手法を採り、物語に臨場感を持たせた。

大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーなどを務める河瀬監督にとって、22年の東京五輪公式記録映画「東京2020 SIDE:A、B」以来4年ぶりの新作。ロカルノ映画祭とは、00年の長編第2作「火垂」が国際批評家連盟賞を受賞し、翌01年には「きゃからばあ」がコンペティション部門に出品と縁がある。15年「あん」でハンセン病を抱える女性、17年「光」では視力を失っていく男性、20年「朝が来る」では、無精子症で1度は子どもを持つことを諦めながら特別養子縁組という制度を知り子どもを迎え入れた夫婦をテーマに選択。社会的偏見や喪失の中で他者との関係性を通して救われる「愛のかたち」を描いてきた。

ロカルノ映画祭では、クロージング作品としての上映が決まった。「映画を本当に愛してやまないロカルノ国際映画祭の選考委員の皆さまに本年度のコンペ部門のクロージングフィルムに選んでいただきましたことを大変光栄に思います」と感謝。今作では脚本も手がけており「思い返せば『火垂』がロカルノで受賞したことは私にとってとても美しい忘れられない思い出です。25年の月日を経て、またロカルノに戻って来られたことに感謝しています」と語った。

ロカルノ映画祭アーティスティックディレクターのジオナ・ナザロ氏は「水のように、音を立てずに深く掘り下げ沈黙を恐れず、耳を傾ける映画を作ってくれてありがとう」とコメントした。

◆「たしかにあった幻」国際人材交流事業の一環で日本へやってきたフランス人女性コリー(ビッキー・クリープス)は、臓器の移植を必要とする人と関わるレシピエント移植コーディネーターとして、日本で数少ない小児心臓移植実施施設の病院でサポートスタッフとして働き始める。移植を待つ重症の小児を多く受け持つ病院では、限られた人員で必死に日々の業務をこなし、切実な状況にある患者やその家族と向き合っていた。コリーは厳しい環境の中でも、患者の家族をはじめ従事する医師や看護師、コーディネーター、保育士や院内学級の先生らと触れ合ううちに、移植医療をめぐる人々の輪の温かさを再認識していく。そんなある日、屋久島で出会い、心を支えてくれていた恋人の迅(寛一郎)が同居していた家から、何の前触れもなく消えてしまう。