俳優でエッセイストの吉行和子さんが2日、肺炎のため都内の病院で亡くなった。90歳だった。所属事務所テアトル・ド・ポッシュが9日、発表した。葬儀は故人の遺志により、8日に近親者のみで営んだ。現役の俳優のまま天寿を全うした。関係者によると、転んで腰骨を痛めるなどしていたがテレビのオファーに「状態がしっかりしたら、やりたい」と意欲を見せていたという。
◇ ◇ ◇
最近、吉行さんはやや体調を崩し、独身であることも考慮し病院にいた方が安心という判断で入院していた。「大病もしていなかったし、寝たきりでもなかった」(関係者)が、1日朝に息が苦しくなり始め、亡くなったという。関係者は「小さい頃からあぐりさん、(妹の)理恵さんよりも体は弱かったそうです。それでも気丈に生きてきた。仕事ができる状態で、苦しまず亡くなった。良い意味で言えば、人生を全うした…それだけで、良かったんだと思います」と語った。
吉行さんは、作家のエイスケさんと97年のNHK連続テレビ小説「あぐり」のモデルとなった母の美容師あぐりさんの間に生まれた。作家の道に進んだ兄淳之介さんと妹で詩人の理恵さんは芥川賞を受賞。そんな中、吉行さんは俳優だけでなく、エッセイスト、俳人とマルチに活躍した。
中学3年の時に初めて見た劇団民芸の舞台に感激して女優を志し、同劇団に入り57年の「アンネの日記」に主演し初舞台を踏んだ。33歳で退団後は、大島渚監督がカンヌ映画祭(フランス)で監督賞を受賞した「愛の亡霊」で、日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞している。
昨年10月には映画「金子文子 何が私をこうさせたか」(来年2月公開)の撮影に参加。劇中で主人公の金子文子を自殺寸前まで追い込む虐待を繰り返した祖母を演じた。「人間がここまで残酷になれる、この役はやりがいがある」と語ったという。ピンク映画出身の浜野佐知監督は、97年の一般映画第1作「第七官界彷徨-尾崎翠を探して」に起用した際「監督が撮る映画は全て出る」と口にした吉行さんを「金子文子-」まで6作に起用し続けた。
17年には吉行さんから「とんでもない、ばあさん役がやりたいわ」とメールが届き、それが19年の主演映画「雪子さんの足音」につながった。「年なのでおばあさんの役しかこないのは分かっている。でも女性として生きてきた、それぞれの人生があるのに、考え方が一緒なのは面白くない」とも口にしたという。浜野監督は「もっと、とんでもない主演作品を撮りたかった」と別れを惜しんだ。
今年2月には映画「あなたの息子ひき出します!」(深川栄洋監督、26年公開)の撮影にも参加したという。また、他にも参加した作品があったという。まさに生涯現役を貫いた。
◆吉行和子(よしゆき・かずこ)1935年(昭10)8月9日、東京都生まれ。54年劇団民芸に入団。69年に退団後、74年舞台「蜜の味」で紀伊国屋演劇賞個人賞受賞。映画は「御法度」「佐賀のがばいばあちゃん」「おくりびと」などに出演。ドラマもNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」、「3年B組金八先生」シリーズ、「ナースのお仕事」シリーズなど数多くの人気作に出演。ジブリ映画「崖の上のポニョ」「思い出のマーニー」には声優として参加したほか、エッセイスト、俳人としても活躍。79年「愛の亡霊」、14年「東京家族」で日本アカデミー賞優秀主演女優賞受賞。21年に日本アカデミー賞会長功労賞受賞。