スペインで開催中の第73回サンセバスチャン映画祭のオフィシャルセレクションに選出された、吉永小百合(80)の主演映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」(阪本順治監督、10月31日公開)の特別上映会が20日(日本時間21日)に行われた。
阪本順治監督(66)劇中で吉永が演じた多部純子の息子真太郎役の若葉竜也(36)純子のモデルとなった登山家・田部井淳子さんの実子で、真太郎のモデルにもなった進也さん(47)が上映会場の「プリンシペ」に到着すると、上映を待つ200人ほどの観客に囲まれ、次々と写真やサインを求められた。日本公開に先駆けた世界初お披露目に、会場の262席は満席となった。
若葉は「Kaixo. I Ryuya Wakaba.(こんにちは、若葉竜也です)」と、現地のバスク語であいさつ。「日本で丹精込めて丁寧に作った映画を、こうやって世界の皆さんに見ていただくということに、とても強い思いがあります。そしてそれをかなえてくださった阪本監督、進也さん、そしてこの映画を見に来てくださったみなさんにとても感謝しています。そして、偉大なる田部井淳子さんにとても感謝しています」と語った。
上映中は母親と息子、妻と夫、姉と弟の掛け合いを中心に何度も笑いが起きた。観客と一緒に上映を鑑賞した若葉は「10代の女の子たちが本当に感激したという声をかけてくれたんです。男性の方が(劇中に登場するエピソードの1つ)ピアスのしぐさをして『フリーダム! フリーダム!』と言っていて、心にも自由のピアスを持って、みたいな意味かなと思いました」と、若い世代の観客からも力強い反響があったと明かした。「その彼も20歳くらいの若い方で、物語がちゃんと届いているという感じが、すごいうれしかったです。けっこう感激してしまいました。届いた! みたいな気持ちです。世代は関係なく、こうやって映画は届いていくんだなと思いました」と感激した。
00年に「顔」がコンペティション部門に出品されて以来、25年ぶりの参加となった阪本監督は「いろいろな国際映画祭に行きましたけど、画面を見つめる姿や背中を見ていると、何もこぼさず見届けようみたいなそういう姿勢がありますよね。それを感じました」と感想を口にした。「ちゃんと集中してもらっているなと思いました。見ている途中からこういう環境の中で、この国で見ている喜びを感じました」と喜びをかみしめた。
「てっぺんの向こうにあなたがいる」は、吉永にとって124本目の映画。女性として初めて世界最高峰のエベレスト登頂に成功した、田部井さんの15年の著書「人生、山あり“時々”谷あり」(潮出版社)を原案に、吉永は田部井さんを元にした多部純子を演じた。阪本監督とは、12年「北のカナリアたち」以来13年ぶりに再タッグを組んだ。
吉永は田部井さんと、12年にTBSラジオ「こんばんは 吉永小百合です」(日曜午後10時半)で対談。田部井さんは16年10月に腹膜がんのため77歳で亡くなったが、その3カ月前に高校生と富士山に登ったのが人生最後の登山となった。そうした事実を踏まえ、24年8月にクランクインした撮影中、79歳だった吉永が田部井さんにならい、耳にピアスの穴を開けたことも話題となった。
田部井進也さんは「03年、母がビルバオに来てハイキングしたっていう記録が残ってまして、その地域に来れたことをとてもうれしく思います」と母淳子さんが生前、サンセバスチャンと同じバスク地方のビルバオを訪問していたと明かした。「母のことをこうやって世界の方に見ていただけること、そういう作品を作ってくれた監督、演じてくれた竜也くん、本当に皆さまありがとうございます。」と感謝した。
「てっぺんの向こうにあなたがいる」では、吉永が演じた純子の青年期を、のん(32)、佐藤浩市(64)が、田部井さんの夫政伸さんをモデルにした夫の正明、正明の青年期を工藤阿須加(34)が演じた。元読売新聞記者の北村節子さんがモデルとなった、純子の山仲間で親友の編集者北山悦子を天海祐希(58)が演じた。
また、26日から韓国の蔚山・蔚州で開催の第10回蔚山蔚州世界山岳映画祭(ウルサンウルジュマウンテンフィルムフェスティバル UMFF)アジアンコンペティションへの出品も決定。28日の公式上映には、田部井進也さんが登壇を予定している。
◆「てっぺんの向こうにあなたがいる」 1975年(昭50)エベレスト山頂に1歩1歩、着実に向かう多部純子。日本時間16時30分、純子は女性として初の世界最高峰制覇を果たした。しかし、世界中を驚かせた輝かしい偉業は純子と友人、家族たちに光を与えると共に深い影も落とした。晩年、純子は余命宣告を受けながらも「苦しい時こそ笑う」と家族や友人、周囲を、その朗らかな笑顔で巻き込みながら人生をかけて山へ挑み続けた。登山家として、母として、妻として、1人の人間として、純子が、最後に「てっぺん」の向こうに見たものとは…。