俳優でエッセイストの吉行和子さんが2日、肺炎のため都内の病院で亡くなった。90歳だった。所属事務所テアトル・ド・ポッシュが9日、発表した。葬儀は故人の遺志により、8日に近親者のみで営んだ。現役の俳優のまま天寿を全うした。関係者によると、転んで腰骨を痛めるなどしていたがテレビのオファーに「状態がしっかりしたら、やりたい」と意欲を見せていたという。
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朝ドラにもなった美容師の草分け、母親あぐりさん(07年107歳没)の進取の気性に倣ったのかもしれない。
温厚でていねいな取材への受け答えからは想像しにくいショッキングな仕事ぶりに時々驚かされた。
大島渚監督のハードコア作品「愛の亡霊」では、夫殺しに至る若い男(藤竜也)との情交シーンに体当たりした。撮影当時42歳。「いい歳をして」という見方が常識だった70年代、周囲の強い反対を押し切っての出演だった。むせかえるようなエロスに圧倒されたことを覚えている。
この5年前、キネマ旬報外国映画ベスト10では10位に止まった「ラストタンゴ・イン・パリ」を1位に挙げていたから、女優が敬遠しがちなハードコア作品にも偏見がなかったのだろう。エッセーで賞を取るだけあって、何事もフラットにとらえる柔軟さがあった。
8年前のインタビューでは認知症の老女役に「最近になって興味深い役をいただけるようになった。チャンスをもらえるのが一番の幸せ」と新境地を語った。年齢を味方につけるのは男優ばかりというジェンダーの壁をしれっと越えた貴重な存在でもあった。【相原斎】